烏(カラス)ー白ー 4人台本 (男2、不問2)

サイ

第1話




ハク(m):蜃気楼がゆらめく暑さの中。


ハク(m):汗が頬を伝う。


ハク(m):手で拭って、荷物を持ち上げる。


ハク(m):背をそらしながら抱えて運んでいた。


ハク(m):そのとき


ハク(m):汗ですべり


ハク(m):荷物が






リーダー:…まぁ、ご愁傷様だな。誰にだってミスはあるよ。


ハク:…はい。


リーダー:医者は、なんだって?


ハク:骨が折れているので、全治4週間だと。


リーダー:4週間か…長いな。


ハク:…すみません。


リーダー:きみは真面目だし、よく働いてくれてるし、抜けられると辛いなぁ…。


ハク:…あの、立ちシゴトはできないんですけど、座ってできるシゴトとか、ないですか。


リーダー:あいにくだが、間に合っていてね。


ハク:…そうですか。


リーダー:お大事にするんだよ。4週間の間は、ちゃんと籍置いとくから。治ったらバリバリ働いてくれ。


ハク:ありがとう、ございます…。






ハク:おっとっと…松葉杖って、意外と難しいんだな…。


ハク:よいしょ、よいしょ…


(ぐうぅぅ……)


ハク:お腹…すいたな。


ハク:今日の配給券は…あっ


ハク:…今日、ほとんど働いてないからもらってないや。


ハク:シゴトしないと…ご飯が食べられない…。


ハク:ちょこっとしかないけど…クレジットで買えたりしないかな。






ボード:(他の客の応対をしている)


ボード:いらっしゃいませ。ご注文をお伺いいたします。


ボード:当店特製たまご飯がおひとつ。


ボード:お飲み物はお付けいたしますか?


ボード:お茶ですね、かしこまりました。


ボード:配給券を確認いたします。コードをモニターにかざしてください。


ボード:…確認いたしました!お料理の準備をいたします、お席3番でお掛けになってお待ちください。


ハク:……。


ボード:お待たせいたしました!


ハク:はうっ


ボード:ご注文はお決まりですか?


ハク:あっ…えーっと…パン…ありますか。


ボード:自家製パンがおひとつ。


ボード:お飲み物はお付けいたしますか?


ハク:えっと…いらないです。


ボード:かしこまりました。


ボード:配給券を確認いたします。コードをモニターにかざしてください。


ハク:あのっ、配給券なくって…クレジットで買えたり…しますか。


ボード:クレジットでのお支払いですね、かしこまりました!


ボード:では、自家製パンひとつで、お会計5万ポイントです!


ハク:えっ


ボード:では、自家製パンひとつで、お会計5万ポイントです!


ハク:…やっぱり、やめておきます。


ボード:かしこまりました、またのご来店をお待ちしております!


ハク:……高くてとても買えたものじゃなかったな。


ハク:ボクのクレジットで買えそうな場所、あるかなぁ。






ハク:…あれから何軒もまわったけど。


ハク:ボクのクレジットで買えそうなご飯…何もないんだよな。


ハク:…あれ?今日食べるご飯もないし…これが4週間続くの?


ハク:どうしよう…無理だ。さすがに生きていけない…。


ハク:シゴトで大怪我したひとってみんなどうやって生きてるんだろう?


(ネコがハクの前を横切る)


ハク:…あ、ネコ。


ハク:ネコに…配給チケットはないけど…どうやって食べていってるんだろう。


(ネコがゴミ箱を漁っている)


ハク:ゴミ箱に頭突っ込んでゴソゴソしてる…かわいい。


ハク:うん…?ゴミ箱?


ハク:…そうだ!残飯が残っていたりしないかな?!


(そっと後ろから近づく)


ハク:…ネコさーん、ちょっとどいてもらっても…あっ?!


ハク:ゴミ箱の中に落ちちゃった…って


ハク:…あれ?






ハク:…日が暮れそう。


(ぐうぅぅ…)


ハク:お腹すいた…松葉杖ついて歩くのも疲れたな。


ハク:どうしよう…。


リーダー:ハク。どうしたんだこんなところで。


ハク:…リーダー。


ハク:ボク、この先どうしたらいいんでしょう。


リーダー:どうしたらって…頼る親戚いないのか。


ハク:はい…父も母もいませんし、祖父母はボクが生まれる前にはすでに…。


ハク:リーダー、なんでもいいんです、シゴトをください。配給がなければ…。


リーダー:…気持ちはわかるが、無理だよ。たとえ私の独断でシゴトを割り振れたとしても、政府に見つかったらどんなペナルティをくらうか…。


リーダー:国民のシゴトを決めるのは政府だ、私じゃない。それは怪我をしようが同じことだ。


リーダー:そして、どんな理由があろうと、5週間以上の休暇も認められていない。


ハク:ボクは…どうしたら…


リーダー:…うちには子どもがいるからな。これ以上養っていける余裕もない。


リーダー:あとは…これは最終手段だが…


ハク:何か方法があるんですか?!


リーダー:…いや、やっぱりやめておくよ。危険すぎる。


ハク:教えてください!生きて、また働きたいんです!お願いします!


リーダー:……。


リーダー:行ったら、戻って来れないかもしれない場所なんだ。


ハク:それは…どういう…?


