第9話 旅立ち
「大介ー! 出来たぞー! 見てみろ!」
鏡を渡されて、鏡に映った自分の髪を見て僕は驚いた。
「似合ってないんだけど……」
「ハッハッハ! ごめん大介。悪気はない。思ったよりも似合ってないからさ〜。まあでも高校生には見えないだろ?」
「まあそうだ……ね」
「出来たーーー!!!」
雄叫びにもまさる大きな声が、地下室に響き渡った。
「皆〜。出来たよ」
圭佑が奥の部屋から出てきて、手には黒のつなぎを持っていた。
「じゃ~ん!!」
広げたつなぎには、鮮やかなデザインが施されていた。胸には果物のチェリーのロゴマークとCherriesと書かれていた。
「ホント圭佑って無駄に器用なんだな」
「意外な才能だよね」
「そんなに褒めないでよ、照れるよ〜」
本当に意外な才能だった。買い物から帰ってきた圭佑がまずやってくれた事がキャンピングカーの改造だった。
ショッピングモールに行く途中何度もゾンビを撥ねていたのを見て、撥ねても耐えられるように車を改造してくれたのだった。
さらにデザインまでしてくれた。
圭佑になんでそんな事が出来るのか聞くと、お姉ちゃんが乗るバイクの改造やら、無茶苦茶の注文、特攻服のデザインから刺繍まで全てやらされていたんだそう。
なのでこういった事が得意になってしまったのだという。
「てか大ちゃん銀髪似合わないね」
「言うなよ。自分が一番そう思ってるんだから!」
僕らは出発の準備を着実に進め、出発の日を迎えた。
圭佑が作ってくれたお揃いのつなぎを着る。
僕は、地下室にあるとある部屋に訪れていた。
その場所には、死んだ父さんにから受け継いだ日本刀が飾ってあり、僕は手に取った。
一生使うことなんてないし、いらないとさえ思っていたけど、本来の目的である武器として使おうと思う日が来るとは思わなかったな。
「じゃあ行きますか」
「大介なにそれ? まさか日本刀? めちゃくちゃかっこいいじゃん!」
「皆見て〜! 俺が改造したキャンピングカーがコレだぜ!」
圭佑は被せていたシートをめくった。
そこには改造されたキャンピングカーの形と、光沢のある黒に塗られた姿がそこにはあった。
さらには黒のキャンバスに映える3つのチェリーと桜吹雪のデザインが車に描かれていた。
「名付けてチェリーブロッサム号! 花言葉は『真実の心』まさに俺達にピッタリ」
「「おおおお」」
めちゃくちゃ厨二病っぽいが、
「それじゃあ九州に向けて出発しますか」
「「おおおおお」」
「ブロロロロロロロー」
僕らは、圭佑が名付けたチェリーブロッサム号を走らせて、高速への入り口を目指し始めた。
「高速乗って茨城出たら、下手したら一生戻ってこれないかもしれないけど、2人はいいの? 僕は家族もいないから心残りなんてないけど……」
「いいよ大介、大介に助けられてから今日になるまでに何日もあって色々と見てきたんだ。俺達だってとっくに分かってるよ」
「……大ちゃんと圭佑がいるだけでも心強いよ。それにこれは楽しい旅立ちでしょ!?」
「そうだぜ! 俺達にとっては夢の旅の第一歩とも言える」
「まあそうならいいんだけどね……ていうかお前らも運転してよ!」
「交代するって交代するって」
フザケながら交代で運転し高速の入口に到着した。
「これで茨城ともオサラバか」
「高校2年で出ていくとは思わなかったよね〜」
「まさか僕が銀髪になるとも思わなかったわ」
「「「ハハハハハ」」」
「なんか男3人で故郷に思いを馳せるって桃園の誓いみたいじゃね!?」
「え!? 劉備と関羽と張飛の3人のやつ?」
「そうそう! 車に桜の絵も描いてあるし」
「いや! いい話しみたいに傑言ってるけど、フラグになりそうだからやめよう! 3人共結局道半ばで死ぬんだよ。なんか嫌じゃん」
「つまりは俺達にとってはチェリーのまま死んじゃうフラグになってしまうと?」
「まあ……そうかもね」
「よし! それは駄目だ! すぐに出発しよう大介」
高速に乗って故郷を飛び出した僕達だった。
「うひょ〜〜。風が気持ちいいいいいい」
「大ちゃんもっと飛ばせないの?」
「怖くてそんな事出来ないよ!」
「大介今って何キロで走ってるんだ?」
「今は60キロだよ」
「高速ってもっと飛ばしていいんじゃなかったっけ?」
「無理だよ! 速度あげるの怖いんだぞ!」
「圭佑窓からこうやって手を出してみ?」
「え!? なになに!? どうしたの傑くん」
「速度60キロの風ってDカップのおっぱいと一緒の感覚なんだって」
「なにそれ! ヤバー! 俺もやってみる」
「「おおおおおおお」」
「これがDカップか!」
「傑くんじゃあ顔だしたらパフパフじゃん! パフパフ」
「パフパフだなパフパフ」
2人は訳の分からない事を言い出した。
「おおおおすげーぞこれ!」
「パフパフ。パフパフ」
「本当の本物ってどんな感じなんだろうな」
「大ちゃんもっと速度上げてよ! そしたらもっと凄いパフパフ感じられそうだよ」
「だからパフパフってなんだよ!!」
僕は運転しながら怒鳴った。ゾンビを避けるためにハンドルを切った。
「あぶなっ」
「窓から体とか出してたら落ちるよ?」
それでも2人は窓からずっと手を出していた。
ミラー越しに見えるその手は、ずっとモミモミしていた。
「サービスエリア寄ろうと思うんだけどいい?」
「いいけどどうしたの?」
「運転って結構疲れるわ。慣れていないって事もあると思うけど……それに食料とか手に入るかもしれないしさ」
「じゃあ大ちゃん次は俺が運転していい?」
「うんいいよ」
僕らは近くのサービスエリアに立ち寄ろうとしたが、駐車場に入る手前で横に止められた大型のトラックが道を塞いでいて、中へ入れなかった。
車を止めて様子を窺うと、大勢の人間に囲まれてしまった。
「ゲッ! なんかめっちゃいるじゃん。面倒くさそうじゃない?」
「大ちゃんバックして逃げちゃおうよ」
「……」
車も取り囲まれて、車の後部にも人がいた。生身の人間を轢く覚悟でアクセルを踏み込む自信が僕にはなかった。
「とりあえず降りてみよう」
僕らが車から降りると、道を塞いでいるトラックの荷台から見下ろすように男達が並んでいた。その中の1人が前に出てきた。
「よお! お前らは一体何者だぁ〜?」
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