第14話 ラッキーな場所へようこそ

 「おお! すっげ〜! たっかい建物しかないな東京!」

 「茨城じゃあ考えられない光景だね! 大ちゃん!」

 「本当にそうだね」


 「あらら〜? もしかして皆、東京初めてなのかしら?」

 

 「そうですよ」

 「俺も」

 「僕も」


 「こんな世界になる前に、来れたら良かったのにね。楽しい場所だから!」

 「修学旅行で来るはず――」

 「傑のバカ!!」

 咄嗟に傑の口を抑えつけた。


 「え!? もしかしてあんた達ってまだ学生なの!?」


 「あ〜もう、傑くんのせいでバレちゃったじゃん優ちゃんに!」

 「ごめんって……」


 「若いとは思っていけたけど、そこまで若かったの?? まさかの高校生??」

 「そうです……僕らは高校生2年です」


 「もう青春真っ盛りじゃない〜! 羨ましいわ〜」

 「羨ましいって……もうこんな世界じゃあ青春もクソもないですよ。優ちゃん」

 「本当だよ〜! 俺なんて勉強ばっかしてたのに全く意味無くなっちゃったんだよ」


 「あんた達、本当に凄いわね。よく生き残れたわね」

 「正直全て……大介のおかげなんだよ優ちゃん」

 「そうそう。大ちゃんが側に居なかったら絶対に今ここにいなかったよね」

 

