第13話 独立国からの離脱と行き先

 目にも留まらぬ速さで飛んだ奴は、近くにいた子供に鋭い爪で斬りかかり、子供が血まみれになって倒れた。


 ヤバい……ヤバい。とにかく逃げないと。


 「おい! 武器を持ってるやつは戦うぞ」

 飛田がそう掛け声をかけて人を集めだした。


 傑と圭佑が心配になってキャンピングカーに戻ろうと走り出した。

 自分の視界の先に雄一とお母さんが逃げている姿が見えた。


 その後ろの方には、なんと奴がいた。

 赤の他人で、昨日今日会ったばかりの人なんだから放っておけばいい。

 頭では分かっている。分かっているが、その時にはもう体は動いていた。


 音を立てずに静かに奴に近づいていき、刀を抜いて斜め後ろから斬りかかる。

 「ガギーン!!」


 四つん這いのゾンビは僕の日本刀の一振りを、右手一本で簡単に防いできた。

 (おいおいマジかよ! 完全に死角だし音もなかっただろ)


 2人が逃げ切れるまで注意を引こうとしたが、僕には目もくれず一瞬にして雄一君を追いかけだした。


 「雄一逃げろーー!!!」


 その声に反応し振り向いた雄一の前にはすでに奴がいて、雄一の左胸を矢のように伸びた舌が貫通した。


 「ギリギリギリギリ」

 周りの僕らには一切反応せず、次の獲物めがけて奴は飛んでいった。

 

 「ゆういちーーーーー!!」

 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 お母さんの叫び声が響いた。


 横から全力疾走で近寄ってきたゾンビに、お母さんはそのまま首筋を噛まれた。

 僕はすぐさま近寄ってゾンビの首を一刀両断する。


 「大丈夫ですか!?」

 首から溢れ出す血を片手で抑えながら、何か僕に伝えようとしている。

 

 「……ころ……して」

 微かな声でそう僕に訴えてきた。

 

 僕は迷った。人を殺すなんて簡単に出来っこない。

 それでもいつかこんな事が起きるかもしれないと、同じような事が何回も起こるかもしれないと思った僕は、唇を噛み締めながらお母さんの首を刎ねた。


 「ハァハァハァハァ……きついって!」

 自分の手で殺したお母さんと雄一君が目の前で並んでいた。


 突然、死んでいるはずの雄一君の身体が痙攣し始めた。

 どんどん激しさを増していく。訳がわからなかった。


 すると雄一君の胸の辺りがカパッと開いて、中から奴が現れた。

 そう、四足歩行のゾンビが雄一君の中から生まれた。


 驚いてすぐに刀を抜いて構えるが、僕に全く気付いてないのか飛び跳ねて闇夜に消えた。


 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 あちこちで悲鳴や雄叫びが聞こえる。

 一気に侵食されたサービスエリアは、まさに地獄のようになっていた。


 「大介ーーーーーーー!!」

 僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。


 チェリーブロッサムが僕の方へと向かってきている。

 ドアを開けながら傑が大声で僕を呼んでいる。


 「大介ーーー!! 飛び乗れーーー!!」

 車と並行して走り出し、傑の手を掴まり飛び乗った。


 「大介無事で良かったよ! 一瞬でゾンビだらけになってパニックだよ」

 「いいタイミングで来てくれたよ! 圭佑が運転してんの?」


 「大ちゃん俺はここだよ〜」

 圭佑は助手席に座っていた。


 「運転手は私よ〜ん! 大ちゃん!」

 「あれ!? 優ちゃん!?」


 「悲鳴が起きたタイミングで優ちゃんがたまたま近くに居てさ、運転してもらったんだよ」

 「優ちゃん、トラックのドライバーっていうからいいかなって思ってさ、傑くんと俺達が運転するよりいいでしょうってなって」


 「そうなんだ。まあいいんだけどさ、ここって出入り口の両方がトラックで塞がれてるから袋小路だよね。どうやって逃げ出す?」


 「私にいい考えがあるけどどうかしら? とびっきりの刺激的な方法があるわよ〜」

 「逃げられるなら良いですけど、大丈夫なんですか?」

 「きっと大丈夫よ」

 「優ちゃんに任せます……脱出しちゃって下さい」


 「じゃあ皆しっかり掴まっててね! 振り落とされるなよガキンチョ共!」

 急にドスの利いた声が聞こえたかと思えば、車が信じられない動きをして僕は転がった。

 

