第5話 夕食時



 結局、上半身裸のまま午後の授業を受ける。そして、終了後に担任教師(若い男)に呼び出されて説教を受けた。多分、十分くらい。おかげで、学校の外に出るのが遅れた。

 時刻は既に五時半を回っていたが、夏の日照時間が長い為に空はまだ青い。蝉すらもまだ起きている。そんな汗だくが当たり前の季節の中、俺は馴染みの店に向かう。

 学校から蕎麦屋までは、歩いて十五分の近い距離にある。おまけにその店から自宅に帰るのも、前に述べた通り歩いて我慢出来る距離だ。帰りがそんなに遅くなる事はないだろう。

 だが、それでも。

 いろはちゃんがいるかもしれないそこに、俺はウッキウキのステップで歩き続ける。周囲から奇異な目を向けられても、気にもせず。

 そうこうしている内に、目的の蕎麦屋に辿り着く。夕食時とも相まって、行列がそれなりに多い。親子連れっぽいのが複数。

 その中に、いろはちゃんがいるか確認したが、見当たらない。今日は来てないのか、それとも中にいるのか。店に入ろうにも割り込みは良くなく並ぶしかないし、もし居なければざる蕎麦を頼んで帰るしかない。どうすっかな。

「あんた何してんのよ?」

 並ぶどうか思案していると、後ろから声を掛けられてそこに振り向く。

 すると、そこには別の学校の制服を着たいろはちゃんの友達がいた。二日連続……ではないな。会ったのは土曜日で、今日は月曜日だし。

 何にしても、話し掛けられたけど名前は知らない。だから

「君の名前、何? 教えて?」

 名前を知らなければ、会った時に何と呼べば良いか分からない。この子とは今後も会いそうな気がするし。もちろん、いろはちゃんの事でね。

「え? 普通に嫌なんだけど」

「そこを頼むよ。いろはちゃんの彼氏になる予定の男だぜ? これから何度も会うかもだしさ。婚姻届の証人の名前も必要だしさ」

「飛躍し過ぎよ。というか、あたしはあんたを結婚どころか、いろはの彼氏にも認めたくないんだけど。なのに、いろはは……」

「なのに、いろはは? それ、どういう事? もしかして、いろはちゃんも俺の事好きって事だったりする⁉︎」

 友達ちゃんの両肩を掴み、興奮気味に問う俺。

 その状況を、周りの客が何事かと視線をこちらに合わせる。

「え? 男子高校生が女子小学生襲ってる?」

「どうする? 警察呼ぶ?」

「マジかよ。女の子襲うとかマジで許せねー。……殺すか」

 思い思いに口を開く客。最後に聞こえたのマジで怖かった。

 この状況の中、友達ちゃんは「ちっ」と舌打ちし、俺の両手を離す。てか、見た目の割に力強! 

「で? ここに何しに来たの? もしかして、ここならいろはがいるかもって思ったの?」

「おいおいマジかよ。当たってるよ。すげー! で、そのいろはちゃんはどこに?」

 この場所にいる理由を当てた事に感嘆しながら拍手し、居場所を聞く。

 が、

「絶対、教えない。いろはの場所も、あたしの名前も」

 そう口にすると、友達ちゃんはここから去って行く。

 通り過ぎ去って行った以上分からないが、この蕎麦屋が単に学校からの帰り道だったのかも。だとしたら、いろはちゃんは別の帰り道なのかも……。

「あの、ちょっと時間良いかな?」

 頭の中で色々と考えていると、突然話し掛けられる。男の声で。

 誰に話し掛けられたかと言うと、

「あの、自分警察ですけど、ここで小学生の女の子を襲う男子高校生がいるって通報が……」

 

 


 

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