第10話 独立国
「僕らはちょっとサービスエリアで休憩しようと思っただけだ! 敵対するつもりもない。嫌ならこのまま引き返すから周りの人間をどけてくれないのか?」
「だめだ! お前達は街からやってきたのか?」
「だったらどうした!?」
「ってことはゾンビの大群に囲まれた街を生き残ってきたって事だよな。戦闘で役に立ちそうだからこの場所に加われ! ハッキリいうが拒否権はない」
白いランニングシャツを着て、無精ヒゲを生やした、いかにもオッサンといった感じの男がそう僕らに言葉を発した。
「「「!?!?!?」」」
「なんかここから逃げた方がいいって大介……面倒な事に巻き込まれそうだぞ」
傑が小声で呟く。
「……僕ら3人が増えるって事は、必要な食料とか水とか増えるって事だよ? 何人いるのか知らないけどそんな簡単に人間を増やさない方がいいと思うんだけど」
「ここでは偉い奴、仕事頑張ったやつが食料と水がもらえるんだ。だから問題ない。働かなかったら食料は分けないからな。お前らは俺達の仲間になって働いてもらう」
全てが自分勝手過ぎる。だけど、流石にこの人数相手には厳しい。
「仕方ない……わかったよ」
僕は一旦従うことにした。
「おいおい大介。こんな所に俺はいたくねえぞ」
「隙を見つけて勝手に逃げ出そう。数日だけは我慢してくれ」
「さっきのおっさん達正直気に入らないよな〜」
「おーい! トラックをどかしてくれい!」
道を塞いでいたトラックが動き出し道を開ける。僕らは車を動かして中へと入る。
サービスエリアの広い駐車場には、赤ちゃんから子供、お年寄りまで様々な人がいて、入ってきた僕らの車を皆が見ていた。
「今日からお前達は仲間だ。若そうだし見張りの仕事をしてもらう! 俺は飛田だよろしく。何かあれば俺に話してくれ」
「鈴木 大介だよろしく」
先程のオッサンと挨拶を交わし握手をしたが、飛田という男からは酒の臭いがした。
「飛田ちゃ〜ん!」
声が聞こえた方を見ると、クネクネと腰を動かしながら歩いてくる人間が近寄ってくる。
「なんだよ。どうしたんだ?」
飛田がどこか後ずさりしている。
近寄ってきた人は190センチはあろう大柄で、筋肉は
だが、真っ赤なハイヒールに髪色はピンク色。短い髪だけど頭の後ろでは2つに縛っていた。
赤い口紅を付け、短いワンピースを着ている。ワンピースから出ている腕や足、胸からは、たくましい毛が生えていた。
「この子達の案内は、私に任せて欲しいんだけど」
「気に入ったのか?」
「そういう事よ飛田ちゃん」
「分かった……任せるよ」
「ありがとう」
「初めまして、私の名前は
「大介、俺初めてオカマ見たわ」
「聞こえてるわよ坊や。心は乙女なのよ。優しくしてね」
「僕は鈴木 大介です」
「横山 傑」
「郡司 圭佑です」
「大ちゃんによっちゃん。それに圭ちゃんね! 私の事は優ちゃんって呼んでね」
彼は、彼女はウインクをしてきた。僕は引きつった笑顔しか返せない。
「それで……優ちゃんは僕らを案内してくれるんですか?」
「大ちゃんはせっかちちゃんね! 私についてきて」
優ちゃんは、腰をクネクネさせながら歩き出す。
「あなた達、飛田ちゃんに何か言われたの?」
「何かというと?」
「何か仕事とか頼まれなかった?」
「言われましたよ。見張りの仕事をしろって」
「そうなのね〜。じゃあ私について来て頂戴」
案内された場所は入口とは反対の出口だった。
「ゔ〜〜〜」
「あれ? もしかしてゾンビいるんですか?」
傑がそう質問する。
「そうよ。こっちにまとめてるのよね」
出口を封鎖している大型のトラックの荷台の上へと続いている簡素に作られた階段を上る。
上った先に見えたのは大量のゾンビだった。
「ゾンビって音に反応するじゃない? だから誘導してこっちにまとめて見張っているのよ。2箇所を見張りするより楽よね〜」
「僕ら見張りって具体的には何をすれば?」
「本当に見張るだけよ! 後はあんな風にコンクリートのブロックを落としてゾンビを退治したりしてるわ」
見張りをしている人達がブロックをゾンビめがけて落としていた。
頭に当たったゾンビは倒れたまま動かなかった。どうやら仕留めたみたいだった。
「今してるような事を僕らはすればいいんですか?」
「そうだと思うわ!!」
「な〜んだ、じゃあ俺らでも簡単に出来るじゃん! ねえ大ちゃん」
「まあそうだね圭佑……」
