第8話 デートの希望先



 昼休み。教室。

「終わる気がしねー」

 自作のおにぎり(海苔なし、具なし。塩で味付けのみ)を食べながら、ペンを動かす手を止めない。

 それを向かい合わせにした机の対面から「大変だな」と弁当を食べる江口と、「そうだそうだ」机の境目に椅子を置いてパンを食べる小野。

「他人事だと思ってんじゃねーよ。反省文、五十枚とかキツいって」

「停学とか退学とか逮捕にならないだけマシだろ」

 結局、担任から何かしらの反省を見せないといけないみたいな感じの事を言われ、反省文を書かされるはめになった。終わるまで帰るなとも告げられて。たかが紙に書いた程度で、クレーマーの保護者が納得するか知らないってのに。

 だが、それでも俺は反省文をとっとと終わらせないといけない。何故なら、

「いろはちゃんとのデートに、遅れる訳にいかねー!」

「こんな大雨で強風の中、デートすんの? お前の彼女さん、びしょびしょになるだろ?」

 言われて筆と、おにぎりを食う手を止める。

 確かに、いろはちゃんと交際出来た事が嬉し過ぎて、豪雨の中歩かせる危険性を忘れていた。

 俺は何て奴だ。大事な彼女の安全を忘れるなんて、彼氏としてやっちゃいけない事を……。

 自分の愚かさを悔やみ、ズボンのポケットからスマホを取り出す。そして、謝罪を込めてメッセージを送る。

『ごめんいろはちゃん。こんな大雨の時にデート誘って。別の日に変更してい?』

 絵文字を付けずに送信。だが、しばらく経っても返事が来ない。

 まさか、怒ってる? だとしたら、俺はどう謝罪を……。

 そんなネガティブな事で頭を悩ませていたが、返事がきた。俺は着信の音と同時に液晶へ目を通す。

『うん、いいよ。こんな天気だもんね。それで、いつにする? 天気次第かもだけど』

 ああ、こんな俺を気遣って。もう泣きそう。

「何で泣いてんの? 振られた?」

「振られてねーよ! いろはちゃんの優しさに感動してんだよ俺は」

 紙パックのいちご牛乳を飲む江口に怒鳴ってから、スマホに文字を打つ。

『明日の放課後はどう?』

『うん。さっき天気予報確認したけど、晴れみたいだから大丈夫だよ』

『本当? じゃあ、俺といろはちゃんが初めて出会った蕎麦屋で待ち合わせで良い?』

 そう入力してから返事が途絶える。え? まさか本当は怒って……

『うん、良いよ。それと、土曜日に行きたい所あるんだけど良いかな?』

 時間が少し空いてからの了承とお願い。俺は『もちろん。どこでも行きます!』と返す。

『ありがとう。それで、


 サッカー観戦に行きたいんだけど、本当に良いよね?』

 

 



 

 

 


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