第10話 その日



 サッカー観戦の日当日。

 俺はデートに遅れないよう夜の九時に眠り、午前三時に起床。当然、外は真っ暗。待ち合わせは午前十時だが、起きるのが早過ぎたかもしれない。

 しかし、だからと言って二度寝はしない。それで遅刻なんてしたら、いろはちゃんを悲しませる事になっちまうからな。

 よし。土曜日だってのに、せっかく早く起きしたんだ。有効活用しよう。

 ベッドから起き上がりトイレへ向かう。出す物を全て出さないと、途中で「ごめん、お腹やばい」とドン引きさせる言動をしちまう恐れがあるからな。一応、念の為に下痢止めの用意もしておこう。

 トイレの後は風呂。その後は洗顔。そして、今は台所で朝食を作っている。目玉焼きと、ウィンナーを焼いて。あれ? 飯食った後にトイレ入れば良かった気も……。

「それ、お母さんの分も作っといて」

 母親に話し掛けられる。眠そうな表情をしているが普段からなので、寝起きなのかそうじゃないのか息子の俺ですら判断が難しい。今は起きたばっかり……だよな? 

「いいけど、ウィンナー、何個焼く?」

「五個」

 言うと、母親はトイレへ入る。

 自分の朝食を作り終え、次は母親の分に取り掛かる。

 親父の分も作ろうかと考えた事もあるのだが、「お父さんの分は私が作る。私以外の料理を食べさせたくない」と若干ヤンデレっぽい事を言われた記憶があるので諦めている。

 午前四時。朝食が出来上がり、俺と母は台所の木製テーブルに対面で座る。ちなみに、椅子は四つあるが別に誰かの定位置は決まっておらず、家族三人いつもテキトーに座っている。椅子が四つなのは、買った時にテーブルとセットだったかららしい。

「いろはちゃんだっけ? その子、家に連れてきていいんだよ?」

 ウィンナーを咀嚼そしゃくしながら喋る母。

 母親といろはちゃんが出会ったのは、俺が警察に連行されたあの日。いや、その後のコンビニで交際を承諾してくれた記念日と言った方が正しいだろう。

 恥ずかしい限りだが、警察署周辺の土地勘が分からずに母親に向かえに来てもらい、一緒にいたいろはちゃんの顔を覚えたのである。

「それか、また車の中でうどんとお蕎麦を食べるデートをしていいんだよ? 私、またいろはちゃんの顔見たいし」

「あれは、コンビニにイートインスペースがなかったから」

「それなら、いろはちゃんのお家に行けば良かったんじゃない? あのコンビニの近くに住んでるんでしょ?」

「付き合ってすぐに、彼女の家に行くのは早いって。行くのにも、タイミングってものがあるんだよ」

 そんな朝の会話中に父親が起床し、食べ終えた母親が愛する夫の為にガスコンロの前に立つ。

「お父さん。朝ご飯、肉じゃがで良いわよね?」

 肉じゃがの作り方なんて知らないが、朝から気合入れ過ぎじゃね? 





 

 

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