第17話 ダブルデート

 僕は朝早くに、まずは望と清美を起こした。

 「2人とも早く起きて。朝だよ」

 体を揺すって2人を起こした。


 「あれ? 大介君おはよう」

 「おはようございます。今何時ですか?」

 「朝の7時前だよ」


 「2人とも今日デートするんでしょ!? 一応早めに起こしにきたんだけど……」

 「ありがとう大介君。でもお母さんまだ寝てるからな〜。家に帰れそうにないな」

 「ふぁ〜。私はとにかくシャワー浴びたいわ」

 「ね〜! シャワー浴びたいよね〜」


 「僕らの車にシャワー付いてるけど、浴びてく?」

 「えっ!? いいの!?」

 「いいよ! まだ傑と圭佑起きないだろうし」

 「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかしら」

 「清美ちゃん行こっか」


 僕は2人を連れて静かに店を出て、チェリーブロッサム号に向かった。

 「ここがシャワー室だから使っていいよ。僕は外にいるからさ。終わったら声かけて」


 「ありがとう大介君」

 「2人に聞きたいんだけどさ、傑と圭佑の事をどうするつもりなの?」


 「どうするって? 大介君どういう事?」


 「僕は君等が男だって知ってるんだよね。別にどうしたいとかじゃないんだけどね。傑と圭佑の2人ってさ、素敵な彼女を作ることが目標で、地元の茨城県を飛び出したんだよ。そんな中で君達と出会って、君達の事を本当に女の子だと思ってるからさ」