リーダー:この街の下に、アンダーという街があるのを知っているかい。


リーダー:この街のゴミは全て、ダストシュートを通ってアンダーに流れつく。


ハク:ゴミ箱の中が滑り台みたいになってたのって…そういうことだったのか…だからネコが落ちていったんだ…。


リーダー:ここで残飯にありつくのは無理だよ、全部アンダーに送られているからね。


ハク:じゃあ、アンダーに行けば…。


リーダー:いや…話はそう簡単じゃない。あそこはゴロツキがいっぱいいてね…。あまり穏やかな場所じゃないんだよ。


リーダー:もし新たに怪我でもして、4週間で戻って来れなかったら。


リーダー:きみは一度、今のシゴトをやめなければならなくなる。


リーダー:そして、再度何らかのシゴトにつくには高額なクレジットと申請が必要になる。


リーダー:それは、避けたいだろう。


ハク:…でも、このままでは死んでしまいます。ボクは生きていたいんです。生きるためなら…。


ハク:怖いけど、アンダーに行ってみます。


リーダー:そうか…。何も力になってあげられないのがつらいな…。


ハク:今の情報だけで十分です。ボク、頑張ってみますね。


リーダー:ああ。アンダーに行くには重機搬出入用のエレベーターがあるから、そこから行ってみるといい。


ハク:わかりました。ありがとうございます。


ハク:いってきます。






モンエイ:あー、暇だ。


モンエイ:何にもすることがねぇ。


モンエイ:でけぇクルマが来たらエレベーター開けて通すだけ。


モンエイ:スイッチを押すだけ。


モンエイ:誰でもできるじゃねーか。ったく。


モンエイ:(適当にぶつくさ文句をたれる)


ハク:…あの。


モンエイ:んあ。誰だお前。


ハク:アンダーに、行きたいんです。どうやったら行けますか?


モンエイ:アンダー?…あぁ、お前足が。どうしたんだ。


ハク:骨折しちゃって。4週間かかるらしいんです。その間シゴトができないから、ご飯に困っちゃって…アンダーならどうにかならないかなって。


モンエイ:あー…そういうやついるけど…お前にゃ無理だよ。


ハク:えっ…どうして。


モンエイ:どうしてってお前…そんな ちっこい ほっそい体でどうやって生きていくんだ。下は烏(カラス)どもの集まりだっていうのに。


ハク:カラス?


モンエイ:なんだ、お前そんなことも知らずにアンダーへ飛び込む気だったのか?!…とりあえず説明してやるからそこ座れ!


ハク:は、はい…。


(よっこいしょ)


モンエイ:いいか、アンダーに集まるのは、お前みたいな怪我人だけじゃない。何らかの理由でシゴトをなくし、復職も叶わず、生きるに困ったやつらがたくさんいるんだ。


モンエイ:やつらは地上の人間たちのゴミを食べたり売ったりして生きている。ときには取り合いになってケンカも勃発する。


ハク:ゴミをつつく姿が、カラスみたいだと…?


モンエイ:それもあるが…やつらは長けりゃ何十年とそこにいる。太陽の光を長らく浴びず、ずっと薄暗い地下で過ごしている。


モンエイ:太陽の光を浴びていないせいか、単純に栄養不足なのか、あるいはその両方なのか…長くそこにいるやつほど、目が悪くなってるんだよ。さすがに全く見えないわけではないだろうが…。


モンエイ:目が見えないことと、ハタから見て目がどこにあるかわからないカラスをかけて、アンダーの住人のことを烏(カラス)って呼ぶようになったのさ。


ハク:…差別的だなぁ。


モンエイ:い、言い出したのは俺じゃないからな?!政府だって烏(カラス)と呼ばれる人たちのために…その…いろいろするつもりだって…言ってたし!


モンエイ:この際どう呼ばれているかはどうだっていいんだよ!俺はお前がそんな過酷な環境で生きていけるのか心配してるんだよ!


ハク:でも…頼る親戚もいなくて…ボク一人で4週間は生きていけないです。


モンエイ:孤児か…俺も助けてやりたいけどよ…うーん…。


モンエイ:俺も…昔はその烏(カラス)だったんだよ。だから過酷な環境だってことはよく知ってるし、地上の人間の視線を感じたこともある…この手だしな。


ハク:…あ、よく見たらそれ、義手なんですね。でも動くんだ。すごい。


モンエイ:腕とシゴトを失ってな、ヤケになってアンダーで暴れてた。でもこのままじゃダメだと思って、心入れ替えて前向きに動き始めたんだ。そしたら政府が拾い上げてくれたんだ。


モンエイ:烏(カラス)は飛べるからな。地上の人間はいい意味では言ってないかもしれないが、俺はいつか、アイツらみんなで地上の人間たちを見返してやりたいよ。


ハク:かっこいい。


モンエイ:…なんかしんみりしちまったけどよ!アンダーは過酷なんだ!生半可な気持ちでは生きていけないんだぞ、いいのか?!


ハク:…ボクも飛べるかな。この足が治れば。


モンエイ:お前…お前…(ずびっ)、お前ってやつは…!


モンエイ:わかった、もう止めはしない…でも!生きて帰ってこいよ!!


ハク:ありがとう。地上で祈ってて。


モンエイ:それと…そうだな…何か下で役立ちそうなもの…お、これがいいか!これをお前に貸してやるよ。


ハク:これは…?


モンエイ:まだチビのお前には縁のないものだろうが、ライターだ。使い所があるかどうかはわからんが…持ってりゃいつか使いどきがくるさ。


ハク:高そう…こんないい物借りていいの?


