第18話 それぞれの思いと依頼

 「急にどうしたの?」

 「性別ってなんだろうなて思ってさ。だって俺達が通っていた高校であの2人程の可愛い子っていた??」


 「いや、いなかったと思う」

 「だろ? 圭佑もそう思うだろ?」

 「うん……」


 「見た目は女、体は男ってどういう事だよ! 脳がバグったかと思ったよ」

 「アネキとアネキの友達よりよっぽど女の子だったよ〜」


 「結局はどうなの? いい感じだったの?」

 「いい感じだった……よ。でも男なんだよ!?!?」

 「清美ちゃんが男……清美ちゃんが男」


 「でもさ、望と清美が自分から男だって傑と圭佑に告白したって事は、少なからず本気だったんじゃないの? 言ってたよ。自分が男だって告白するってかなり勇気がいるって」

 「傑と圭佑って女の子に告白した事ある?」


 「いや、まだない」

 「ないよ」


 「普通に告白するより遥かに勇気がいる事だと思うんだよね。それにさ正直言ってあの2人って見た目完全に女の子でしょ!? 相当努力してると思うんだよね。男なのに男の事が好きで、だから女の子よりも女の子らしくって努力してきたんじゃないかな?」


 「だから受け入れろ! とは言わないけど、せめて仲直りはしてもいいんじゃない?」

 「大介の言う通りなんだけどさ……」

 「でもどう接していいか分からないよ〜大ちゃん」


 「まあそうだよね……今度は男として接する事が出来るか? って言われても微妙だよね」

 「「……」」

 「一応2人にこれ。仲直りにいいと思うんだよね」

 傑と圭佑にゲーセンで取ったぬいぐるみを渡した。


 「真面目にありのままの事を言えば、望と清美も分かってくれると思うよ」

 「分かったよありがとう大介。次会ったら話してみるよ」

 「そうだね傑くん」


 一段落した僕らは店に入った。

 優ちゃんにサオリママ、他にも何人か店にいた。

 「おかえりなさ〜い」

 「「「ただいま」」」


 「大介君、この後時間あるかしら?」

 「えっ!? 別に予定は全くないですけど」

 「じゃあちょっと一緒に来てもらいんだけどいい?」

 「いいですけど、店はいいんですか?」

 「大丈夫大丈夫、皆常連だし。それに皆こう見えて強いから安心していいわよ」


 「……」

 (確かにどこをどう見ても、皆強そうだもんな)


 「僕だけでいいんですか?」

 「そうよ。じゃあ行きましょう」


 「な〜に? ママデート?」

 「そうよ! じゃあ大介君と行ってくるから後はよろしくね」

 「「「はーい」」」

 僕はサオリママと2人で店を後にした。


 ビルを降りると1台の車が止まっていた。

 「この車に乗ってちょうだい」

 「はい」


 助手席に乗ると車は動き出した。

 サオリママは静かに車を走らせていた。


 「大介君は、シグマについて興味持ってたでしょ?」

 「ええ、まあはい」

 「今からシグマが集まる場所に向かうから」

 「そんな場所があるんですか?」

 「着いたら分かるわよ」


 しばらく車を走らせると、東京の狭い道ではなく広い場所に到着する。

 大きく開けた場所の真ん中に何か箱のようなものが置かれていた。


 「サオリママ、あれってなんですか?」

 「……よく見てごらん」

 そう言われてよく見ると、透明な箱が置かれていて中には少女が入っていた。


 「えっ!? まさかサオリママ! 子供使っておびき寄せてるんですか?」

 「まさに大介君の言う通り、おびき寄せてるのよ。確かに酷いやり方だけど、1番手っ取り早い方法でしょ!?」

 「あの子供の事はどうなるんですか!? 生け贄ですか!?」

 「大丈夫よ。防弾でかなり丈夫だから簡単に破られたりしないわ。今までだって一度も破られたことはないもの」

 「だとしても、そういう問題じゃないでしょう」


 そう話していると、あちこちから奴の声が聞こえてきた。

 「ギギギギギギ」

 「集まってきたみたいね」


 見るとシグマが何体も集まってきて、少女に向かって飛びかかる。

 だが、囲われている箱に弾かれていた。


 物陰の方からぞろぞろと人間が集まってきた。彼らは武器を持ってシグマに攻撃を仕掛ける。

 「サオリママ、こうやって集めてシグマを退治してるんですか?」

 「そうよ。何ヵ所か同じような場所があって、こうやって対抗しているわ」

 「正直言って頭がいいやり方だと思うし、超効率的で超合理的だけど僕はこのやり方好きじゃないです」


 僕はサオリママに吐き捨てるように言って、車を飛び出した。

 刀を抜いてシグマに斬りかかる。弾かれようが止められようが関係ない。何度も斬りかかった

 