 車が急に360度回ったかと思えば急発進していく。

 感じたことがないスピードに僕は驚いて座り込んでしまい、近くにある取っ手にしがみついた。

 出口の方へと向かっていく。


 「ヤバい! ヤバい! ぶつかるぶつかる!」

 傑が雄叫びを上げていく。


 車はトラックめがけて突っ込んでいく。

 荷台に上がる為に用意された階段に片方の車輪を引っ掛け、上っていく。

 車が斜めになりながら上がってそのまま空を飛んだ。


 死んだ……。

 そう思わせるには十分なチンさむを僕は感じた。

 ジェットコースターで感じる比ではなかった。


 「ドスン!!」

 宙に舞った車が大きな音と共に地面に着地し、そのまま走り出した。


 「し……死んだかと思った」

 「「俺も」」


 「とっても刺激的だったでしょう」

 優ちゃんは何事もなかったかのように運転していた。


 「飛ぶなら飛ぶって言ってくださいよ! マジで終わったかと思いましたよ」

 「先に言っちゃったらつまらないじゃない? でも無事に脱出する事が出来たでしょう?」

 「そりゃあそうですけど……」


 「いや〜でも今落ち着いてから考えると楽しかったな大介。ジェットコースターの100倍怖くて100倍面白かったな」

 「アネキのバイクの後ろ乗った時より怖かったよ」


 「楽しんでくれたようで、私も嬉しいわ〜」

 「僕らは、九州を目指して茨城を出発したんですよ優ちゃん。だから九州を目指してるんだけど……」


 「あら? 九州なんてそんな遠い所目指してるの?」

 「そうなんだよ俺達は夢の国九州を目指してるんだ!」

 熱のこもった声で傑が立ち上がる。


 「俺は秋田に行きたかったんだけどね、多数決に負けて九州目指してるんだ」

 「なんだかとっても楽しそうね〜」


 「だから優ちゃんはどうするのかと思って……」

 「私は途中の東京で降ろしてくれればそれでいいわ! 私は東京に用があるから」


 「東京!?」

 「ビックリした! 急にどうした傑」


 「いや! ごめん」

 「優ちゃんは東京の出身とかなんですか?」


 「東京出身じゃないけどね。東京の新宿2丁目って場所には私達みたいな人が沢山いるのよ。そこへ行けば仲間がいるのよ。それに全国のオカマから情報が集まるから役に立つと思ってね」


 「役に立つ情報が入ってくるもんなんですか? 言ったって皆さん普通の人ですよね?」

 「大ちゃんは疑い深いのね! オカマの情報網を舐めちゃいけないわよ〜」


 「大ちゃん優ちゃん送るついでに東京行かない?」

 「東京の中なんかに入り込んだら出てくるの大変だよきっと。九州行き遅れるけどいいの?」


 「いいぜ大介! 東京へ行こう! 日本で一番人口が多い場所だ。人も沢山生き残っているだろうし、ついでに可愛い子も多く生き残ってる可能性が高い」


 「言っとくけど人口が多いってことは、めちゃくちゃゾンビだらけって事だからな! 今までの比じゃないよ?」


 「東京が俺を呼んでいる気がする」

 「いや傑、ブレブレ過ぎだろ……」

 「ブレてるんじゃない! 成長してるんだ! よっしゃあ〜! 優ちゃん東京へレッツゴー」


 「若いっていいわね〜! じゃあ行くわよ〜!」

 優ちゃんはアクセルを踏み直し、高速を突っ走っていく。


 「他の人も無事だといいよね。雄一くんとお母さん大丈夫かな?」

 「きっと大丈夫だろ! なんとか逃げてるさ! 大介もそう思うだろ?」

 「ああ……勿論2人は大丈夫だよ」


 僕らは東京、新宿2丁目を目指す事に。

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