モンエイ:お前が生きて帰ってきて、返してくれれば問題ないさ。


モンエイ:それから、下に行ったらガエンってやつには気をつけろよ。おそらく今アンダーで一番強いやつだ。目をつけられないように、こっそり生きるんだぞ。いいな。


ハク:ガエン…。わかった、ありがとう。気をつけるよ。






ハク:とうとう…来ちゃった。


ハク:暗いな…なんかいろんなにおいがするし。


(ぐうぅぅ…)


ハク:おなかすいた…何か食べられそうなものないかな…。


ハク:あれは…生ゴミが積み上がってる!上の方とか食べられる物ないかな。


(頑張って移動)


ハク:うーん…ほんとに生ゴミだな…芯とか皮とか…いやここに住んでる人ならこういうのでも食べるのかな…。


ハク:(すんすん)…だめだ、傷んでる…さすがに無理かな。


ハク:他のところなら、もうちょっといいもの落ちてたりするのかな。家庭用じゃなくて、飲食店のダストシュートとか…。


ハク:さっき行った店って、あっち側だっけ?見に行ってみるか…。


ハク:しかし、広いなぁ…。ボクの住んでる街に、こんな広い地下が存在していたなんて。


ハク:なんでこんな大きな地下があるんだろう。ただゴミを処理するためだけに、こんな…?


ハク:…あっ。


(にゃあ)


ハク:さっきのネコだ!ゴミ箱から落ちたネコ!無事だったんだね!


ハク:かわいいなぁ…余裕があれば、パンくずを恵んであげられたのに…今はむしろそのパンくずすら欲しいぐらいだ…。


ハク:よしよし…きみもお腹空いてるよね…お互い頑張って生きようね。


(にゃああ)


ハク:かわいい…癒しだ…。


(すたこら)


ハク:あっ…もう行っちゃうの?…あ、そっちにもダストシュートがあるんだね。


ハク:…あ!!パンだ!!しかもちぎった形跡があるから口はつけてないみたい…これもらっていいの?


ハク:はぐっ…、おいしい…ただのパンにこんなにもありがたみを感じるときが来るなんて…!


ガエン:おいしそうに食うな、お前。


ハク:はい!もうお腹ぺこぺこだったので!


ハク:…え?


ガエン:お前、新入りだな?ここでは食料を手に入れたら、この俺様に献上する決まりだ。安心しろ、全部食ったりはしない、ちゃんと分け合うさ。


ハク:そっ…そうなんですね…いやぁ素敵な人だ…対等に分け合うなんて。


ガエン:あ?この俺様が管理してやってるんだぞ。ちょっとくらい多めにもらったってバチは当たらないだろう。


ハク:…あー、6:4くらいで…?


ガエン:8:2だ。


ハク:…すみません、失礼でなければ、お名前を伺っても…?


ガエン:電動義手のガエン様だ。さぁ、そのパンを渡せ。


モンエイ(回想):それから、下に行ったらガエンってやつには気をつけろよ。おそらく今アンダーで一番強いやつだ。目をつけられないように、こっそり生きるんだぞ。いいな。


ハク:…やっちゃった。


ガエン:さぁ、早くよこせ。


ハク:…はぐっ。


ガエン:あ!!クソガキ!!待てコラ!!


ハク:(パン咥えながら逃げる)いやだぁぁぁぁぁぁ!!






ハク:げほげほっ…はぁ、パンが喉に詰まるかと思った…。なんとかまけたかな…?


ガエン:(遠くの方で)どこ行きやがったぁぁぁ!!


ハク:まだ諦めてない?!ど、どうしよ…。


キョウリン:キミか、ガエンを怒らせたやつは。


キョウリン:外がやけに賑やかだと思って出てきてみれば…ちびっこじゃないか。


ハク:わっ…びっくりした…どこから声がするのかと思ったら…。


キョウリン:ここじゃ配管の奥に住まうことなんて普通だけどね。おいで、見つかると厄介だ。


ハク:いいんですか。


キョウリン:早くおいで。


ハク:は、はい…。






キョウリン:まぁ、狭いけどゆっくりしていってよ。


ハク:配管の中に…こんな空間が。


キョウリン:ここは、地上で戦争が行われていた頃に拠点として使われていた場所だよ。


キョウリン:アンダーそのものが軍事基地として使われていたんだけど、そのうちアンダーにも敵が攻めてくるようになって、軍は配管の中へ隠れて態勢をととのえるようにしたらしい。


キョウリン:配管は迷路のように入り組んでいるから、どこに拠点があるのか分かりにくいと思ったんだろうねぇ。


ハク:戦争って…もう20年近く前ですよね。そんなに古くから…。


キョウリン:そんな経つんだねぇ。ここで過ごしていたら日付なんてわからないんだよね。昼も夜も関係ないし。…ああ、そこ座っていいよ。


ハク:あ、ありがとうございます…よっこいせ。


キョウリン:松葉杖で逃げるのは大変だっただろう、骨折かい?


