第22話 衝撃とショピングと衝撃

 「はぁ? 急にショッピングって、優ちゃんどういう事?」

 「よっちゃんどうもこうもないでしょ!? あんた達は女の子のサファイアちゃんにこんな汚い格好で移動させる気なの!?」


 「え? てか女の子なのか!」

 「だからあんた達は童貞なのよ! サファイアちゃんをシャワーに入れてあげて」


 「僕らでやるしかないか……」

 手を繋いでシャワー室に案内すると、サファイアは、自分で中に入っていきガチャっと鍵を閉めた。


 「流石に男3人に、裸は見られたくないよね」

 「まあそうだよな……」

 「おーいサファイア! 使い方分かる?」

 シャワーの流れる音が聞こえてきたので、使い方は大丈夫そうだ。


 「目の前にタオルとか置いておくから使って! 僕らはソファに座ってるから」


 「優ちゃんショッピングって言ったけど場所とか分かるの?」

 「圭ちゃん名古屋駅に行けばあるわよ。あそこは広い場所だから」

 「まあ女の子の服とか下着とか一切持ってないもんね。それは可哀想だよな」


 シャワーを浴び終えたサファイアがシャワー室から出てきた。

 ゴワゴワだった髪がすっかり綺麗になっている。

 「これからサファイアの服とか取りに行くからね」

 僕がそう言うと、サファイアはコクリと頷いた。


 しばらく車を走らせると、大きな駅が見えてきた。

 「ここが名古屋駅??」

 「そうよ〜。じゃあ早速行こうかしらね」


 車を降りて駅の中へと入っていく。あちこち荒れてゾンビなんかもいるが、店の中まで全て荒れているという感じではなかった。


 「あったわ〜。サファイアちゃん私と一緒に行きましょう。皆はちゃんと周りを見張っててよね」

 「へいへい」

 傑が気のない返事をする。


 店内にゾンビがいない事を確認した後は、僕らは外で見張りをした。

 30分程経ったら袋を持った優ちゃんとサファイアが戻ってくる。

 「おまたせ〜! じゃあ次行くわよ〜」

 「え!? 他にも行くの!?」


 「女の子の買い物に文句いうなんて駄目よよっちゃん!」

 この後しばらく、何件かショピングに付き合わされる羽目になった。


 「最後はここね」

 そう言って優ちゃんが連れて行ったのは美容室だった。


 「サファイアちゃんの髪を私が切ってあげるわ」

 優ちゃんはハサミを持ってサファイアの髪を切り始めた。


 「優ちゃん美容師でもやってたの?」

 あまりにも手際が良かったので聞いてみた。


 「それに近いことをしていたわ! これ位でいいかしらね」

 「「「おお〜〜」」」


 浮浪者のようだったサファイアの姿はそこにはなく、整えられた髪に、綺麗なワンピースを着たサファイアは可愛い少女へと変貌を遂げた。

 サファイアの顔は無表情のままだが、鏡を見てクルクル回っている様子を見ると、どうやら気に入ったみたいだった。


 「後数年したらかなり化けるんじゃないか??」

 「え!? 傑くんサファイアちゃんにそんな事思ったの!?」

 「超ロリコンじゃん!」


 「馬鹿だな! じゃあお前ら数年経った時、サファイアが超絶美少女になっていたとしても恋愛対象に絶対に入れるなよ?」

 「そん時はそん時だよ傑くん」


 「まあそうなった時は、僕らこそ相手してもらえないよ!」

 そんな話をしている時だった。


 「ブヲァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン」

 テレビで聞くF1の音を、何十倍と大きくしたような音が頭上から聞こえた。


 「ドゴーーーーーン!!!」

 その後に強烈な音と地響きがあった。


 「なんだ!? なんだ!?」

 「一旦車に戻りましょう!」

 優ちゃんの声に反応して皆で駆け出す。


 その時にも同じような音と振動がずっと続いていた。

 外に出て辺りを見渡せる場所に出ると、天にも届く勢いで煙が上がっていた。


 「なになに!? 一体なんだ!?」

 傑が焦るのも無理はない。訳が分からない。


 「あの煙が上がってる方向って俺らがいた栄の方じゃない?」

 圭佑が言うように、確かにその方角だった。


 さっき空から聞こえた音が再び聞こえてきた。全員が空を見上げると、そこには戦闘機が空を飛でいた。そして何かを発射した。


 耳を塞ぎたくなるよな音と振動と、そして煙が舞う。

 「優ちゃん!! 栄に戻って!! 早く!!」

 僕は声を荒らげて車に乗り込み、優ちゃんに頼んで飛ばしてもらった。



 つい数時間前までいた場所は、煙と共に跡形もなくなっていた。

 街全てが破壊されていて、なんと地面すらも抉れていた。


 「おいおい! マジかよ! これ現実かよ!」

 「大ちゃんが言って出発してなかったら直撃だったね……」

 完全に言葉を失った。


 「僕のせいだ……僕がゾンビとか呼んで被害が出たから、きっと国は強硬手段に出たんだよ。きっと僕のせいだ」


 「あんたのせいじゃないわ。大ちゃんは人を助けたのよ! 悪いことじゃない。これは国が悪いのよ……大ちゃんのせいじゃない」

 「それでも昨日までここに居た人達は、全員もういないだろ! クソッ! クソッ!」

 大声で僕は叫んだ。


 「もうすぐ夜になっちゃうわ。夜になったら1ヶ所に留まれないのよ私達は。シグマに備えて朝まで移動し続けないと!!」

 「分かってる……分かってるよ優ちゃん。九州に向かわないと行けないんだろ?」


 九州の熊本へと向けて出発する。

 僕らは、サファイアを乗せて初めての夜を迎えるのだった。

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