第16話 出会い
カランカラン。
「お母さーーん!!」
「のぞみーー!!」
リカちゃんと望は、店の中で抱き合った。
「望が攫われた時心臓が止まるかと思ったわ」
「私も恐くて心臓が止まりそうだった」
「私のせいでごめんね。清美ちゃんもごめんね」
「いえ、無事に帰れましたから」
「ママ本当にありがとうございました。娘達を助けてくれて」
「いいのよ〜別に。今の世界は余計に助け合いが大事よ! それに私よりもここにいる大介君が1番の功労者なのよ。彼が車を止めてくれて2人を助け出す事が出来たのよ」
「大介君本当にありがとうね」
リカちゃんが深々と僕に頭を下げる。
「いえ、そんな大した事は……とにかく皆が無事で良かったです」
「皆が無事って事で、パーッとパーティーでもしたいわねママ!」
「いいわね〜。しちゃおうかしらね!」
優ちゃんがママにパーティーを持ちかける・
「それなら丁度いいの俺達持ってますよ! なあ大介??」
「そんなのあったっけ? あ〜〜分かった傑」
「BBQ皆でしましょうよ! BBQセットあるんで俺達」
「本当に!? それいいわね! じゃあ食材と飲み物を調達して屋上でやりましょうよ」
「じゃあ決まりって事で!! みんなでBBQだ!!」
BBQをする事になった僕達は、チェリーブロッサム号に保存している食材の中で、BBQで使えそうな食材を全て出していく。
サオリママ達は近くに食材などを調達出来る場所があるらしく、皆ででかけていった。
一通りの荷物を抱えた僕らは屋上へと上っていく。
屋上に上がると涼しい心地よいビル風が入ってくる。
「よ〜し! じゃあBBQの準備をしよう!」
「傑と圭佑で準備お願いしていい? 一応僕が周りを警戒して見張っておくから」
「分かったよ大ちゃん任せて!」
東京のド真ん中、新宿といっても街の明かりはほとんど消えていて暗かった。
もうすぐ電気やスマフォも使えなくなるだろう。
そんな事を考えていると他の皆も屋上に上がってきた。
「おまたせ〜」
大量のスーパーの袋には肉や野菜、酒や飲み物、お菓子までも詰まっていた。
「凄いですね。よくまだ肉とか野菜とかありますね」
「冷凍庫に保存している場所があって、まだあるのよ〜。傑君すぐに始められそう?」
「ママさん、すぐにでも始められますよ」
「じゃあ始めちゃいましょうかしら」
全員が瞬時に一致団結して野菜が切られ、食材が用意されていく。
びっくりする程女子力が高い……男性達だ。
「なあなあ圭佑! 圭佑は清美ちゃんと望ちゃんどっちがタイプなの?」
「そりゃあ清美ちゃんだよ。清楚で可憐でスマートで頭も良さそうだし」
「俺は望ちゃんタイプなんだよ。被らなくて良かったな」
「大ちゃんの意見はいいの? 2人だけでそんな盛り上がって」
「大介はいい奴だからきっと今回は譲ってくれるよ」
(全部丸聞こえだぞ2人共)
「傑君、食材持ってきたから焼いてもらってもいい?」
「望ちゃんって料理好きなの?」
「ん? そうね結構好きかも! お母さんとよく料理するよ」
「そうなんだね〜」
様子を見るに、傑はすっかり望の事を好きになっているようだった。
ここまでくると、もう言えない……男だと言えない。
「じゃあみんな〜、グラス持った?」
「「「「「はーい」」」」」
「じゃあカンパーイ!!」
「「「「「カンパーイ」」」」」
BBQが始まった。
いい匂いがだんだんしてきて、食欲をそそられる。
傑と圭佑は焼いてくれている。清美と望も手伝ってくれているようだ。
僕は100%で楽しむ事は出来なかった。辺りを警戒しているからだ。
何かが近寄ってくる様子と気配はないが、BBQをしていたらきっと近づいていくる。
いつでも戦闘が出来る準備を僕はしていた。
「大ちゃんも一緒に楽しまないと」