ハク:はい…荷物を足に落としちゃって…。


キョウリン:そいつは痛いねぇ…。それに骨が折れれば1ヶ月は軽くかかるだろう。身体的にも収入面的にも、痛いよね。


ハク:はい…。


キョウリン:キミ、名前は何て言うの。


ハク:…!ごめんなさい、名前も言わずに…あの、ハクって言います。


キョウリン:ハクね。つかって悪いんだけど、その辺に万年筆を置きっぱなしにしていないかな…。


ハク:万年筆…あ、この机の上に置いてあるやつですか。


キョウリン:うん、きっとそう。それ持ってきてくれないかな。


ハク:あ、はい。……どうぞ。


キョウリン:ありがとう。こんな身なりだからね、立ち上がるのも億劫で。


ハク:片足が…ないんですね。


キョウリン:そうなんだよ。まぁ片足あるだけマシだね。


ハク:えっと…ボクはあなたを何て呼んだらいいですか。


キョウリン:あー…ここじゃすっかり名前で呼ばれることはなくなってね…周りからはキョウリンと呼ばれているよ。


ハク:じゃあ、キョウリンさん。


キョウリン:変だよ、それ。敬称なんていらないよ。そもそも、そんな呼ばれ方するのも むずがゆいのに。


ハク:どうしてそう呼ばれることになったんです?


キョウリン:いやあ…僕の口からはとても詳らか(つまびらか)にはできないな。


ハク:…?


キョウリン:…キミにはあとで辞書を貸してあげようね。


キョウリン:治るまで、キミはずっとアンダーで過ごすつもりなのかい?親戚とかは?


ハク:物心ついたときから家族や親戚はいなくて…だから怪我が治るまでシゴトもできないし、食べるものもなくて…。


キョウリン:なるほどね…でも気をつけた方がいいよ、ダストシュートから出た廃棄物をアテにしてきたんだろうけど、ああいうのはだいたいガエンが回収しちゃうから。


ハク:え、分け合うって言ってましたけど…。


キョウリン:コバンザメ達にはね。従わないやつらには分けないよ。


ハク:じゃあキョウリンさんはどうやって…?


キョウリン:物々交換かなぁ。そこのコンテナ開けてごらん。


ハク:これ…?


ハク:……わ、なんですかこれ。


キョウリン:鉄クズ。ゴミとして捨てられるものは何も生ゴミだけじゃない。中には再利用可能な資源もあるのさ。


キョウリン:それを食糧なんかと交換するんだよ。ときどき地上から物好きが来て取引してくれるんだ。


ハク:へぇ…。


キョウリン:しかしなぁ。最近ほんと目が悪くなってね。ランタンみたいなものがあれば、手元もよく見えるのに。


キョウリン:ろうそくが確かあった気がするんだけど…マッチを切らしてしまっていてね…。


ハク:あ…ボク、ライターもってますよ。


キョウリン:いいの?!じゃあ、そこの戸棚にろうそくがしまってあると思うから、ちょっと探してくれないかな。


ハク:はい!ちょっと待っててくださいね。(ごそごそ)うーんと…あ、これかな。(火を点けて)これでいいですか?


キョウリン:いやぁ、ありがとう!助かるよ!これで鉄クズの仕分けもできるし、読みたかった本も読める…!


キョウリン:…そこの山のてっぺんにある冊子なんだけど。


ハク:気にしないでください、これですか?


キョウリン:そう、それ!ごめんね、キミだって怪我人なのにさぁ!


ハク:お役に立てたようで何よりです。


キョウリン:誰かを部屋に招き入れたのなんて初めてじゃないかな。いやぁ、幼少の頃を思い出すよ。懐かしいねぇ。


ハク:…あの。


キョウリン:ん?なんだい?


ハク:ひとつ、お願いしてもいいですか。


キョウリン:僕からキミにいくつもお願いをして、聞いてもらっているわけだからね。僕にできることであれば、ひとつと言わず、いくらでも聞いてあげたいんだが。


ハク:…しばらく、ここにおいてもらえませんか?いえ、食べ物をもらおうなんて思いません、自分で探します。ただその、安心して休める場所が欲しくて。


キョウリン:ふむ。


キョウリン:僕はここに20年近くここにいる。だからコネを利用して生きながらえている。


キョウリン:さっききたばかりのキミに、何の繋がりもないキミに、食糧が調達できるかな。容易じゃないと思うよ。


ハク:う……。


キョウリン:寝る場所だけと言わず、食べ物も分けてあげるよ。というか、同じ鍋で作ればいいだけの話だろう?キミが火を貸してくれるなら、ある程度の調理ができる。


ハク:そんな…さすがに悪いです。


キョウリン:まぁここでは食糧は貴重だし、さすがにタダでとは言いづらいかな。鉄クズ集めを手伝ってもらうことになるとは思うけど。それでもいい?


ハク:は、はい…!ぜひお願いします!!


キョウリン:よし、じゃあ金になりそうな鉄クズについて話すから、こっちにおいで。






ハク:…ふう。なかなか見つからないものだし…すごく大変な作業だな。これ、本当にあの人が普段やってるの…?


ハク:とりあえず、とれたものだけでも持って帰ろうかな。


ハク:よいしょ、よいしょ…わ、すみません。…よいしょ、危うくぶつかるところだった…。


ハク:あの人、キョウリンさんのお部屋から出てきたけど…知り合いかな?


ハク:…ただいま戻りましたー!


キョウリン:ああ、おかえり!どうだった?収穫は。


ハク:全然です…ちょっとはあったんですけど。


キョウリン:どれ…いや、なかなかいいと思うよ。1日に取れるものなんてこんなもんさ。他にとってるやつもいるしね。


キョウリン:…ところで、僕の収穫も見てみるかい?


ハク:収穫?さっきお客さん来てましたよね?


