第6話 夕食時2
警察の誤解が解けた時には午後八時を回り、流石に空は暗い。蝉は……マジかよ。一匹だけだが、まだ鳴き声が聞こえる。
そんな夜に騒ぐ不良蝉の声を耳に入れながら、警察署を出る。
ここに連れて来られたのは、女児誘拐の恐れがあるとの事。パトカーに乗せられる時に、周りの野次馬から沢山写真撮られたな。
結局誤解が解けたのは、いろはちゃんの友達が来て誘拐ではないと証言してくれてようやく解放。そして、今に至る。
「いやー、助かったよ」
「別に助けたかった訳じゃないわよ。家に警察がやって来てあんたに誘拐されそうにならなかった? みたいな事訊かれて、誤解を解く為。あたし、高校生だし」
感謝の意を伝えると、友達ちゃんはそう言って父親らしき人物がいる車に乗る。その父親にすごい睨まれた気がする。
まあ、とにかく。
容疑も晴れた事だし、帰るか。……親に滅茶苦茶怒られるかもな。
と言うか、夕食も食ってない。この辺詳しくないけど、なんか飯食える場所ねーかな。
お腹の虫を鳴らしながら歩いていると、コンビニの光が見えてそこへ向かう。
「いらっしゃいませー」
若い男性店員の落ち着いた挨拶を聞き流し、麺のコーナーにざる蕎麦がないか確認する。
あった。稲荷寿司も二つ付いてる。ちなみに、その隣に冷やしうどんが置いている。
俺はざる蕎麦の容器を取ろうと手を伸ばすと、うどんの方に伸びる手が見える。
おいおい誰だよ。蕎麦派の俺の横でうどん取るとか、きのこかたけのこか並の争いが……
「あ、どうも」
そんな笑顔を見たら、争いなんか起こらない。何なら、うどん派に乗り換えようかさえ思っちまう。
いろはちゃんだ。黒い半袖と白い半ズボンというラフな格好でいる。
「どうも、亜良乃光一です。付き合ってください。一生幸せにします。そして、そのうどんも俺が払います」
背が高いいろはちゃんの顔を見上げながら、精一杯のキメ顔。どうだ。これで
「いいよ」
あっさりと答えるいろはちゃんに、格好付けた顔を崩さず固まる。関係はないが、レジの店員もこっちを興味深そうに目を向けている。
えっと……聞き間違いじゃないよな?
「あれ? 聞こえなかったかな? 彼女になっても良いよって言ったんだけど?」
首を可愛いく傾げながらもう一度言い、俺はハっ! っと意識を取り戻す。
そして、
「ほ、本当に俺と付き合ってくれるんですか?」
「うん」
頬を赤らめての返事。それに、俺はざる蕎麦を天井に掲げながら叫んだ。
「よっしゃああぁ!」
「あの、お客様。他のお客様のご迷惑になりますので、お静かにお願いします」
レジからそう注意する店員だったが、両手をパチパチパチパチと叩いていた。
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