 「どっちが悪いとかじゃないと思うんだ。ただこのままだと全員が不幸というか傷付くというかさ、そんな終わり方になっちゃうんじゃないかと思ってさ……」

 「こんな世界になって初めて会った同い年だから、良かったら仲良くしたいなと僕は思っているんだけどね……」


 「大介さんの言いたいことは分かります。いつかは言わないといけない事だと思っています」

 「そうそう! 別に私達、傑君と圭佑君の事をからかってるわけじゃないよ大介君」

 「それなら良いんだけどさ……まあとにかくシャワー浴びなよ。じゃあ外で待ってる」

 チェリーブロッサム号の外に出て、2人がシャワー浴び終わるのを待った。


 「大介君シャワーありがとう!」

 「ありがとうございます」

 シャワーを浴び終わった2人が車から降りてきた。


 「え、うん」

 すれ違いざまに2人からは、いい匂いがした。未だに男だという事が信じれらない。


 店に2人を送り届けると、傑と圭佑を起こし再び車に戻った。

 「なあなあ、今日デートって緊張してきたんですけど!!」

 「朝からテンション高いな傑」


 「そりゃあテンションも高くなるよ! なあ圭佑。圭佑もそう思うだろ?」

 「高くもなるよ! 俺なんて人生で初めてのデートだよ」


 「まあ2人とも今日は頑張りなよ。もしかしたらとんでもない衝撃的な1日になるかもしれないし……」

 「確かにな……まさかの『卒業』もあるかもしれないしな」


 「えっ!? そんな急に!?」

 「いける時にいっとかないと一生後悔するぞ圭佑。頑張ろうぜ」

 「分かった! 頑張るよ!」

 傑と圭佑の2人は、熱く握手を交わす。


 約束の時間10時になった。

 サオリママと一緒に望と清美がビルから降りてきた。

 「おまたせ〜」

 「全然いいよ! 2人共後ろに乗って」


 運転席の方にサオリママが近づいてきた。

 「場所はナビに入れてあげる。後シャッターが閉まってると思うんだけど、店の鍵渡しておくからね」

 なんでゲーセンの店の鍵をサオリママが持っているのか不思議に思ったが、何も聞かずに僕は鍵をもらった。


 「中に入ってすぐ隣に管理室があるから、そこにある電源をあげたら使えると思うから」

 「ありがとうございますサオリママ。なんか2人のワガママ聞いてもらっちゃって」

 「別にいいのよ! 楽しんできてね」


 「大介! もう行ける?」

 「行けるよー」

 「それじゃあレッツゴー」

 「じゃあサオリママ行ってきます」

 「いってらっしゃ~い」


 目的地のゲーセンに向かって走り出す。

 後ろでは、楽しそうに会話をしている4人。

 目的地はかなり近かったようで、10分もかからずにたどり着いた。


 「大ちゃんもう到着したの?」

 「そうみたいだね。ちょっとここで待ってて。僕が先に様子見てくる」


 「大介さん大丈夫なんですか?」

 「大介は強いから大丈夫だよ清美ちゃん」

 「ならいいんですけど……」


 外に出ると、周りにいるゾンビ達を排除していった。

 地下へ続く階段を降りるとサオリママに言われたとおりシャッターが閉まっていた。


 鍵を使ってシャッターを開ける。

 本当にそこはゲームセンターだった。


 中に入りすぐ近くの管理室にある電源をあげた。

 「バチッ! ブーン! ピロピロ!」

 電気の音と機械音が聞こえ、店内が明るくなりゲームのBGMが鳴り出した。


 「マジでゲーセンじゃん!」

 車に戻って安全を確認した僕は、4人を外に呼んだ。


 そして店内へと入った。

 「すご〜い! ゲーセンなんて残ってたんだね」

 望がクルクルと回りながら店内のあちこちを見ていた。


 「広いなこのゲーセン、種類もめちゃくちゃ多いし、流石東京だな」

 「ねえねえ! どうする? 皆で最初はなにする?」


 「私は皆で出来るゲームしたいな〜!」

 「じゃああっちにあるレースゲームしようか」

 4人は対戦型のレースゲームをやり始めた。


 僕はやらずに見学していたのだが、どこからか視線と気配を感じていた。

 バレないように僕は動いて背後を取った。


 「何してるんですか?」

 「あら〜。バレちゃった?」

 「バレちゃったじゃないですよ。覗きですか?」

 「だって面白そうじゃない?」

 そこに居たのは、サオリママとリカちゃんだった。


 「娘のデートって気になるじゃない?」

 「バレますよ??」

 「大丈夫よ〜。普通は分からないから」

 「まあいいですけど、絶対にバレないようにして下さいよ?」

 「分かってるわ! 大介君こそ早く戻らないと怪しまれるわよ」


 戻ると丁度レースが終わったようだった。

 「圭佑お前ずるいぞ!」

 「ずるくないよ! 俺がただ上手いだけだよ」

 「あ〜負けちゃった〜」

 「よく分からなかったわ」


 「よし! 次行こう次!」

 その後は皆でシューティングゲームやホッケー、音楽ゲームなどして楽しんだ。


 「ねえ、大介君も入れて皆でプリクラ撮らない?」

 「それいいね望ちゃん。皆で撮ろう! 大介こっちきてよ」

 「はいよ!」

 僕らは一台のプリクラ機に入り皆でプリクラを取った。


 「ちょっともうちょっと詰めないと皆入らないよ?」

 「傑くんもうちょっとそっち行ってよ」

 「圭佑そんな押すなって」

 「ちょっと押しすぎ押しすぎ! バランスが――あっ!!」

 「カシャ!!」

 

 全員がバランスを崩して、とんでもない顔の瞬間を撮られた。

 現像されたプリクラを見て皆で笑った。


 他にも色々あったゲームを片っ端からやっていく。

 無情にも時間はあっという間に過ぎていく。


 清美がUFOキャッチャーの前で1人佇んでいた。

 「あれ? 圭佑は?」

 「トイレ行ってます」

 「そうなんだ……どうしたの? この商品欲しいの?」

 「いえ別に……」


 丁度そのタイミングで圭佑がトイレから戻ってきた。

 「清美ちゃんお待たせ」

 清美はスタスタと歩いて行く。

 僕はなんとく清美が欲しいのかなと思ったので、UFOキャッチャーの商品であるうさぎのぬいぐるみを取った。ついでに隣の犬のぬいぐるみも取った。


 僕は入口付近のベンチに座って4人を待っていた。

 すると奥の方から、


 「うぎゃーーーーーー!!!!」

 と傑の悲鳴が聞こえた。


 僕瞬時に戦闘態勢に入って声の方へと向かった。

 前から傑がこちらに向かって走ってきた。


 「だいすけーーーー!!」

 「なんだよ! どうしたんだよ!」


 「ギャーーーーーーーー」

 今度は違う方から圭佑の声が聞こえてきた。


 泣きながら圭佑が走ってきた。

 「大ちゃーーーーーーん!」

 「どうした!? ゾンビでも現れた!?」


 何が起きたのか2人に尋ねた。

 「は、は、は」

 「傑何言ってんの?」

 2人とも声にならない声を出していた。


 「ち、ち、ち」

 「は、とかち、だけじゃ分からないよ」

 望と清美が一緒にこっちに向かってくる。


 「望と清美、何があったの? 何かしたの?」

 「何もしてないよ。私達の秘密を打ち明けただけだよ〜」

 「そういう事です」

 「……なるほど」


 傑と圭佑は、僕の後ろに隠れるようにして望と清美を見ていた。

 「それでこうなってしまったと?」


 「おい! 大介! まさかお前は知っていたのか?」

 「ん〜。まあ一応……」

 「大ちゃんひどいよ! なんで教えてくれなかったのさ」

 「教えるも何もそんなタイミングなかったし、それ以上に傑と圭佑が望と清美の事を気に入ってる様子だったから余計に言えなかったんだよ!」


 「大ちゃん信じられる? 清美ちゃんにおちんちん生えてたんですけど!」

 「望ちゃんにも生えてた」

 「僕だって正直信じられなかったけど、2人の反応みるとマジみたいだね」


 「それで……結局はダブルデートは失敗って事?」

 「「「「……」」」」

 僕も含めて全員が黙ってしまった。


 「じゃあ帰るよ」

 「望ちゃんと清美ちゃんは私達が預かるわ」

 ずっと覗いていたサオリママとリカちゃんが姿を現した。


 「この後皆で車でって気まずいでしょ? だから私達と一緒に帰るから」

 「分かりました……お願いします。僕らは3人で帰りますから」

 「分かったわ。気をつけて帰ってきてね」

 「はい」


 店の電源を落としてシャッターを閉め、チェリーブロッサム号に乗り込んだ僕らは3人は2丁目へと向かっていく。


 全く会話はなく黙っていた。傑と圭佑は放心状態なのかずっと下を向いたままだった。

 到着してエンジンを止めたものの、しばらく3人はずっと黙っていた。


 「なあ大介、性別ってなんだろうな……」

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