 何十回と攻撃した事で、シグマの動きに慣れてきた。

 こいつらは、フェイントと緩急を織り交ぜると避けきれない事に気付いた。

 

 慣れてからは、シグマをドンドン斬り伏せていった。

 僕は刀を使って最後の1体の首を刎ねた。


 周りにいた人達が僕の事をじっと見つめていた。

 刀についた血を振り払い、鞘にしまいながらサオリママの車に戻る。


 「大介君って何か武道をやっていたの?」

 「どうですかね? 父さんから教わった事しかないですね」

 「そうなのね〜。シグマをあんな簡単に倒すなんて思ってもみなかったわ」

 「それで? サオリママはなんで僕にこんな事を見せたんですか?」


 「そうね〜。もうちょっとドライブに付き合ってもらうわ」

 サオリママはハンドルを切って車が動きだす。


 土地勘がないから自分がどこにいるのかさえ全く分からなかった。

 30分程走らせた後、車が止まった。


 「大介君ちょっとついてきてもらえる」

 「わかりました」

 僕は最大限に警戒しながら、いつでも刀を拔ける状態で後をついていく。

 目の前のビルに入っていき、階段を上がっていく。


 3階のドアを開けて中へと入る。長い廊下があり1番奥にあるドアの前進む。

 「ここよ」

 「ここに何かあるんですか?」

 「ただの部屋しかないわ」


 サオリママは暗証番号を入力し、ドアの鍵を回すとかなり分厚いドアが開く。

 中に入ってもう1つのドアを開けるとそこは事務所のような場所だった。


 「そこのソファに座って」

 「え、あ、はい」

 「何か飲む?」

 「いや大丈夫です」

 「そう」


 サオリママは、机の引き出しの中から大きめの封筒を取り出して、僕の前に置いた。

 「これをみて頂戴」

 「……」


 僕は何がなんだか全く分からないまま、サオリママの言う通り封筒の中身を取り出した。

 中身は何枚もの子供の写真と、沢山の情報が書かれている紙が入っていた。


 「サオリママ、マジでなんなんですか? 全く分からないんですけど……」

 「単刀直入に言うわ! 写真に写っているその子を、熊本城まで送り届けてほしいの」


 「えっ!? どういう事ですか!?」


 「その子の写真をよく見て。その子は世界がこんな事になったその日にゾンビに何ヵ所か噛まれたのにもかかわらず、ゾンビにならなかったのよ」

 「え!? それは本当ですか!?」

 「本当よ」


 確かに写っている写真の中には、噛まれたような傷が写っていた。

 「つまりはその子は、ゾンビに対しての抗体を持っている可能性がとても高いって事」

 「超重要な子じゃないですか」


 「そうよ。今その子は名古屋にいる仲間がかくまっているの」

 「そんな世界の救世主になるかもしれない子の情報をなんで僕に?」


 「だから言っているでしょ。その子を大介君達が名古屋で拾って、そのまま九州にある熊本城に送り届けてほしいってこと」

 「いやいや! 全然わかんないですよ……」

 「あら? どうして?」


 「国に対応してもらった方がいいでしょ! どう考えても! どうにかして自衛隊なりに連絡取れば、まっ先に保護してくれるんじゃないんですか?」


 「もしゾンビだらけになったこの世界が、国による仕業だったとしたらその子はどうなる?」

 「は? どういう……」


 「私はこの全てが、世界各国の国による仕業だと思っているのよ。つまり国によって人工的にゾンビを生み出してこんな世界にしたって事よ」


 「なんの為にですか?」

 「人口調整の為よ」


 「地球に住んでいる人間が多すぎて、もう地球自体が限界って話を聞いたことない?」

 「いえ……」

 

