第11話 独立国2
「早速だが、お前達には今日から働いてもらう。詳しい事はそこに高橋に聞いてくれ。高橋後は任せたぞ!」
「わかりました」
先程の男はどうやら高橋という人物のようだった。
飛田達が座っているテーブルには、食料やら缶ビールやらが散乱していて酒臭かった。
「こっちついてきな」
ゾンビを監視するトラックの荷台へと僕らは上った。
「朝までここで見張るのが俺たちの仕事だ。分かったか?」
「……それ以外は??」
「特にない」
「……」
「高橋さんでしたっけ? 説明不足過ぎるでしょ! 緊急事態が起こった時はどうするんだ? 仮にゾンビが登ってきたとかどうするんだ?」
傑の言う通りだ。テキトー過ぎないだろうか。
「大丈夫だよ。今までそんな事は一度だってなかった。仮にそうなってもここにある無線で飛田さんに連絡するからすぐに応援が来てくれる。朝まで気楽に見張ってれば終わりだよ!」
高橋は夏の海水浴でよく見るような寝そべる事が出来る椅子に腰掛け、プシュッと缶ビールのフタを開けていた。
「ねえ大ちゃんここヤバいって。早く抜け出そうよ」
「圭佑の言う通りだよ! 子供の俺達だって分かるぜ。危機感無さ過ぎ」
2人は小声で僕にそう言う。
「今すぐは無理だからちょっとだけ待ってって。それにこんな安全にゾンビを見ることも中々出来ないから、色々と試したいんだ」
「色々試すって大ちゃん何を?」
「もっと弱点はないか、とか他に反応するものはないかとか、カモフラージュ出来る事はないかとかね」
「大介も色々と考えてるんだな……」
「もしかしたら、もっと簡単に倒せる方法があるかもしれないしね」
「まあ今日はとにかく見張りを頑張ろうっか」
見張りをしていると辺りはすぐに暗くなり、夜になった。
すると駐車場の中央から大きな声が上がり始めた。
遠目から見ても酔っ払っているのが分かる。
「高橋さん! ああやって毎晩宴会みたいな事してるんですか?」
「あ〜!? そうだよ! 酒ぐらいしか楽しめるもんないだろ?」
見張りと言っても、特別何かする訳ではないのでとにかく暇で時間が経つのが長かった。
となりで高橋はイビキをかきながら寝ていた。
「俺達の楽園にはいつになったら到着するんだ?」
「そんな簡単には辿り着かないよ。ここみたいな場所いっぱいあるだろうし、道とか道路とか封鎖されててもおかしくないしね」
「大ちゃん俺達って『卒業』出来るのかな?」
「出来る出来ないじゃないよ! ヤるんだよ圭佑!」
「お〜い! そろそろ休憩の時間だ! 起きろよ高橋」
「おお、もうそんな時間か」
大きな口を開けてあくびをした高橋は、目をこすりながら体を起こす。
「休憩は1時間だからよろしく」
すでに夜の12時を過ぎていた。僕らは見張りの交代をして、休憩をすることに。
そういえば朝から何も食べていなかった事に気付いた。
「二2とも車戻ろう。僕がご飯作ってあげるよ」
「「マジで!?」」
「やった! 早く食事にしようぜ。腹減りすぎて逆に倒れそうだよ」
「逆にってなんだよ傑くん」
「それは逆になんだよ逆に」
他愛のない話をしていると、駐車場に止まっている1台の車が激しく動いていた。
一体なんだ。と僕は不思議に思いながらだんだん車に近づくと、中から
「おいおいおいおいおい! これってもしかして?」
「もしかして? もしかするかも?」
「ちょっと覗いていこうぜ」
僕らは近くにある車の影に隠れながら様子を窺う。
「バカ! 圭佑あんまり押すなって」
「もうちょい近くに行かない?」
「いやいやバレるって流石に」
すると車の動きが止まり、声がしなくなった。
ドアが開くと、服装を乱した女性が降りてきた。
食料と水を抱きかかえながら、その場を足早に去っていく。
反対のドアから降りてきたのは飛田だった。
「「「!?!?!?」」」
飛田にバレないように、僕らはそっとその場から離れて自分達の車に戻った。
車内に入るとすぐに傑が、甲子園で負けた高校球児のように倒れ込んだ。
「なんでだよ! なんであんな汚いおっさんがヤれて俺はヤれてないんだ!」
拳でフローリングを叩いていた。
「傑くん、でもあれは俺達は望んでるような形のものじゃないよ」
圭佑はしゃがみこんで傑の肩に手を乗せて喋りかけた。
「俺達が望むのは理想の『卒業』だろ? さっき見たのは売買だよ。女性が食料持ってたでしょ? 生きる為にそういう事をした。ただそれだけだよ」
「大人の汚い部分ってやつか?」
「大人の汚い部分ってやつだよ傑くん。だから落ち込まないでよ」
「それでも何故かあんなおっさんに男として負けた気がして悔しい」
「出来たよ〜。傑そんな事より飯食べようよ! 元気だしなよ」
「……ありがとうな大介」
食事を終え、休憩が終わった後は日が昇ってくるまで見張りを続けた。
初日の仕事は何事もなく無事に終わり、仕事の報告に行くと僕らは食料と飲み物を渡された。
疲れた僕らはそのまま食事も摂らずにすぐに眠りについた。
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