キョウリン:ふふ、そのお客さんからもらったのさ。ほれ!


ハク:これは…レアメタル付きの機械部品!見るからに高くつきそうな…!


キョウリン:もちろん!これは上物だよ…これがあればもっと本が買えるな…!


ハク:ランタンじゃなくていいんです…?


キョウリン:うーん…それもいいんだけど、読みたい本がいくつもあってね…悩ましいな。


ハク:しかしこんないいもの、どうしてもらったんです…?


キョウリン:報酬だよ、体の具合を見てあげたのさ。


ハク:具合?あの人、病人なんですか。


キョウリン:そう。もともと持病があってね。定期的に診てあげてる人が他にも何人かいるよ。


ハク:キョウリンさんってお医者さんだったんですか?!


キョウリン:え、言ってなかったっけ。ああ、そうだ、言葉の意味を伝えていなかったもんな。


ハク:だから難しい字も読めるんですね、ボクには読めない字もある本を、スラスラ読んでるし…。


キョウリン:まぁ、元、だよ。今は言うなれば闇医者だな。


ハク:地上で開業したりしないんですか?


キョウリン:片足だといろいろ大変でね…。初期費用を稼ぐために、働かなくてはいけないだろう?ましてこの目と来た。


ハク:ああ、そうか…。


キョウリン:そりゃあ、医者になりたくて勉強したわけだし、できるなら地上で開業したい気もするけど…。


キョウリン:でも、矛盾になるけど、ここでの生活も悪くないと思うんだよね。20年も生活してりゃ、慣れてくるってのもあるけどさ。


ハク:…ここへくる前に聞きました、ここの人たちは、地上の人間から「烏(カラス)」って呼ばれているんでしょう?


キョウリン:そうらしいね。おそらく、今の僕が地上に上がっても、そうやって後ろ指をさされるだけだろう。片足で、正体不明の目の病も持っている。


ハク:目が見えづらくなる理由はわかっていないんですか?


キョウリン:かたよった栄養がなんらかの影響を与えているとは思う。でも研究する機材がないし、地上の人間もわざわざ研究したがらないんだよね。


ハク:原因がわかれば、目は治るんですか?


キョウリン:どうだろうね。どこに異常が発生しているかにもよるだろうけど…眼球も神経も、換えがきかないものだからね。発症前と同じ程度に、とは言いにくいかも。


ハク:じゃあ、キョウリンさんはずっとここに…?


キョウリン:かな。いいんだよ、ここには僕を必要としてくれる人がいるんだから。望んだ未来ではなかったけど、結果として、医者として誰かの役に立てているなら。


ハク:…キョウリンさんは、どうして足を失ってしまったんですか。


キョウリン:…僕は若い頃、軍医として戦地で働いていたんだ。


キョウリン:大変だったよ、次から次へと怪我人が運び込まれてきて。薬や包帯が足りなくて、十分な治療ができないこともあったな。


キョウリン:終戦間際はもう、医者なのに、何もしてあげられなかった。横たわって、うめき声をあげる人たちを見ていることしか。


キョウリン:僕になにかできることはないだろうかと考えていた矢先、敵からの砲撃にあってね。拠点が崩落して、生き埋めになったんだ。


キョウリン:おかげで敵に襲われずすんだけど、救出されるときに足を失ってしまったよ。


ハク:…そんなことが。


キョウリン:幸い、救出されて間も無く終戦したからさ、もう地獄に行かなくてよかったんだけど。かといって、家に帰る気にもなれなくてね。


ハク:それは、どうしてですか。


キョウリン:どうしてだろう。家にはきっと、家族が待ってくれているはずなんだけど。…いや、もう20年経ってるし、さすがにもういないかな?


キョウリン:大きな病院で働く道もあった。でも僕が、僕の意思で、軍医になることを選んだ。なのにこんな情けない姿でとぼとぼ帰ってくるなんて…とか、ちょっと思ったのかも。


ハク:きっと探していますよ、ご家族。


キョウリン:…そうかな。


ハク:ええ、きっと。


キョウリン:……今日はシチューにしようかな。





ハク:うーん、むにゃむにゃ…よかったですねぇ、ご家族、いましたねぇ…。


キョウリン:ぐっすり眠っているところ悪いけど、そろそろ朝だよ。


ハク:むにゃむにゃ…。


キョウリン:……(息を吸う)


キョウリン:(耳元で)火事だー。


ハク:うえぇ?!か、火事?!


キョウリン:おはよう、いい朝だね。


ハク:え…火事は?


キョウリン:空では今日も太陽がメラメラと燃えていることだろうね。


ハク:な…脅かさないでください…。


キョウリン:だって、普通に起こしても起きないじゃん。


ハク:ここに来てから、起きるのが苦手になっちゃったんですよね…どうしてだろう…。


キョウリン:仕方ないね、人間は日光を浴びて体内時計を調整する。日光を浴びないままだと体内時計が狂って、何十時間も眠り続けていた、なんて事例もあるらしいから。


ハク:ここでは時計って貴重ですね…。


キョウリン:時計もカレンダーも必需品だね。今日はっと…おや、もうここへ来て3週間が経つじゃないか!時が経つのは早いね。


ハク:そうなんですね…!ここまで無事に過ごせたのはキョウリンさんのおかげです、本当にありがとうございます…!


キョウリン:こちらこそ、話し相手になってもらえて、いい時間だったよ。でもまだ1週間あるからね、気を抜かないように。


ハク:そうですね、今日も鉄クズ集め行ってきます!