「優ちゃん」
「ずっと警戒してるでしょ!?」
「いやまあ……今は襲われたらヤバいでしょ?」
「もう真面目ちゃんね〜。ほら食べ物取ってきてあげたらから大ちゃんも食べなさい」
「ありがとうございます」
サオリママやリカちゃんなどはお酒を飲んで上機嫌になっていた。
「大介く〜ん。娘の望を助けてくれてありがとうね」
後ろからリカちゃんに抱きつかれた。
「娘って、男なんでしょ!?」
「あら? 大介君気付いてたの?」
「いや、教えてもらったんです。言われなかったら正直気付けないです」
「望は私違って可愛いからね〜。それでどっちがどっちを気に入ってるのかしら?」
「あっちの身長が高い方が望の事を気に入ってるみたいですよ」
「そうなのね。どうなるかしらね?」
「皆そうやって面白がってますけど、知っている僕としては複雑です」
「でも私達の恋愛って大変なのよ? 望と清美ちゃんなんてもっと大変かもしれないけど」
「どういう意味です?」
「だって男なのに男が好きなのよ? 受け入れてくれるか不安だもの。望と清美ちゃんなんて可愛いから、最初は誰も男だって思わない。でもいつかは言わないといけない。男だって告白しただけで今まで好きとか言ってくれたのに手のひらを返したかのように、汚物を見るかのような目で見られたりするのよ?」
「それは……難しいですね」
「そうでしょう? だから女よりも女らしく頑張ったりするのよ。それでも恋が実るか分からない」
「そういう人もいるって知ってはいますけど、いざ現実に目の前にってなると中々受け入れるのは時間がかかりそうです」
「まあそういうものよね〜。ごめんね大介君、しんみりしちゃう話をしちゃって。」
「いえ、全然大丈夫です」
「私は大介君なら望を安心して任せられるんだけどね〜」
「それは……申し訳ないですけど……」
「ウソウソ! ごめんね。でも今日は本当にありがとうね」
リカちゃんはお酒をあおりながらサオリママ達の元へと戻っていく。
辺りはすっかり夜になっている中で、僕達のBBQを楽しむ声は新宿に響いていた。
「じゃあそろそろお開きにしようかしらね〜」
「はいはい! 早く片付けて撤収するわよ〜」
さっきまでふざけていたのが嘘のように手際良く片付け終わった。
「じゃあ皆〜帰るわよ〜」
「大介君またね!」
「大介さん、さようなら」
「お、おうじゃあね」
望と清美に僕は挨拶を返した。
僕と傑と圭佑はチェリーブロッサム号で今日は寝ることにした。
車の中にあるベットに横になる2人。
「なあ大介! 聞いてくれてよ! ダブルデートする約束しちゃった」
「え??」
「だから、俺と圭佑、望ちゃんと清美ちゃんの4人でデートすんの」
「マジで!?」
「マジなんだよ大ちゃん。さっき勢いで誘ったらいいよって」
「デートって……どこ行くの? 僕らって東京全然知らないしさ」
「明日さママさんに聞いてみようと思うんだよね。それで決めようと思って」
「良かったんじゃない?」
「大ちゃんは応援してくれるの?」
「うん。全然いいよ! 応援するよ」
「じゃあ2人は早めに寝なよ。僕は朝まで見張りしてるから2人は安心して寝てていいよ」
「ありがとう大介」
「おやすみ大ちゃん」
「おやすみ」
僕は車の外に出て車の上に上り、そこで警戒する事に。
車に近寄ってきたゾンビを僕は倒していく。
倒すのは練習のようなものだった。
もっと戦いに慣れておく必要があると感じていたからだ。
それに僕自身、今後どうしていこうかと悩んでいた。
傑や圭佑のような生きる熱意があるわけではない。
ただ死にたくはない。
だから生きている。ただそれだけだった。
こんな世界の中で、父さんがいつも言っていた日本の為に何かする事が僕にできるのだろうか?
