第19話 正解が出ない決断

 「おい! 大介どこに行くんだよ」

 「大ちゃんまだ眠いよ〜」


 「これからゾンビを倒す練習しに行くから。練習しといて損はないからさ」

 僕はとにかく身体を動かしたかった。考え事をしたかったのだ。


 「大ちゃんそんなに張り切ってどうしたの〜?」

 2丁目近辺にいるゾンビ達を片っ端から斬り伏せていった。

 傑と圭佑も一緒になって戦ってくれている。


 「大介そろそろお昼になるよ? 一旦戻ろうぜ」

 「分かったよ。戻ろうか」


 2人の歩く後ろ姿を見ながら、僕は後をついていく。

 チェリーブロッサム号に戻ると開口一番に傑が口を開いた。


 「で!? 大介は一体どうしたんだ? 何かあったのか?」

 「大ちゃん今日変だもんね」

 「毎日一緒にいるんだ。流石に変だなって事ぐらいは分かるぞ」


 「……」

 「まあ昨日何かあったんだろ?」

 「……」


 「2人はさ、これからの旅がもっと危険でかなり大変な旅になるって言ったらどうする?」

 「「え?」」


 「それでも俺は九州目指したいね! どっちみちこんな世界で危険じゃない場所なんてないでしょ!?」

 「最初から俺達の目的は変わらないよね。九州で一発逆転だよ」


 「分かったよ。夜になったら連れていきたい所があるから2人とも夜になったら出かけるよ」

 そう言って僕は車から降りて、サオリママの店に向かう。サオリママに昨日の場所を教えてもらい夜に行くことを伝える。そして僕は眠りについた。


 「よし! 行くか!」

 僕等3人はシグマが集まる場所へと向かう。


 サオリママに教えてもらった場所に到着すると、開けた場所の中央には透明の箱、中には子供が入っていた。周りには武器を持った大人達が集まっていた。

 「大介! これは一体なんだ?」

 「2人共、ゾンビのシグマ見たことないでしょ!? 今から集まってくるからよく見てて」

 2人にそう伝えて、車から降りる。


 「ギギギギギギギギギギギギ」

 シグマが集まってきたようだった。僕は刀を抜いてシグマを蹴散らしていく。


 しばらく戦ったあと、集まってきたシグマが散って行った。

 車に戻り、エンジンをかけて車を走らせていく。


 「あれがシグマってゾンビなのか大介……」

 「うん」


 「本当に化け物だったよ……大ちゃん怖くなかったの?」

 「怖い? どうだろう。あんまり考えてなかったかも」


 「俺達は、大介みたいに戦えないぞ……あんなのと戦えないよ」

 「とにかく2人には、あんな奴もいるって知って欲しかったのもある。知ってるだけでも違うでしょ? 戦えるかどうかは別にして」


 「もし他のときに初見で出会ってたら確かにヤバかったかも。それで大ちゃんは俺と傑くんにシグマを見せたかっただけなの?」

 「いや! 本当は違う」


 店の前に戻ってきた僕等は、車を停めて2人を前にして僕は話しだした。

 「超いい話と、超悪い話があるんだけどどっちから聞きたい?」

 傑と圭佑は顔を見合わせて、不思議な顔をしていた。


 「俺は超いい話から聞きたいかな」

 「俺も」


 「分かった。九州に行って可愛い子をゲットして『卒業する』! その目標を簡単にしてくれるかもしれない依頼を頼まれたんだよ」

 「え!? どういう事!?」


 「ある子供を九州の熊本城に送り届けてほしいって依頼なんだ。もしこれが成功したら僕達3人は英雄になれるかもしれないし、救世主として崇められるかもしれないんだよ」

 「全然話が見えてこないよ大ちゃん」


 「分かった。1から全部説明するよ」

 僕は昨日聞いた事や、サオリママが考えている事。国が起こした事かもしれない事など全て2人に話していった。


 そして噛まれたのにゾンビにならなった子供がいる事、その子はゾンビの抗体を持っているかもしれない事実。その子供を調べる事が出来ればワクチンが作れるかもしれない事。


 熊本城にそのワクチンを作れるかもしれない人物がいる事などを僕は2人に話していく。

 たださっきいたシグマがいつも以上に襲ってくる事も同時に伝えた。


 だから九州までの旅がこれまでの比にならない程に過酷になるだろう事も伝えた。

 九州に着く前にやられて死ぬ事だって国から狙われる可能性すらありえるとも話した。


 ただもし無事に送り届けてワクチンが出来たなら、僕等は魔王を倒した勇者ぐらいには感謝されるかもしれない。そうすれば旅の目的である可愛い子と『卒業』も簡単に出来るだろうという事も話した。



