第21話 名古屋と日本・チェリーとオカマ
「誰だ貴様は!!!」
「さあ! 誰でしょう?」
僕は、迷彩を着た人達の目の前に姿を見せた。
僕は右手を空に向けて高くあげた。そして右手に持っているスイッチを押した。
「ビーーーーーーーーーーーーーー」
「ピロピロピロピロピロピロピロピロ」
静かだった街のあちこちで警告音が鳴り響く。
「何してるんだ貴様は一体!!」
「さあ何をしているでしょうか?」
音を聞きつけて、とんでもない数のうめき声が近づいてくる。
「それでは皆さんお元気で!」
一礼すると瞬時にその場から逃げた。
僕はとにかく全速力で逃げる。後ろを振り返るとすでにゾンビ達に襲われているようだった。
大声で叫ぶ男達の声と、銃声が聞こえる。
飲み屋街は一本道で、逃げている方向からもゾンビが僕の方へと向かってくる。
僕は刀を抜き、来たるゾンビ達を掻い潜りながら仕留め前へと進んでいく。
一瞬でも気を抜いたら命取りになる。
だが、僕は華麗に捌いていく。
「あ〜。あ〜。大介聞こえる? え? ああそうか手が離せないから反応出来ないか。こっちは無事に救出出来たから後は大介が戻ってくるだけだから、よろしく!!」
トランシーバーから傑がそう伝えてくれた。
よし、後は僕がここから逃げ出すだけだ。スイッチを再び押して音を止める。
ゾンビ達の動きに多少変化が現れて、捌きやすくなった。
スルスルと刀でゾンビの首を刎ねながら前へ進む。
ゾンビの群れをやっと抜け出すと、目の前にはチェリーブロッサム号がいた。
傑と圭佑がドアを開けて、大きなジェスチャーでこっちに来いと手招きしている。
すぐに走り出して傑と圭佑の腕を握る。
「流石大介! よく無事だったな!」
「見てるこっちがヒヤヒヤしたよ大ちゃん」
「まあ言ったろ? 大丈夫だって。それよりどうだった?」
「ああ、とりあえず捕まっていた人達を助けてきたよ」
男性が2人と女性が1人がソファに座っていた。
「早速聞きたいことがあるんだけど、ここの飲み屋街にサファイアって店ある? 僕らはサファイアという店を探してるんだけど見つからなくて」
1人の男性が口を開いく。
「いや、知らないな。助けてくれた事は感謝するけど俺達じゃあ力になれそうにない」
「あれ? 今俺達っていいましよね? なに? 3人は知り合いなの」
圭佑が会話に割って入る。
「……まあこんな世界になった後でここに住んでるんだ。顔ぐらいは皆知ってるよ」
「じゃあこの栄って街でリーダーをやっているような人いませんか? もしくはそれに近い人でもいいんで! そんな人を紹介してもらいたい」
「まあそれなら……」
助けられた3人は顔を見合わせた。
「大ちゃんこれで良かった?」
「うん……大丈夫だよ圭佑ありがとう」
「ちなみに昨日の迷彩服を着ていた人達は誰? それになんであんた達を捕まえてたんだ?」
「あいつらは自衛隊の連中だよ。国の奴らだ……なんで捕まえてくるのか俺達だって詳しく知らないんだよ。急にこの街に来てああやって何人もの仲間が連れて行かれた」
「理由が分からない?」
「ああ、俺達はここでただ暮らしてるだけだ」
「……」
「すぐに戻ってもゾンビの大群がいるだろうから朝になったら案内してもらう。それまではここでゆっくりしていっていいから」
助けた人達に食事と毛布を用意した。3人共食事を終えて横になると寝息を立て始めた。
「傑と圭佑も休んでいいよ」
「分かった」
「おやすみ大ちゃん」
床に座って、3人の監視を僕はする。
身体に毛布がフワッとかけられた。
「あなたも休まないと駄目じゃない? 大ちゃんが1番疲れているでしょう」
「でもここで逃したら情報聞けませんから」
「無理しちゃ駄目よ?」
「ありがとうございます」
特に何か起きることもなく無事に朝を迎えた。
「じゃあ優ちゃん運転お願いします」
「分かったわ」
朝の8時に出発し、栄の街に戻るとゾンビの死体大量に転がっていた。迷彩服を着ているゾンビも倒れていた。自衛隊と思わしき人達も車も街にはもうなかった。
車を停めて慎重に外へと出る。
「こっちだ付いて来い」
助けた男は早足で前を歩いていく。
