第3話 光一は諦めない
その後、食事を終えたいろはちゃんは店を出て、「ちょ、いろは! 待って」と急いで小柄なお友達は食べて会計して外に向かう。そういえば、いろはちゃんの友達の名前訊いてねーな。
じゃ、俺も帰るかと店長に代金を支払い、外へ足を動かした。
「暑い」
店外に出たと同時に、そんな呟きが漏れる。蝉の声は元気な子どもかよと思わせるほどやかましく、店の行列に並んでいる客達は汗を流していた。
そんな蒸し暑さの中、歩いて帰る。バスを使おうかとも考えたが、家まで三十分程度なら我慢出来ると諦めた。あと、金の節約。
しばらく歩くと、信号機が赤なので立ち止まる。ここ、青に変わるの長いんだよなー。おまけに早く渡らないと、すぐに赤に変わる。どうなってんだ。
行政に対して不満を抱いていると、一台のバスが通る。横面にサッカークラブのロゴマークが付いたそれ。
そのサッカークラブはまあまあ人口が多いこの街がホームタウンであり、人気は……一定数はある。というか、同じくホームタウンであるバスケチーム(一部リーグ)が地区優勝数回と日本一に輝いた事もあり、三部リーグ所属のサッカーでは、人気の差は歴然だ。
が、この街のスポーツクラブ事情なんてどうでもいい。俺が……
「ああ、腹立つ」
隣で信号待ちをしていた男二人組の一人が、苛立たしげに呟く。見た目二十代くらいだろうか。
「腹立つって、またサッカーの誤審か? もう二日前の事だろ」
「それでも、怒りが収まんねーよ! 何であれファールじゃねーんだよ?」
「お前、めっちゃ審判に野次ってたよな。近くにいた子ども、ドン引きしてたぜ?」
「知らねーよ」
信号機が青に変わり、二人組は歩いて行くが俺は足を動かさない。当然二人組とは距離は離れ、信号は赤に戻る。
俺が一番腹立つのは、スポーツで野次を飛ばす奴だ。そんな奴の近くにはいたくないから、足を動かさなかった。
あんな奴等がいなければ……。
「げっ」
嫌な思い出の最中に、数分前に聞き覚えのある声がしてそこに視線を合わせる。
小さい子と、対照的な……ああ、説明描写めんどい。さっき店で会ったいろはちゃんと友達がいた。「げっ」と言ったのは友達の方で、露骨に嫌そう顔をしている。
そんな彼女達に、というよりもいろはちゃんに近づき
「いろはちゃん。付き合おう?」
と、見上げながら笑顔でウィンク。今度こそ良い返事が来るはず。というか、やっぱり、身長高いなー。
「……」
「……」
沈黙が流れる。そして信号が再び青になり、「行くわよ、いろは」と友達に引っ張られて遠ざかって行く。
振られた? いや、ごめんなさいとも考えときますって相手を傷付けない優しく断る為の言葉も掛けられていない。
つまり、まだチャンスはあるって事だぜ。絶対に、いろはちゃんの彼氏になってやる!
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