第7話 やっぱり、それはイライラする
意気揚々と家を出る。
彼女が出来た俺を祝うように……天気は大雨だった。生き絶えたであろう蝉すら、地面に流されるほどの。
何だ? 嫉妬してんのか? 俺が可愛い子と付き合えたからって、怒るなよ天気さん。傘をぶっ壊すほどイライラすんなって。
全身びしょびしょになりながら教室に入り、ど真ん中の席に座ってリュックサックからタオルを取り出す。
「なぁ、亜良乃。お前、大丈夫か?」
髪をゴシゴシと拭う俺に、江口が話し掛ける。小野もいた。
「? 何がだ? もしかして俺が彼女出来た事、嘘だと思ってる? おいおい、真実だって」
「いや、そっちじゃなくて」
言うと江口はスマホを出し、動画を再生する。俺が、パトカーに乗せられる映像を。
「この映像、すごい拡散されてるぞ? 高校生が女の子誘拐してるって」
「そうだそうだ」
なるほど、通りでクラスの女の子達から冷たい視線が来る訳だ。しかし、それは事実ではないので、堂々とする。
「それは、間違いだからどうでもいい。それより、昨日もお前等にメッセージ送ったけど、彼女出来た。こんな幸せ者が他にいるだろうか?」
「いるだろ」
「そうだそうだ」
「おいおい、嫉妬はいけないぜ? でも、きっとお前等にも可愛い彼女が」
『一年一組の亜良乃光一君。登校していましたら、職員室に来て下さい。繰り返します。一年一組の……」
俺が誰とも付き合った事のない二人を慮っていると、校内放送で担任から呼び出された。まさか、担任も俺に嫉妬を。
「違う。この動画の事だ」
江口から見せられたのと同じ動画を、担任のPCから閲覧させられる。ってか、机散らかり過ぎだろ。
「これどう言う事か、説明しろ」
「だから、勘違いですって。警察からも間違いだったって連絡来たんでしょ?」
「ああ。だがな亜良乃? これを見た保護者というクソ共から、クレームの電話が掛かってくんだよ。それを学校側は対応しなきゃなんねーだ。その面倒を解ってくれよ」
「そう言われても。あと、口悪っ⁉︎」
棒状でコーンポタージュ味のお菓子を食べながら、頭を抱える担任。教師って大変だな。
「なあ、あれ絶対ストライクだったよな?」
朝の職員室には俺と担任、そして当然他の教師もいる。その中にいる、中年のおじさん教師二人の会話が耳を通った。
「絶対そう。完全試合目前だったのに、絶対ボールじゃねーだろ」
「しかも、二回連続でストライクコースだったのに、ボールだぜ? 俺、テレビの前で審判にぶち切れたよ。死んじまえって」
内容から察するに、野球の話だろう。ソフトボールの可能性もあるけど。
だが、何のスポーツかは関係ない。俺が好きな子と付き合えたってのに、水を差さないでくれよ。
「保護者より、クソ共なんて他にいるでしょ?」
小さな声で出した俺に、担任は「何て?」と二本目のお菓子を開けた。
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