 「……」

 2人はじっと黙ったまま僕の話を聞いていた。

 どんな反応が返ってくるのか僕は不安だった。


 「大ちゃんはどうしたいの?」

 圭佑が僕にそう尋ねてきた。


 「正直言って今でもちょっと分からないんだ」


 「僕の父さんの口グセがさ、『日本の危機になったら立ち上がれ!』とかいう人で僕は毎日鍛えられてさ、前の世界じゃあこんな武術も技術もほぼ必要ない世界だったけど、こんな世界になっちゃったけど、父さんが教えてくれた技術で傑と圭佑を助ける事が出来たし、結構役に立ってるって自覚があるんだよね」


 「今話した事だってさ、全て憶測の域を出ないんだよね。本当に意味がないかもしれないし。その子は名古屋にいるらしいんだけど、もしかしたらいないかもしれない。抗体だって実は持っていないかもしれない。熊本城に送り届けたとしてワクチンが出来ないかもしれない」


 「そんな可能性だってある……本当に死ぬかもしれない」


 「でもさこの日本を、世界を救えるかもしれない可能性が目の前に見つかって、日本の為にって頼まれたら断れないだろ? それになんかカッコいいだろ?」


 「ハハハ! 大介が真剣にずっと話しているなと思ってたら最後にカッコいいからって面白いな。大介の言う通り確かにカッコいいよ! 命懸ける依頼の成功報酬は、世界の救済とモテ期到来って事でいいな大介」


 「人生で最初で最後、最大のモテ期が来るよ!」


 「よし分かった! 俺はその勇者パーティーに入るよ」

 傑がそう言って立ち上がる。


 「本当に言ってるの!? だってさっきシグマを見たでしょ!? あれと戦ったりさらにはゾンビと戦わないといけないんでしょ!? ヤバいって!」


 「圭佑は頭がいいんだから考えろよ! 戦わないで済む方法を探せばいいって事だよ」

 「そういう方法もあるかもしれないね」


 「大ちゃんそんな方法あるの?」

 「いや……今は分からないけど」

 「ほら〜。やっぱないんじゃん絶対ヤバイよ〜」


 「本当に嫌なら来なくてもいいよ圭佑」

 「え?」


 「マジで危険だからさ、本当に嫌なら自分で選択していいよって。無理強いはしないよ。ここ東京に残ってもいいと思うし」

 「大ちゃん酷いよ〜」


 「そういうつもりは無いんだけどね」

 「あ〜〜もう分かったよ覚悟決めるよ! 行くよ行く!」

 「よし! じゃあこれで決まりだな。一心同体だな全員」


 「名古屋着く前には、2人にはもっと戦えるようになってもらうからね」

 僕等は、サオリママから頼まれた依頼をやることを決めた。


 「あらおかえりなさ〜い。戻ったのね」

 「サオリママ! 僕等やることに決めました」


 「そうなのね。ありがとうね! じゃあ優ちゃんこの子達のドライバー頼むわね」

 「分かったわママ。任せてちょうだい」

 「え? もしかして優ちゃんまた付いてくるの?」

 「な〜によっちゃん。もしかして嫌なの?」


 「いや〜」

 「僕等って運転下手くそだからね。優ちゃんがいれば心強いよ」

 「大ちゃんは分かってるわね〜!」

 「それでいつ出発するのかしら?」

 「明日にでも行こうと思ってます。長居すると出発しづらくなるから」


 「そうなのね。寂しいわ〜」

 「え〜大介君達居なくなっちゃうの??」

 後ろからリカちゃんに抱きつかれた。

 「まあ元々東京に来ることが目的ではなかったですからね。ついでだったんです」

 「じゃあ送別会やらないとね! ねえママ?」

 「そうね! パーッとやりましょう」


 東京都新宿2丁目の最後の夜を僕等は騒いで楽しんだ。

 朝まで騒いで、そのままチェリーブロッサム号に乗り込む。


 サオリママや他の人達皆で見送りをしてくれるようだった。

 ミラー越しに、望と清美がこっちに来るのが見える。


 「傑と圭佑。望と清美が来てるよ! ホラ! 話してきなよ」

 「マジで? 分かったわ」

 「行ってくるよ大ちゃん」


 「大介君! これを見せれば大抵のオカマは味方してくれると思うわ」

 サオリママにそう言われて名刺のようなカードと情報が書かれた書類が入った封筒を渡された。

 「ありがとうございます」

 「大介君頼んだわよ! 優ちゃんもよろしくね」

 「勿論よ」


 傑と圭佑が車に戻ってくる。

 「どうだった? 仲直り出来た?」

 「多分?」

 「多分……」

 「なんだそりゃ」


 「全部終わったらまた東京で会おうって、遊ぼうって約束してきた」

 「そっか……」

 「そろそろ行くわよ〜!」


 チェリーブロッサム号が発進する。

 目指すは名古屋……。

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