 「もう〜! 全員ぎゅって抱きしめてやりたいわ!」

 「「「遠慮します……」」」


 「てかさ〜、大都会なのに静かし過ぎじゃない?」

 圭佑の言う通り静か過ぎる。大量のゾンビだらけかと思っていたら、ほとんど見当たらなかった。勿論だが人の気配もしない。


 「不気味よね〜。でもこの様子なら、無事に新宿2丁目にたどり着きそうだわ」

 「一応慎重に、警戒しながら進もう」

 街の様子を隈なく観察しながら、慎重に僕らは進んでいった。

 しばらく進んだ後、テレビやネットでしか見た事がない光景が広がっていた。


 「すげー。もしかしてここが歌舞伎町ってとこ?」

 「そうよ〜よっちゃん! もう少し進んだら目的地に到着するわよ」


 「車に反応してゾンビが集まってきたね。優ちゃん目的地ってもうちょいですか?」

 「すぐそこよ! でもこんなに集まってくると流石に面倒ね。振り切るからちょっと掴まっててね」


 「キュルキュルキュルキュル」

 甲高い音がしたと思ったら車が突如ありえない動きをしながら進み出した。


 「キタキタキターーー」

 圭佑のテンションがおかしくなる。


 「助けてーーー!!」

 「とにかくどこかに掴まらないと傑!!」

 左右にフラフラと車が揺れながらとんでもないスピードで走っている。


 「優ちゃん! 優ちゃん! ぶつかるぶつかる!!」

 「大丈夫よ〜大ちゃん!!」


 「キュルキュルキュルキュル」

 キャンピングカーがドリフトしながら道を曲がっていく。


 「ウヒョーーーーーーー」

 「ヤバい……気持ち悪い……大介吐きそう……」

 「今吐くなよ傑!! もうちょい我慢しろ!!」


 「着いたわよ〜」

 車は急停止する。傑と圭佑は、すぐに車を降りると胃の中にある物をもどしていた。


 「2人はだらしないわね〜。ほらほら行くわよ」

 「優ちゃんの運転ヤバ過ぎる……体が持たない」

 「同感だよ……」

 「圭佑、傑行くよ」


 「どうして大介は平気なんだよ!」

 「それは分からない」


 「何してるの〜? 置いていくわよ〜?」

 僕らは優ちゃんの後に付いて行く。


 道の両側には高いビルがずっと続いていて、どこも飲み屋と思われる看板がついていた。

 「ここよ!」


 道の一角にある雑居ビルの中へと入っていく。

 「優ちゃん本当にここなの?」

 「そうよ。あら? エレベーター使えないみたいね」


 外についている階段を僕らは上がっていく。

 4階に到着すると外にあるドアを開けて、優ちゃんが中へと入る。


 ビルの中を見ると薄暗く、何個か看板が出ていた。

 スナック『lucky』と書かれた看板で優ちゃんは足を止める。


 コンコンコン。優ちゃんがノックをすると中から声が聞こえた。

 「オカマ×オカマ×オカマ=その心は?」

 「ラッキー! クッキー! もんじゃ焼き!」

 優ちゃんがそう答えるとドアがガチャッと開いた。


 「あっら〜! 優ちゃんじゃないのよ〜! 生きてたのね! 嬉しいわ〜!」

 「ママお久しぶり〜! 生きてたわよ! ママも生きてて嬉しいわ」

 

 ドアから現れたのは、優ちゃんがママと呼ぶ人物で、そのママもとんでもない風貌をしている。緑色の髪の毛で短髪、大きな星の形をしたピアスをぶら下げ、格好は薄着だった。口元に大きなホクロがあるのが印象的だった。


 勿論男性だと思うが、優ちゃんと同じで体格がとても良かった。


 「優ちゃん後ろにいる坊や達はどうしたの? もしかして彼氏かしら?」

 「違うのよここに来る途中で出会って、むしろ彼らに助けれたのよ」

 「あらそうなのね。積もる話もあるからとりあえず中に入りなさい」

 僕らは招き入れられて店の中へと入る。


 初めての場所に僕は、少し緊張していた。

 「好きなところ勝手に座って頂戴。今飲み物出してあげるわ」

 ママは、店の奥へと入っていく。


 店内はカウンターの周りにいくつかの椅子が置いてあり、奥には7人位が座れる程の大きなソファがあったので僕らはそのソファーに座る。


 「優ちゃんはいつものでいいかしら?」

 「ありがとうママ」


 「あなた達はこれでいいかしら?」

 3人の前にグラスが置かれて、僕らはグラスに口をつける。


 「「「ブーーーーーーッ」」」

 口から飲み物を吐き出した。


 「なんじゃこりゃ!」

 「マズーー」


 「ママもしかしてお酒出した?」

 「飲み屋なんだからそうよ。駄目だったかしら?」

 「彼らまだ高校生なのよ!」

 「えっ!? それはごめんなさいね。というか高校生なの!?」


 「びっくりでしょ!? 彼らだけで生き残ってたのよ! とっても頼もしいわ」

 「じゃあオレンジジュースに替えてくるわね」

 今度はちゃんと瓶に入ったオレンジジュースを僕らの前に差し出してくれた。


 「それで、優ちゃんは急にどうしたの?」

 「情報通のママならこの世界に起きたことと、今の状況を詳しく知っているかなって! それに彼らは九州に行きたいみたいなのよ。何かいい情報がないかなって思ってね」


 「あらそうなのね。でも私達だってそこまで分かっていないわよ〜。全国の各地で突如映画みたいにゾンビが現れて大パニックになったわ。初めはどこかの国が日本に起こしたテロかと思ったけど、世界で起こってるからそんな事もないようだしね」


 「東京ではすぐに自衛隊が動いて、ゾンビを音で集めて街に閉じ込めたりしたわ。そして同時に沢山始末していったの。だけどね……」


 「ママどうしたの?」


 「閉じ込めた場所を壁ごと破壊されて突破されちゃったのよ。その後は大パニックになって自衛隊も撤退していったわ。今は東京のあちこちで生きている人がいるそうだけど、今後はどうなっていくか分からないわ」


