第15話 チェリー3人衆

 「リカちゃん落ち着いて! どうしたの?」

 落ち着きを取り戻したようで、リカちゃんが話しだした。


 「ついさっき娘達と食料を探しに外に出たんだけど、道路の脇に止まっていた黒いバンから男達が急に出てきて、一瞬目を離した隙に娘とその友達が攫われちゃったのよ〜!」

 話すとまた泣き出した。


 「リカちゃん、その黒いバンって見覚えある? ナンバー分かる?」

 リカちゃんは首を横に振った。


 「そう……分かったリカちゃん。私に任せない! 優ちゃんここまで車で来たはずよね? 車貸してくれないかしら?」

 「あれは私のじゃないのよママ。この子達のものだから」


 「大介君に傑君、圭佑君。身勝手なのは分かっているけど、リカちゃんの娘達を助ける為に車を貸してもらえないかしら?」


 「ちょっと待って下さい!!」

 傑が一歩前に出た。


 「リカちゃんに聞きたいんですけど、娘って言いましたね? 何歳ですか?」

 「今年……で高校2年生よ」


 「よーーーし! 任して下さいリカちゃん! 俺達が力になりましょう!」

 圭佑が傑の体を引っ張って、僕らは円陣しているかのような隊形になった。


 「なに傑くん勝手に約束してるんだよ。リーダーは大ちゃんだよ?」

 「高校2年の女の子を助け出す! 恋に落ちる! 卒業!」

 「傑くんちゃんと見なよ! リカちゃんの娘だよ? リカちゃんをちゃんと見なよ」

 僕らはリカちゃんを見たが、優ちゃんにサオリママに負けず劣らずの派手さとマッチョだった。お世辞にも綺麗とは言えない容姿をしていた。


 「ごめん……そこまで考えてなかった……でも力になるって言っちゃったよ?」

 「大ちゃんどうするの?」


 「ん〜。もしもだよ? もしこの状態でやっぱ無理ですやめます。とか言ったらどうなると思う?? 僕達って生きて帰れるの??」

 「……無理だな」

 「そうでしょ? ここにはもう居られなくなっちゃうよ。だから手伝うしかないと思う」

 「大ちゃんがそう言うなら……仕方ないか」


 「よし。じゃあ行こうか!」


 「サオリママ! 車を貸すよ! 僕らも一緒に付いていくけどいいですよね?」

 「勿論よ! ありがとう! じゃあ行くわよ〜」

 「私も行くわ」

 優ちゃんも同行することに。


 「リカちゃん達は、店の事をお願いするわ! すぐに帰ってくるから待っててね」

 僕らは店を後にし、階段を降りていく。


 「もしもし、黒いバンを探してほしいの。今さっきの話だから探しやすいと思うんだけど」

 サオリママはどこかに連絡を入れている。


 「大介君。車の鍵貸してもらえるかしら?」

 「サオリママが運転するんですか?」

 「そうよ! 私って運転は結構得意なの」


 一階まで駆け下りて、チェリーブロッサム号に向かって走り出す。

 サオリママが運転席に乗り込み、優ちゃんは助手席に。

 僕らは後ろに乗り込んだ。


 「じゃあ行くわよ〜。しっかり掴まっててね〜」

 「キュルキュルキュルキュル!!」

 車が急発進していく。


 「おおおおおお!!!!」

 「オカマって全員運転荒いのか!?!?」

 「僕が知るわけないだろ!!」

 「ヤバい! ヤバい!」

 窓から外を見ると、景色が信じられない動きで流れていく。そして僕らも流れていく。


 「黒いバンは見つかったかしら? そうなの? 了解! じゃあ案内よろしくね」

 「ママの運転は相変わらず安全運転ね!!」

 「私も年を取ったって事かしらね!」

 これで安全運転だと!? 頭おかしいだろ!


 「どこか安全運転だよ!! 俺達を殺すつもりか!!」

 「大ちゃん……吐きそうだよ」


 「優ちゃん、サオリママ! 圭佑が吐きそうって」

 「吐くなら車が止まってからにしな! このまま突っ走るぞ!」

 「え〜〜」

(オカマって車乗ると皆豹変するのかな)