キョウリン:気をつけて行っておいで。






ハク:長いようで短い時間だったなぁ…。


ハク:鉄クズあつめも随分慣れてきちゃったし…もう本業こっちでいいのでは?


ハク:…あ、でも地上のシゴトに穴をあけるのはよくないよね…リーダーも、ボクを信じて待ってくれているわけだし…。


ガエン:ぶつくさうるせえぞ、チビ。


ハク:うわ?!な、なんですか…?


ガエン:ここいらは俺たちのシマだ。勝手にあさるんじゃねぇ。


ハク:あ、いえ、食べ物じゃなくて、鉄クズを集めに…。


ガエン:ここいらの資源は俺たちのモノだと言ってるんだよ、聞こえなかったのか?


ハク:あ、すみません…。


ガエン:ちっ…気にくわねぇ。てめぇみたいなチビがのうのうと生きてるのを見ると無性に腹が立つ。


ガエン:てめぇ、どうやら狐とつるんでるらしいじゃねぇか。


ハク:狐…?


ガエン:キョウリンだよ。狐みてぇな目してるだろ。あいつをそんな名前で呼ぶのも腹が立つが…。


ハク:あの人が…何か?


ガエン:俺に義手をあてがってくれたのはあいつだ。しかしあの飄々とした態度と…何より俺様につかないのが気に食わない。


ハク:はぁ。


ガエン:あいつがいれば、どんなに喧嘩したって怖くねぇ。あいつを取り込んで、アンダーを制圧し、俺様はその頂点に立つ!


ハク:たぶん…無理じゃないですかね。


ガエン:あ?


ハク:キョウリンさんは…争いとかそういうの、好まないような気がして…。


ガエン:…チビのくせに生意気言いやがって。おまえ俺たちの飯を横取りしたの忘れていないだろうな…?


ハク:そ…その件は大変…


ハク:し、失礼いたしましたー!!(走って逃げる)


ガエン:あ、おいこら待ちやがれ!!






キョウリン:いよいよ明日か…足の治りも順調そうでよかったよ。


ハク:ありがとうございます、いざ明日となると寂しいですね…。


キョウリン:本当にね。これでまた僕も一人だな。


ハク:家に帰らなくていいんですか?家族が待っているかもしれないんでしょう?


キョウリン:うん…やっぱり僕にはここがあっているしね…。それにこんな姿、見せられないよ。


ハク:意思は固いんですね。


キョウリン:うーん…ただのワガママかな…。


ハク:ワガママ?


キョウリン:何でもないよ。それより、ここに来るとき、大柄な男と会わなかったかい?


ハク:大柄な男…モンエイさんですか?


キョウリン:そうそう、あの、エレベーターの番をしているやつね。モンエイなんてたいそうな名前の役割をもらっているけれど、結局ボタンを押して扉の開閉をしているだけらしいね。


ハク:それだけのシゴトなんですか?


キョウリン:それだけだよ。あんな立派な腕を持っておきながら、笑っちゃうよね。


ハク:もしかして、あの義手もキョウリンさんが?


キョウリン:そう。モンエイもガエンも、僕が手をつけてあげたのさ。


キョウリン:知ってるかい?今じゃすっかり丸くなったが、モンエイがアンダーにいた頃はガエンみたいに荒くれ者だったんだよ?


ハク:そうなんですか?!見えないなぁ。


キョウリン:温厚そうに見えたかい?


ハク:はい…優しくて、熱い人なのかと。


キョウリン:ははは!たしかにあいつは熱いね!荒くれ者ではあったけど、曲がったことが大嫌いで、腕っぷしで捻り潰しちゃうようなやつでさ。根はいいやつなんだよ。


キョウリン:あいつのためなら、力を貸してやってもいいと思ったんだ。だから手をつけてあげた。


キョウリン:あいつが地上へ行くとき、後輩を頼むって言われてさ。あいつが気にかけている人だから、僕も…とは思ったんだけど。


キョウリン:いやぁ…僕はガエンとは合わないね。合わないやつとは関わらないに限る。


ハク:キョウリンさんは、アンダーでたくさんの人のために力を尽くしてきたんですね。


キョウリン:もう20年近くになるからね…。たしかに、いろんな人を診てきたかも。


キョウリン:単なる風邪なのに、俺は今日死ぬんだ…って言ってる人もいたし、ハクみたいに、地上に復帰してシゴトを始めた人もいた。


ハク:面白い人がいたんですね。


キョウリン:本当にね。


キョウリン:…医は仁術なり。


ハク:ジンジュツ?


キョウリン:医者とは体の不調を治すだけが仕事じゃない。患者の心に寄り添ってあげるのも大切なんだそうだよ。


キョウリン:軍医をしていたころは 目まぐるしくて、とても患者に寄り添った治療なんて余裕がなかったけど。


キョウリン:ここで闇医者として働いていると、いろんな人と出会ってね…人柄とか癖とか、そういうものが自然と見えてきてね。


キョウリン:医者として、いろんな人と関われるのがすごく楽しいんだ。


ハク:ここへ来て何度か、キョウリンさんのお医者さんとしての姿を見かけましたけど、すごくいきいきしてました。


ハク:素敵だと思います、とても!


キョウリン:ありがとう。やっぱり僕にはここが一番なんだよ。


ハク:そうかもしれませんね…またここに来てもいいですか?