 「そうなのね。ママはこれからどうしていくの?」

 「私はここで店をやっていくわ! 生きてる仲間もいるしこの店は、今も昔も憩いの場だからね」


 「優ちゃんは? どうするの? 2丁目にいるの?」

 「迷ってるのよね〜」


 「そうなのね。ところであんた達ちょっといらっしゃい」

 ママに呼ばれてカウンターの椅子に僕らは座った。


 「私はここでママをしているサオリよ! よろしくね」

 「大介です」

 「傑です」

 「圭佑です」


 「皆本当に若いわね〜。食べちゃいたいわ〜!」

 「「「……」」」


 「九州に行きたいって言ってたわね。なら熊本県にある熊本城を目指しなさい!」

 「そこに何があるんですか?」

 僕はサオリママに尋ねた。


 「オカマ仲間のオカマ達が熊本城を占拠して、立て籠もってるらしいのよ。ある意味一国を作り上げているらしいわ! 私の名刺をあげるから見せたらきっと力になってくれるわ。それに難攻不落の熊本城ならいい拠点になっていると思うから」


 「熊本ですか……?」

 「俺は知ってるぞ大介! 熊本は美人が多いんだ!」

 「あら? よく知ってるわね!」

 「えっ!? ママさんやっぱ熊本って美人が多いんですか!?」

 「勿論よ〜! 私も熊本出身だもの」

 「……」


 「ママ、この世界の解決策ってあるのかしら?」

 「今は何とも分からないらしいわ。警察も自衛隊も極道すらも協力して原因と解決策を模索しているらしいけど、何も見つからないらしいわ」


 「サオリママ、海外の状況まで分かるんですか?」

 「流石に海外までは分からないわ。でもアメリカではすでに、人を助けた後に街ごと燃やしたりしているらしいわ」


 「結果的に安全な場所って、今の日本にあるんですか?」

 「自衛隊の基地、もしくは海の上が1番安全かもね。人がいない離島もいいわね」


 優ちゃんはサオリママの事を信頼しているようだが、僕は正直疑っていた。

 その情報が本当なのか自分の目で確かめた訳ではないからだ。


 「四足のゾンビの弱点ってサオリママ知ってますか?」

 「それってシグマの事かしら?」

 「シグマ???」


 「誰がつけたのか分からないけど、そう呼ばれているわ。四つん這いのゾンビで動きが速くて爪と舌が長いゾンビの事じゃないかしら?」

 「そう。そのゾンビの弱点ってありますか? 正直奴はかなり手強くて、出会いたくないですけど、出会った時の対処法を知っていたいんです」


 「私達も奴らには困ってるのよ〜! 今分かっている情報を教えてあげるわ。シグマは基本的には子供しか狙わない事。そして子供からシグマが生まれてくるわ。そして昼間にシグマを見た人はいない」


 「それってつまり??」

 「多分昼間は大人しくしてるんじゃないかしら? もしかしたら太陽の光が苦手なのかもね。もし倒すなら住処を見つけて昼間に仕留めるしかないんじゃないかしら? 普通に戦って勝てる相手じゃないでしょう?」


 「昼間には見ないって初めて知りました……」

 「大介君はシグマを見たことがあるの?」

 「あるっていうか、一度だけ一瞬ですけど戦いました」

 「よく生きてたわね」

 「まあなんとか……」


 「え!? 結局ところ話が見えてこないんだけど大介」

 「ママさんの話だと今の所、安全な場所なんてほぼ無い。それに原因も解決策も分かっていない。それにシグマと呼んでいる強いゾンビがいるけど倒し方もほぼ分かっていない。そして九州に行くなら熊本城を目指せって事でしょう?」


 「あら圭佑君、頭がいいわね。つまりはそういう事ね」

 「なんだよ〜。結果的には今までとそんなに変わんないじゃん」


 「何か他に有益になるような情報とかあったりしないんですか?」

 「そうね〜。もうちょっと時間が経てば、分かってくる事も多くなると思うんだけどね」

 そんな会話をしていると、ドンドンドンドンと店のドアを激しく叩く音が聞こえた。


 「ママー! サオリママー! 」

 サオリママがドアに近づいていく。

 「オカマ×オカマ×オカマ=その心は?」

 「ラッキー! クッキー! もんじゃ焼き!」


 ドアが開くと、これまた大柄なゴリラのような人達が3人店に入ってきた。

 

 「ママ〜助けて!!」

 その中の一人が、サオリママに泣きつく。



 「ねえ落ち着いて! 一体何があったの?」

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