大雨の翌日



 もうすぐ日付が変わろうとしている深夜。あたしは今日も勉強を怠らない。特に英語を集中的に。

 その理由は簡単で、アメリカに留学したいから。まあ、別に英語圏で仕事したいとか文化を知りたい訳じゃないけど。

「えっと、『あんたの主張を押し付けないで。それが正しいなんて思わないで。あたしはあんたを絶対に許さない。マジで殺されたいの?』 上手く言えてるか怪しいわね。ん?」

 発音の練習をしていると、スマホが鳴る。いろはからの電話だ。

「もしもし? どうしたの?」

『今日光一君とデートしたんだけど、惚気を聞いてほしくて』

「……切っていい? いいわよね?」

 待って待ってと電話の向こうで慌てる友人に、ため息を交えて分かったわよと耳を預け続ける。

「それで? どこでデートしたの?」

『どこって言うか、ただ歩いてお喋りしてただけ』

「……」

『……』

「え? 終わり?」

 数秒の間に、あたしは訊き返す。まさか、それだけのはずは……

『ごめんごめん。いざ、惚気話をしようとしたら、恥ずかしくなっちゃって』

「だったら、しようとしないでよ。惚気話なんて」

『好きな人と付き合えた事が嬉し過ぎて』

 恋愛ってこうも人を変えるものなの? まあ、あたしもそんな実体験あるんだけど。

「そう。要件が済んだなら、切っていい? あたし、勉強の途中なんだけど?」

『あ、待って。実はお願いが……』

「お願い?」

『うん、サッカー観戦のチケットってどうやって買えるの?』

 ……。

 ……。

 ……。

『ゆか?』

 いろはの呼び掛けに、停止していた思考が戻る。

 でも、

「どうしてそこに行きたいの? あんたの彼氏から誘われたの?」

『ううん。私から誘ったの』

「……そう」

 あたしはいろはがよほど変な奴じゃない限り、誰と付き合おうが構わない。応援もしている。

 だからこそ。

 だからこそあたしは、その頼みを了承した。






 

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