寂れたビルの中に入り、階段を上り3階にある部屋に入る。
その部屋は何もないただ広い部屋で壁や床がなどあちこち荒れていて、さらには窓ガラスなんかも全部割れていて荒れ放題だった。
「一体こんな場所に何があるのかしら? 私達をはめるつもりなの?」
「そんなつもりはない。こっちだ」
男は部屋の隅にあるW・Cと書かれたドアを開ける。
中はトイレではなく、人が数人入れる直方体の部屋だった。
「中に入れ。これはエレベーターで地下まで連れて行ってくれる。そこにいる人達から話を聞いたらいい……」
「嘘ついてないわよね?」
「わざわざこんな隠し部屋見せないよ」
「まあ優ちゃん。嘘で罠だったとしてもどうにかなるでしょう」
「あら大ちゃんってば頼もしい。じゃあ行くわよ〜」
全員で中に入るとドアを閉められると、部屋が動きだし下に向かっているようだった。
「ガゴン!!!」
凄い音と振動を感じだ僕らは、どうやらその地下に到着したみたいだった。
ドアを開けると薄暗い場所で豆電球の小さい灯りだけがあり、さらにドアが見えた。
慎重にドアに近づくとガチャとドアの鍵が開く音がした。
中から屈強な体付きの男が現れて経に入るよう促された。
いつでも刀を拔ける態勢をとった。
部屋は広くビリヤード台やダーツ台などが置かれていて遊んでいる大人達や、バーカウンターなどもその部屋には備え付けられているようでそこでは酒を飲んでいるような人がいた。
部屋全体は煙たく、こもっていた。
「おい! 昨日の騒ぎはお前達らしいな!」
奥から野太い男の人の声が聞こえ僕らは近づいていく。
重厚なソファに大男が座ってこちらを見ている。葉巻を咥えドレッドヘアでかなり威圧的な男だ。
「ここに住んでる人を助けてくれたみたいだな」
「まあでも僕らは、情報が聞きたかったから助けただけだよ」
「情報? 情報って何を聞きたいんだ」
「サファイアって店を探してるんだけど、知ってる?」
「!?!?!?!?!?」
「もしかしてだが、お前らは東京から来たのか?」
「元々は違うけど、そうだよ東京から名古屋に来た」
「誰に何かを言われたのか?」
「今日会ったばかりの人に詳しい話は話せないな。僕らが知りたいのはサファイアって店を知っているのかどうか? 知っていたら教えてくれるのかどうか? それだけ! 教えてくれないから帰るよ。自分達でどうにか探すから」
「ちょっと待て! もしサファイアって店を探しているなら何かカードみたいなの持ってるだろ? 持ってないか?」
カードと言われて思いつくのは、サオリママからもらったカードしかない。
「もしかしてコレのこと??」
僕はポケットからカードを取り出す。
「なるほどな……」
ソファに座っていた男が立ち上がる。
高身長である傑の身長を簡単に超える背丈で、190センチ近くはありそうだった。
「な〜に? サオリママの知り合いだったの? だったら早く言ってよ〜」
さっきまでの威圧的な態度と打って変わって、内股でオカマ口調になった。
「皆名古屋にようこそ~。歓迎するわ! ほらほらソファに座ってちょうだい」
言わるがままにソファに腰掛けると飲み物などを持ってきてくれた。
「私はお酒がほしいわ〜」
優ちゃんは、お酒をもらってお酒を飲んでいる。
「それでサファイアって店を教えてくれるの?」
「教えるも何もそんな店はないからね」
「なにそれ! ないんかい!」
大きなのリアクションで傑が反応する。
「無いっていうか暗号みたいなものよ。サオリママから詳しい事情聞いてるんでしょ? 例の子をサファイアって呼んでるのよ」
「それで昨日のあいつらって結局は一体何なの?」
「はっきりとした事は正直分からない。あくまで予測でしかないけど、どこからかサファイアの情報が漏れて国が探しているのか、もしくは特殊な子だから何か特別な信号とか電波とか流れててそれをキャッチしているのかも知れないわ」
「要するに国は、例の子を探しているって事?」
「多分ね。それ以外考えられないわ。連れて行かれるような事なんて何もしていないもの。それにこんな世界で犯罪だとかどうとか関係ないでしょう?」
「それでサファイアって子は無事なの?」