僕の中でずっと渦巻いていた。
ふと気付くと、朝焼けの陽が新宿にあるビル群を照らしていた。
朝になって傑と圭佑を起こし3人で朝食を食べると、僕らはサオリママの店に訪れた。
「あら。いらっしゃ〜い」
「ママさんおはよう」
「おはようございま〜す」
「サオリママおはよう」
「おはようみんな」
「サオリママ、悪いんだけどここで寝かせてもらってもいいですか? 朝まで見張りしていたから疲れたんだ。何かあれば遠慮なく起こしてもらっていいですから」
「いいわよ大介君」
「それじゃあおやすみ〜。傑と圭佑、あんまり無茶苦茶しないでよ。いきなり外にでかけたりとかナシだからね」
「分かったよ大介」
僕は眠りについた。
周りの騒がしい声や音で僕は目が覚める。
体を起こすと目の前には知らない人達が沢山いて、優ちゃんやリカちゃん達、望や清美達も店の中で皆で騒いでいた。
「一体これはなんだ?」
「あら? 起こしちゃった?」
目の前にいるオカマに話しかけられた。
「いえ、そんな事は……今何時ですか?」
「もうそろそろ20時になるわ」
結構長い時間熟睡してしまったようだ。
ペットボトルに入った水を飲んで、まだ起きていない脳を起こしていく。
「おーーーーい! 起きたか大介ーーーー! じゃあ景気付けに横山傑、1曲歌いまーす!」
テーブルの上に上半身裸の傑が立っていて、カラオケのマイクを片手に歌い出した。
それよりも傑の肌が寝ている間にかなり黒くなっていた。
「大ちゃん起きた?」
「うん。圭佑それよりもどうなってんの?」
「よく分からないけど、昼過ぎ位から人が集まってきて、いつの間にか宴会になってた」
「そうなんだね。僕が寝ている間に何か異常とかなかった?」
「何もないよ。普通に平和だった! それよりも大ちゃん明日デート行くこと決まったんだよ!本当にごめんなんだけど、一緒に来てもらえない?」
「えっ!? なんで僕も一緒に!?」
「一応ボディガードってわけじゃないんだけどさ、大ちゃんいれば俺らも安心してデート出来るからさ」
「めちゃくちゃいいように僕って使われてない?」
「そうとも言えなくもないけど……俺と傑くんだけで外に行くのは不安だからさ」
確かに2人だけでどこかに行かせるのは僕だって不安がある。
攫われたばかりの望と清美の身に、また何かあったらどうしようとも思った。
それよりも何より、男だと知っているのにかかわらず、2人に伝えていない罪悪感があった僕はその提案を受け入れた。
「分かったよ」
「マジで!?」
「うんいいよ」
「いや〜良かったよホント。断られたらどうしようって傑くんと話してたんだけどさ」
「それで一体どこに行くの?」
「サオリママに聞いたんだけど、近くにあるゲーセンが良いんじゃないかって」
「ゲーセンとかまだ生きてるの?」
「ゾンビが大量に発生した日、たまたま休みだったみたいで全部の機械も生きてるし、ゾンビもいないって」
「というか、サオリママなんでそんな事まで知ってるんだ?」
「さあ、そこまでは分からないけどさ」
「それじゃあ大ちゃん明日頼んだよ! 10時出発だから」
「早くない?」
「傑く〜ん! 大ちゃんがオッケーだって!」
「マジか!! サンキュー大介!! じゃあ続けてもう1曲歌いまーす!!」
「いいぞーー! 歌えーー! 歌えーー!」
宴会は夜中まで続いていき、店に居た全員がそのまま店で寝てしまった。
僕は同じように、朝まで見張りを続けデートの日を迎える。
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