 車は右へ左へと右往左往しながら信じられないスピードで進んでいく。

 「見つけたわよ〜〜!!」


 僕は立ち上がって前を見ると、黒い車が走ってるのが見えた。

 「思ったより早く見つかったわね!」


 相手もこっちの車に気付いて、スピードを上げて逃げ惑う。

 「ママ、流石にこの車だと追うのは難しいわね」

 「狭い道に入られたら終わりね」


 車2台によるカーチェイスは激しさを増していく。

 「僕があの車の動きを封じます!」

 「え!? 大介君そんな事出来るの?」


 「任して下さい。今のこの距離をできるだけ保って下さい! 後出来るだけ安全運転で」

 「分かったわ」


 僕はボウガンを手に取り窓を開けて、そこから車の上に上る。

 出来るだけ安定するように、這いつくばってボウガンを構える。


 狙うのは黒い車のタイヤ。

 集中して狙いを定め僕は矢を発射した。


 後ろのタイヤに矢が刺さると、黒い車はバランスを崩しクルクル回転しながら減速していき止まった。

 車から2人の男が出てきたが、僕は2人の太もも目掛けて矢を放ち、矢が刺さった。

 「「うわーーーー!!」」

 男の叫び声が上がる。


 優ちゃんとサオリママが黒いバンに近づいていく。

 傑と圭佑はというと、道端にもどしていた。


 黒いバンにはもう1人いたのか、サオリママに中から出されてボコボコにされていた。

 中から女性2人が降りてきた。


 車の上から見たその女性2人は、僕らと同い年には見えない程大人っぽく綺麗だった。

 僕はあまりにも驚いて止まってしまった。

 優ちゃんとサオリママがこっちを見て手を振っている。


 「2人共無事に救出出来たわ! 早速だけど戻りましょう。あまりいるとゾンビ達が集まってきちゃうからね」

 サオリママの言う通り、先程の騒動の音を聞きつけてか、ゾンビが集まってきた。


 「どうも初めまして! 横山傑っていいます! 2人とも中へどうぞ! 俺が案内します」

 「助けてくれてありがとう」

 ニコッと笑って女の子達がチェリーブロッサム号の中へと入る。


 「大ちゃん。どうやらリカちゃんの遺伝子は受け継がなかったらしいね!」

 「まあ……そうなのかもね」

 圭佑もスキップして中へと入っていく。


 「初めまして〜! 俺の名前は郡司圭佑です〜! よろしくね〜」

 中からやけに楽しそうな2人の声が聞こえてきた。


 肩にそっと手が置かれ、顔を向けると優ちゃんが。僕の耳元で囁いた。

 「大ちゃんには教えてあげるけど、さっきの2人どっちも男よ! ちょっと面白いからよっちゃっと圭ちゃんには黙ってましょ」


 「えっ!?!?!?!?!?」

 人生で1番衝撃を受けた事だった。

 僕はあまりの衝撃に開いた口が塞がらなかった。


 車の中に入ると、やけに上機嫌な2人が男達とお喋りしていた。

 「じゃあ店に戻るわよ〜」

 「「はーい」」


 「大介! 2人に何かお出しして。飲み物とかないの?」

 「いいですよ。そんなに気を使わなくても大丈夫ですよ」

 そう答える女性、男性を見るが、優ちゃんに言われても尚女性にしか見えない。


 2人共スカートの制服を着ていて、1人はスレンダー系の美少女。

 身長は170センチはあるだろうか。男とは思えない細い手足でサラサラのロングヘアー。少しキリッとした特徴的な目をしている。黒のタイツを履いた長い足がスカートの先から見える。まさに美人だった。


 もう1人はというと、ボブ位の髪の長さで少し色が入っているだろうか。160センチ程の身長で男としては低いと思う。どこか小動物っぽい雰囲気を持った男で、笑顔が可愛い。健康的な足がスカートから見えていて、2人が並ぶと、対照的でどちらも十分可愛いと言えた。


 だがどっちも男だ……。

 僕が通っていた高校で1番可愛いと言われていた女の子より可愛いと言える。

 本当に男なのか? むしろ優ちゃんは僕のことを騙してるんじゃないだろうか?

 と疑心暗鬼になっていた。


 僕は2人に出す紅茶の用意をしながら、頭の中でグルグル思考が巡っていた。


 「それで、2人の名前知りたいな」

 「私は清美きよみです」

 「私は〜、のぞみって名前で〜す」


 ロングヘアーの彼が清美で、もう1人が望か。

 「清美ちゃんに望ちゃんか! どっちも2人にピッタリの名前だね」

 傑が持ち上げる。こうやって多人数だと話せるのに2人きりになると傑は全く話せない。


 「どっちもいい画数だね!」

 圭佑の褒め言葉なのか分からないその言葉に、僕は紅茶の入ったパックを落とした。


 「あっちの彼はなんて名前なんですか〜?」

 「あ〜あいつは大介だよ! 俺達のリーダー!」

 「リーダーなんですか? 凄〜い」

 「別に大したことじゃないよ。よかったらこれでも飲んで」

 僕は出来上がった紅茶を2人の前に差し出した。


 「ありがとう大介君」

 望に上目遣いでそう言われたが、こんな近くで見ても男だと分からない。

 

 「大介さん頂きます」

 そう言って清美が紅茶を飲む所作は、どう見ても育ちの良いお嬢様だった。


 「まあゆっくりしていいよ……」

 傑と圭佑は、テーブル越しに2人に色々な話をしたり質問したりしている。


 「ねえ、本当にあの2人って男なんですか? どう見ても女の子にしか見えないんですけど」

 僕は優ちゃんとサオリママに近寄って2人しか聞こえないトーンで聞いてみた。


 「あっちの元気いっぱいの方がリカちゃんの息子で、隣が友達の清美ちゃん。どっちも男の子よ」


 「僕が知ってるオカマと全然違うんですけど……それに僕と同い年なんですよね? 同じ男で同い年でこんなに違うもんなんですか? 筋肉とか声も女性っぽいですし」


 「大ちゃんエッチね〜。そんな所まで見てるの?」

 「いや……そういう意味では」

 「まああれが英才教育ってやつよ大ちゃん」

 優ちゃんがそう答えた。


 「よっちゃんと圭ちゃんは、すっかり女の子だと思ってるみたいね」

 「面白いからこのままにしておいてね大介君」

 「まあいいですけど、知った時の事を考えると2人が可哀想で……」

 「これも1つの経験よ」

 「はあ……」


 後ろのテーブルでは話が盛り上がり、楽しそうにしている4人の姿があった。

 東京って恐ろしい……。


 「そろそろ到着するわよ〜。準備してね」

 「「「「はーい」」」」


 僕らは再び2丁目に戻ってきた。

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