「今の所はね。でも匿うのもそろそろ限界だったの。タイミングが良かったわ!」
「その子は、そんなにシグマに狙われやすいの?」
「そうね。悪いと思っているけど閉じ込めてるのよ。流石にあのゾンビの大群に襲われたら私達じゃあ全滅だからね」
「今日1日はゆっくりしていったら? ここなら安全だわよ! 昨日の今日であっちも動いて来ないと思うからね」
「皆はどう思う? 明日にする?」
「私は大ちゃんの意見に従うわよ〜」
「俺も」
「大ちゃんはどう思ってるの?」
「圭佑……僕はすぐにでも出発した方がいいような気がするんだよね。妙な胸騒ぎがするんだよね」
「ごめん皆! 自分の勘を信じることにする。悪い予感がするから今からすぐに出発する。明日じゃいけない理由がないなら今日出発するよ」
「分かったわ。きっとそうやってここまできたんでしょうから。じゃあ今からサファイアの場所まで案内するわね」
僕らは彼、彼女の後をついていく。
部屋の中に秘密の部屋があり、そこから地上へと出た。
「こっちよ」
ビルとビルの間に進んでいく。人1人がギリギリで通れるほどの狭い場所を進んでいく。
「ここよ」
彼女はしゃがむとコンクリートの道に取っ手のようなものが出ていて、彼女が指をかけて引っ張ると地下へと続くはしごが現れた。
「この中にいるわ。銀髪のその子だけ来てちょうだい。狭いから後は見張ってくれるとありがたいわ」
「分かった。じゃあ行ってくる」
はしごをつたって下へ降りると地面から壁は灰色の冷たい今クートで覆われている場所だった。
奥に鉄でできた重厚そうな扉が見えてきた。
彼女が両手を使って鉄の扉を開けていく。
「ギギギギギギギ」
という嫌な音を立てながら扉を開けると中には簡素なベットが置かれていて、後はおもちゃが散乱していた。
サファイアと呼んでいた子供がそこにはいた。
ボサボサに伸び切った髪の毛で、ダボダボの灰色のスウェットを着ていた。
コンクリートで出来た冷たい地面に女の子座りをしながら積み木のようなもので遊んでいたようだった。
こちらを見ているが、表情はイマイチわからなかった。
青い綺麗な目だけが僕にはハッキリ見えていた。
「この子が?」
「そうなのよサファイアちゃん」
「女の子なの!?」
「そうよ〜。だから大事にしてあげてね! 後この子分からないんだけど、ほとんど喋らないのよ。精神的なものなのかそれともなんなのか分からないんだけどね」
「分かりました」
僕はサファイアに近づいていく。
「これから君と一緒に熊本県に行くことになった。僕の名前は大介だ。他にも仲間がいるから後で紹介する。とりあえず一緒に外に行くよ」
サファイアはうんともすんとも反応がない。
「ちなみに何歳??」
「それも分からないのよね〜。9歳か10歳かその位の年齢だとは思うんだけど」
「とりあえず外に出るよ。僕に捕まって! 一緒に出るから」
僕はサファイヤをおんぶして地下にあるこの場所から出る。
「その子が抗体を持ってるって子供なのか?」
「そういう事だね傑。優ちゃん車回してもらえますか?」
「分かったわ。ちょっとまっててね!」
「この子は今の所喋れないらしいから、大事に扱ってほしいと」
「保護している時にアタシは何度も喋りかけた事があるんだけどね。一度も喋った事がないのよ〜。だから喋ることが出来ないから余計に気にかけてあげてね」
「キュルキュルキュルキュルキュルキュル」
チェリーブロッサム号が来たようだ。
「そういえば名前聞いてなかった。僕は大介」
「傑だ」
「圭佑です」
「運転してたのが優子です」
「アタシはミドリよ!」
「サファイアちゃんとあなた達に日本の命運がかかってるわ。頼んだわよ」
「分かってます。全てがうまくいって落ち着いたらまた名古屋に来ますよ」
「楽しみに待ってるわ〜」
「「「じゃあね〜」」」
僕らは栄を後にする。
「本当に大変になっていくのはこれからだよな……」
夜になると襲ってくるであろうシグマを考え気を引き締めた。
「それじゃあサファイアちゃんの為に皆でショッピングに行きましょう」
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