第9話 風呂上がり



 担任に反省文を提出して相変わらずの天気の中、学校を出る放課後。傘は今朝に折れて使えないので、全身濡らしながら歩く。それが折れてなくても、まだ強風が止む気配もないので家を出た時と同じく壊れるんだろうと思う。

『サッカー観戦に行きたいんだけど』

 いろはちゃんからのメッセージが、頭の中を何回も駆け巡る。可愛い笑みと、落ち着いた優しさ溢れる声で再生させて。

 好きな子が行きたいと頼んだ場所を、断りたくない。だが、場所が場所だけに俺は返事を打ち返せないでいた。

 サッカー観戦。いや、スポーツ観戦自体、危険な場所だと俺は理解している。

 都合の悪い結果なら怒鳴り散らすファン。選手に物を投げつけるクズ。それに耐え切れず、競技を辞めた選手が何人いるか。

 そんな人の人生を壊すほど悪意に満ちた集団の中に、いろはちゃんを放り込みたくない。

「どうすっかな」



 帰宅してすぐに風呂に入り、ドライヤーを使用せずにタオルだけで髪を乾かして二階の部屋に戻る。

 部屋の中は、ベッドと机の上にPCがあるだけで他に何もない。ただ、何かを集める趣味とかないだけ。

 そんなほぼ殺風景な部屋で、俺はベッドに腰掛けてスマホを見る。百円ショップで買った防水ケースに入れていた為、大雨の被害に遭わずに済んでいる。

 昼休みから変化のない文字。俺が何も返してないから、当然だけど。

「マジで、どう……うぉ⁉︎」

 刹那、新たに文字が映され、素っ頓狂な声が漏れる。送信してきたのは、もちろん俺の彼女だ。

『サッカー観戦嫌だった?』

 数時間ぶりのメッセージ。首を可愛い感じに傾げての台詞だとも想像出来た。

『そんな事ないよ。むしろ行きたい』

 想像出来てしまって、そう返事をしてしまった。あんな可愛い顔で言われたら、断れねーよ。

『本当? ありがとう』

 感謝の超絶笑顔すら思い浮かぶ。そして、その笑顔で俺は決意出来た。

 行ってやる。どこのサッカースタジアムか知らないが、いろはちゃんと楽しくデートしてやる。

 そんで、野次を飛ばす奴等が近くにいたら……

「どうすっかな」


 

 







 


 

 

 


 

 

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