僕は素直に思った質問を優ちゃんにぶつけてみた。
「優ちゃんはここをどう思ってるんです? 良い場所だと思ってるんですか?」
優ちゃんは少し眉をひそめた。
「案内がてらに、大ちゃん達が乗ってきたキャンピングカーに私を乗せてもらえないかしら?」
「「えっ!?!?」」
傑と圭佑は鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情をみせる。
「な〜に? 2人は嫌なのかしら? リーダーの大ちゃんはどうなのかしら?」
「いいですよ。ちょうど休憩したいと思ってましたし」
「あ〜ら嬉しいわ! じゃあ早速行きましょう」
駐車場の中央では、飛田達がテーブルや椅子を広げて食事を楽しんでいた。
かたや隅の方で固まっている人達もいた。
その人達は、どこか重苦しい雰囲気を漂わせていた。
「なんかあんまりいい雰囲気じゃないな……」
圭佑が周りを見渡しながらポツリと呟いた。
車に到着して中へと入り、ソファーに腰を下ろした。
「さっき圭ちゃんが言っていたように、ここはいい雰囲気じゃないのよ」
優ちゃんが先程とは打って変わって真剣な表情で話しだした。
「皆も急にこんな世界になっちゃって戸惑っちゃったでしょ!? 私達だってそうだったの。突然サービスエリアにいた人間が、人間を襲い出したの」
「ちょっと待って下さい!」
僕は驚いて立ち上がった。
「ゾンビは急に現れたんですか!?」
「どうしたんだよ大介、そんな興奮して」
「だって考えてもみなよ! ここってある意味では孤島というか街から隔離されてる場所だよ。しかも車じゃないと行けないし。そんな場所でいきなりゾンビになったって不思議じゃない?」
「確かに……」
「街でいち早く異変に気付いた人がいた。逃げようとしている途中でゾンビに少し怪我を負わされて、そのまま車に乗って逃げ出して、立ち寄ったここでゾンビになったって可能性は?」
「……圭佑のその可能性はなくはないかも」
「坊や達、随分と頭がいいわね! 流石は街から生き残ってここまで来たって感じね」
「すいません話を遮ちゃって、その後はどうだったんですか?」
「その時に飛田ちゃんが仕切って対処してくれたのよ。いきなりの事に大パニックだったけど、どうにか事を収めたの。勿論それなりに犠牲もあったけども……」
「それで助けが来るまで皆で頑張ろうってなったのよ〜。一致団結したわ。リーダーはもちろん飛田ちゃんになって、皆で乗り切ろうってね」
「人間って立場が変わって権力を持つと人間性って変わっちゃうものなのね。だから国会議員とか医者とかクソばっかりなんだと思ったわ……」
僕らは静かに優ちゃんの話を聞いていた。
「徐々に飛田ちゃんが横暴になっていってね。独裁者のようになっていったわ。今では好き勝手やり放題。食料や飲み物を独占して気に入った人にしか渡さなかったりしてるのよ! 飛田ちゃん達のグループは腕っぷしは強いからね、誰も逆らえなかった」
「とある家族の父親が逆らおうとしたのよ。でもその父親はさっき見たゾンビの集団の中に落とされてゾンビにされてしまったのよ」
「酷い……」
「そうね酷い話よ」
「優ちゃんはなんでそんな話を僕らに?」
「童貞臭くて可愛いからよ!」
傑と圭佑は自分自身の体を臭う仕草をした。
「そういう意味じゃないんだけどね。でもそういう所が可愛いのよ」
「優ちゃんは一人で逃げたりしないんですか? ここが嫌なら優ちゃん一人なら簡単に逃げ出す事が出来そうな気がするんですけどね僕は」
「そうね〜。でも赤ちゃんとか小さい子供とかもいて放っておけなくてね」
「僕達はここで何かしようとか、ましてや助け出そうとか考えてませんよ?」
「分かってるわよ」
「優ちゃんに1つ聞いてもいいですか?」
「スリーサイズ以外なら何でもいいわよ」
「四足歩行のゾンビと出くわした事ってありますか?」
「いや、ないけどそんなゾンビがいるのかしら?」
「まあいることはいます。出会わない事が一番です」
「じゃあ私はそろそろ外に行くわね。またね坊や達」
優ちゃんとは入れ違いで、違う人間が僕らの車を訪れた。
「お前等、飛田さんが呼んでるぞ! 仕事の時間だ!」
僕ら3人は、男の後を付いて行く。
辺りはすっかり夕方になっていた。
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