キョウリン:もちろんだよ。いつでも遊びにおいで。






ハク:今日でこことおさらばか…。


ハク:あれ?入口の方がなんか騒がしいような…。




キョウリン:いいや!渡さない!


ガエン:てめぇ…仮にも恩があるから下手(したて)に出てやっていたら、舐めやがって…!


ハク:あの…どうしたんですか…?


キョウリン:ハク…!中にいるんだ!


ガエン:ちょうどよかった。てめぇ、ちょっとツラ貸せや。


ハク:な、なんなんですか。お話しならここで聞かせてください。


キョウリン:ハク、こいつの言うことマトモに聞く必要ないよ。


ガエン:てめぇは黙ってろ狐目!


ガエン:チビ、こないだ俺様の領分で鉄クズを拾っていただろ。


ハク:そ、それについては…すみませんでした。どこまでがガエンさんの領地か知らなくて…。


ガエン:それも大きな問題だ。でもそれ以上の問題がある。


ガエン:心当たりがあるだろ、正直に言えば、命だけは許してやる。


ハク:問題…?鉄クズを拾う以上のことですか…?


ハク:えぇ…えっと…うーん…。


キョウリン:そら見ろ!ハクは違う!ハクはやってないんだ!


ガエン:うるせえ、こいつ以外に誰がいるって言うんだ!誰よりも一番怪しいだろ!!


キョウリン:ハクはそんなことするやつじゃない!そんな、盗みなんて…!


ハク:ぬ、盗み?!


ガエン:ああ、そうだよ。俺様の金盗んだだろ。


ハク:金?!ガエンさんお金持ってたんですか?!


ガエン:アンダーじゃ金なんて使えねぇ、でもいつか地上で暮らせるようになったときのために貯めてたんだよ!


ガエン:それがこないだてめぇが俺様の領分に勝手に入った後から消えちまってんだよ!盗みに入ったんだろ!


キョウリン:キミのへそくりの在り方なんて誰が知るかよ!ましてここへ来て1ヶ月の人間がだ!


ガエン:たまたま見つけたのかもしれないだろ!もうタイミング的にこいつしかいねぇだろうが!


ガエン:チビ、今日地上へ帰るんだろ?そうなりゃいろいろ入り用になるから持っていったんだろ?いい加減吐けよ。


キョウリン:ハクがそんな薄汚いことするように見えるか?キミじゃないんだから。


ガエン:黙れ狐目!!俺様は盗みなんてしねぇ!!


キョウリン:ほんとかね?彼に聞いてやってもいいんだけど?


ガエン:あの人はっ…と、とにかく金返せ!!


キョウリン:わからないやつだな…!!ッ!!(ガエンをタックルする)


ガエン:うおっ?!


キョウリン:ハク!今のうちに行くんだ!走れ!


ハク:で、でも、


キョウリン:いいから!!!!


ハク:は、はい!!






ハク:はぁ…はぁ…たしか、エレベーターはこっちに…!


ガエン:待ちやがれチビ!!


ハク:うわ、もう?!


ガエン:金返しやがれこの泥棒!!


ハク:し、知らないです!!お金なんて取ってません!!


ガエン:嘘つけ!じゃあ他に誰がいるんだ!!


ハク:わかんないです…!他を当たってください…!


ガエン:てめぇ以外誰がいるって言うんだよ!


ハク:ひえ…っ!!


キョウリン:ハク!こっちだ!


ハク:キョウリンさん?!いつの間に…!


キョウリン:いいから足動かして!!


ガエン:こなくそ、待ちやがれ!!







(走りながら)


ハク:キョウリンさん…!


キョウリン:やってないんだろう?だったらキミは堂々としていればいい。


キョウリン:キミは、優しくて、真面目で、まっすぐで、


キョウリン:心のあたたかい、いい子だ。


キョウリン:…ッ?!


ハク:キョウリンさん、杖が…!


キョウリン:古かったから…折れちゃったな。僕はここまでか…。


ハク:…いいえ。


ハク:肩を貸します、だから。


ハク:エレベーターまではお見送りに来てください。


キョウリン:…ありがとう、そこの角を曲がった先だ。






モンエイ:遅かったじゃないか、キョウリン!


ハク:モンエイさん?!下まで来てくれたんですか?!


キョウリン:僕が頼んだんだよ。もしものことがあってはいけないからね。これを逃せば地上での生活は難しくなる。地上まで安全に帰ってもらおうと思ってね。


モンエイ:まだ若いのに一人で大丈夫かとヒヤヒヤしてたんだよ。そしたらキョウリンから連絡が来て、おまえがキョウリンと一緒にいるって言うじゃねぇか…!もう安心して、聞いた瞬間腰抜けちまったぜ…。


キョウリン:心配しすぎだよ、もうちょっと信じてあげればいいのに。


モンエイ:だってアンダーだぜ?!そこにこんな小さい子がよう…ぐすっ。


キョウリン:泣くことないのに。


ハク:ありがとうございます、おかげさまで無事1ヶ月生きることができました。


キョウリン:よかったよかった。これでまた一羽の烏(カラス)が羽ばたくわけだ。


キョウリン:…うん?


ガエン:待てこの泥棒ネズミ!!逃がすか!!


ハク:き、来た!


キョウリン:心配いらないよ、あとはこいつに任せよう。


ハク:え、あ。


モンエイ:…なんだ、ガエン。


ガエン:え?!兄貴?!