 「だから火星に移住しようなんて計画まであるのよ。昔だったら病気とか戦争とかで人口が爆発的に増えるなんて事はなかったけど、第2次世界大戦が終わってから爆発的に人口が増えていってもう地球が限界なの」


 「戦争をしようとすると世界から非難されちゃう世の中なのよ。じゃあどうすれば人口を大量に減らす事が出来るのか? って行われたのが今のこの世界って事よ!」

 「サオリママそれ本当に、マジで言ってるんですか?」


 「マジで言ってるわ。そもそも自然的にゾンビなんて発生する訳ないじゃない! 冷静に考えたらありえないでしょう?」

 「まあそうですけど」


 「それと私の情報網では、日本で有名な人や重要な人物、偉い人なんかは巨大な地下の施設に逃げ込んだっていう情報を手に入れたわ。つまりは前々から分かっていたという事よ」

 「たまたまって事はないんですか?」


 「いい? 大介君覚えておきなさい。世界や国で起こる大きな事件とか戦争とかってね、全てが仕組まれているものなのよ。今回の事もそう。絶対にたまたまじゃないの。必ず裏があるわ」

 

 「サオリママの予想する事が全て本当だとしても何故僕に? そんな超重要な事を高校生の僕に頼まないで、サオリママの力を使って大人数でやった方がいいんじゃないですか? それか名古屋の仲間達に頼んだ方いいんじゃないですか?」


 「本当だったらそうするのが1番なのかもしれないわね。でもそれはそれで難しいのよ! そんな大人数で移動出来るだけの車やガソリン、それに食料や水の確保が難しい」


 「私達がここから離れると新宿が無茶苦茶になっちゃうから大人数では離れられない。そして私達のほとんどが国からマークされてるよ。もし国の仕業だとしたらきっと怪しまれちゃうわ。それにその子なんだけどやはり特別なのか、普通以上にシグマに狙われるらしいからシグマと戦える人じゃないと駄目なのよ。名古屋のいる仲間では九州までシグマに対抗出来るだけの術がないのよ」


 「その子を熊本城にって熊本城には何があるんです?」

 「オカマの仲間がいるって言っていたでしょう? そのオカマ仲間の中に医者と製薬会社で研究していた人がいるのよ。だからその子を届ける事が出来れば、きっと何か分かってゾンビに対抗出来るワクチンが作れるかもしれないのよ」


 「サオリママ自身でやるのではなく、僕等に任せると?」

 「そうよ。大介君のシグマとの戦闘を見て、そして今までの態度や人のなりを見て、最後はオカマとしての私自身の勘よ」


 「そんなんで僕等に?」

 「私の勘はよく当たるのよ。それにこれは運の要素もとても必要だと思うの。後は3人共若いからその若さに賭けるわ! 賭けも強いのよ私」


 サオリママは僕の目を真っ直ぐ見てそう言い切った。

 これはきっとマジで言ってるとそう僕は感じた。


 すぐに僕は答えを出すことは出来なかった。もし引き受けたら傑や圭佑にもっと危険が及ぶかもしれないと思ったからだ。


 「今答えを出さなくてもいいわ。引き受けてくれるなら、運転手には優ちゃんをつけようと思ってるの。彼女の運転席技術は凄いからきっと役に立つわ!」

 「……はっきり言って悩ましいです。こんな重大な事、簡単に答え出せないです」


 「この事を傑と圭佑に話してもいいですか? 仮に引き受けた場合、名古屋から九州までの道のりでシグマから狙われるんですよね? 2人にも危険が及ぶわけで2人の意見も聞きたいんです」

 「勿論いいわよ! でも絶対に他には漏らさないって誓ってちょうだい。もし漏れて誰かに伝わっていって国にバレたら、きっとその子は国に攫われて処分されてお終いだから」

 「わかりました。約束します」


 「それじゃあ一旦帰ろうかしらね。疲れたわね大介君」

 「めちゃくちゃ疲れましたよ!」

 部屋を出て車に乗り込み出発する。

 僕の頭の中はモヤモヤしていたが、街には気持ちいい程の朝の日差しが差し込んでいた。


 店に戻ると昨日も騒いでいたのか、傑と圭佑は床で気持ち良さそうに寝ていた。

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