モンエイ;やけに騒々しいじゃないか。どうしたんだ?


ガエン:そ、そいつが俺様…俺のお金を盗みやがったんだよ…。


モンエイ:ほう?証拠は。


ガエン:えっと…盗まれた日に、近くで鉄クズ集めをしていたのを見かけて…。


モンエイ:見かけて?


ガエン:そ、それだけです…。


モンエイ:たまたま近くにいた、それだけで犯人だと決めつけたのか?


ガエン:あ、えっと…はい…。


モンエイ:ほう…しかしそんな血相変えて追いかけるほど、お前は大金を持っていたのか。


モンエイ:いったいどんなルートで手に入れたんだろうな?


モンエイ:アンダーでの取引は主に物々交換だろう。金が手に入るなんて、汚ねぇ手でも使ったんじゃないか?


ガエン:ぐっ…。


モンエイ:警察に相談した方がいいんじゃないか?金が盗まれたなんて大事件だ。まぁ、その金の入手ルートも大事件になりそうだけどな。


ガエン:あ、あ…。


ガエン:きょ、今日のところはこれで失礼しますー!!


ハク:あ、行っちゃった…。


キョウリン:いっそぶっ飛ばしてくれてもよかったのに。


モンエイ:いつどこで政府の役人が見てるかわからないだろ、揉め事起こすわけにはいかないんだよ…。


キョウリン:はは、そりゃそうだ!まぁ穏便に済ませられるに越したことないよね。


キョウリン:さ、そろそろ行かないと。


ハク:キョウリンさんは…あとで報復されたりしないですか…?


キョウリン:そのときはまたそこの「兄貴」にチクってやるよ。


ハク:えぇ…それって結局やられてるじゃないですか…!


キョウリン:大丈夫だよ、僕にはツテがたくさんあるからね。


ハク:昔の患者さん、ですか。


キョウリン:もう付き合い長すぎて患者どころか腐れ縁だけどね。だから心配ないよ。


ハク:……。


キョウリン:僕はキミを信じてる。だから、キミも僕を信じてはくれないかな?


ハク:…今度会いに行ったとき、怪我していたら…ガエンさんに怒ります。


キョウリン:あはは、いいねぇ、そうしてもらおう。


ハク:お元気で、キョウリンさん。


キョウリン:うん、お元気で。


キョウリン:ああ、あとそれから。


ハク:…?なんですか?


キョウリン:いや…「僕の家族に会ったらよろしく」と言おうと思ったんだが…やっぱりやめよう。


キョウリン:僕もいつか、キミを見に地上へ遊びに行くよ。そのときに、家も覗いてみる。


ハク:キョウリンさん…!


キョウリン:それじゃ、またね。


ハク:はい、また。






ハク:うわ、まぶしい…。


モンエイ:久々の地上だもんな。日の光も、風も雨も、当たり前のようにあるが…アンダーから帰ってみると、ありがたみを感じるよな。


ハク:そうですね、何より…。


ハク:(すーーーーっ、はぁーーーーー…)


ハク:空気が…生ゴミのにおいじゃないです…!!


モンエイ:はっはっは、そりゃそうだ!たしかに、空気がうまいな!


ハク:初めて空へ羽ばたいた鳥も、こんな感じで感動するのかな…。


モンエイ:…飛びっぱなしの鳥なんかいない、ちょくちょく降りて顔見せに行ってやりな。


ハク:はい!……あ。


モンエイ:どうした?


ハク:ライター、キョウリンさんの家に置いてきちゃいました…。


モンエイ:ああ?!…しょうがねぇ、今度キョウリンに持ってきてもらうとするか…。これであいつも地上に来るきっかけができたことだしな。


ハク:…すみません、よろしくお伝えください。


モンエイ:気にすんな、その辺に落としてきたより100倍マシだ。ほら、早く行きな。


ハク:はい!ありがとうございました…!!


モンエイ:おう、またな!






ハク:ふう…リーダー、これ、ここに置いたらいいですか?


リーダー:ああ、ありがとう。助かるよ。…もうこんな時間か、そろそろ休憩にしよう。


ハク:はい、お疲れ様です。


リーダー:っと、そうだ。さっき客人が来ていたよ。長髪で、編笠をかぶっていて、狐のような目をした…。


ハク:ほ、ほんとですか?!今すぐ行ってきます!!


リーダー:うん、行ってらっしゃい。




キョウリン:やぁ、久しぶりだね。


ハク:キョウリンさん…!お久しぶりです!


ハク:あ、ライター、置き忘れちゃってすみません…。


キョウリン:ああ、いいんだよ。便利だしこのまま使わせてくれないかって聞いたら、地上に来た記念にって、違うライターをプレゼントしてもらっちゃったんだ。


ハク:それはそれは…!あ、ご家族には会えましたか?


キョウリン:ああ、うん。会うには会ったよ。


ハク:それはよかったです…!20年越しの再会、奇跡ですね!


キョウリン:はは、そうかもね。そうだ、せっかくだしご飯奢ってよ。僕シチューがいいなぁ。


ハク:えぇ?!ボクお金ないですよ…?


キョウリン:冗談だよ、モンエイからお小遣いもらったから、これでご飯食べよ。ね。


ハク:い、いいんですか?


キョウリン:他人のお金だからね、今日はドカ食いするぞー!!


ハク:あ、待ってくださいよー!!






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烏(カラス)ー白ー 4人台本 (男2、不問2) サイ @tailed-tit

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