第6話 ルールと秩序がなくなった世界
「ただいま〜」
地下の部屋は暗くなっていて、2人寝息が聞こえた。
僕は静かにシャワーを浴びて、パソコンをいじりながら2人が起きてるのを待った。
「おはよう〜」
「おはよう傑」
「おなよう大ちゃんに傑くん」
圭佑もすぐに起きてきた。
朝食をすでに作っていたので、皆で食べながら僕は2人に話す。
「あのキャンピングカー手に入れてきたよ」
「マジで!?」
目を大きく見開きながら傑は、テンション高く大きなリアクションを取った。
「移動手段の確保は出来たんだけど、今日は2人にやってもらいたい事があるんだ」
「なに!?」
「2人共、ゾンビと戦ってもらう」
「「!?!?!?」」
「え!? 急に!? 無理だよ大ちゃん!」
「無理と思ってもやってもらうしかない。戦えなかったら今後どうしようもないだろ! 最低限だけでいいから戦えないと」
「戦うってさ大介……元は人間だったゾンビを殺すってことだよな?」
「……簡単に言ったらそうなるね」
「そんなん無理だって大ちゃん!!」
「でも出来ないと九州に行くなんて絶対に無理だよ」
「確かに大介の言ってる事は超正論だよ。圭佑だって頭では分かってるだろ?」
「……」
沈黙が流れる。
「もう俺達が知ってる世界なんてないんだよな。朝起きて今日も学校行くの怠いな〜とか、放課後になって部活面倒くさいな〜とか思いながら、ダラダラと気ままに毎日過ごしていたあの生活はもうないんだよ圭佑」
「これまでのルールとか法律、常識とかない世界なんだよもう。狂った世界なんだから俺達自身も狂っていかないとこの世界では生きていけないよ。そうだろ圭佑!」
「分かってる……分かってるけど」
「とにかく2人共、僕と一緒に地下から出るよ」
僕は半ば強引に2人を外の世界へと連れ出した。
「眩し!!」
2人は、太陽の光を見て目を細める。
「ねえ大ちゃん、このマスク息苦しいんだけど……」
「我慢してくれ。すぐに慣れるから」
「なんでこんな本格的なマスクしないといけないんだ??」
「まだ分からないけど、空気感染するかもしれないだろ? 噛まれたらゾンビになるのは分かったけど、インフルエンザみたいに空気感染する可能性だってあるだろ? 絶対に空気感染しないって分かるまでは警戒した方がいい」
「なるほどね〜」
「僕がすぐそこにゾンビを連れてきたから、2人には今からそいつらを倒してもらうから」
歩き出すと、2人は黙ったまま僕に付いてきた。
キャンピングカーを置いたあと、僕はゾンビを捕まえに行ったのだった。かなり動きが鈍いゾンビを見つけ、ロープを使ってこの山まで連れてきた。
二人にはそのゾンビをこれから倒してもらう。
「ゔ〜」
ゾンビのうめき声が聞こえてきた。
ゾンビの首にロープがかかっていて、伸びたロープの先は木に括り付けてある為、ゾンビは一定の距離からこっちにくる事は出来ない。
「あそこに2体のゾンビ、傑と圭佑に倒してもらうから」
2人の顔色は血の気が引いていた。
「倒すって言っても……どうやって?」
僕は傑にボウガンを渡し、圭佑に金属バットを渡した。
「これで倒してみて」
「ちょっと大ちゃん、俺がバットなの? 逆じゃないの?」
「いやこれでいい、今回だけじゃなく何体も倒してもらうから試してみればいい。だけど多分だけど圭佑は近接武器の方が合ってると思う」
「なんで? なんで? なんでそんな事分かるの?」
「……」
僕は傑のボウガンを圭佑に渡した。
「じゃあ圭佑、ボウガンの使い方教えるから撃ってみて」
「……わかった」
ボウガンの使い方を教えて構えさせた。
「じゃあ圭佑何発でもいいから、この距離からゾンビの頭目掛けて撃ってみて」
圭佑は矢を発射した。
それから何度も発射したが、圭佑の矢がゾンビに突き刺さる事はなかった。
「大ちゃん……練習すればそのうち当たるようになるって!」
「もしこれが実践だったら圭佑は確実にやられてたよ。確かに練習したら当たるようになるよ。でも半年とか練習するの? 無理でしょ」
「あくまで僕の考えだけど、飛び道具ってのは運動神経のいい奴、スポーツが得意な奴が使った方が上手い事が多いんだよ」
「大介お前なんでそんな平然と淡々と説明できるんだ? それになんでそんなに戦闘に詳しいんだ?」
「死んだ父さんに色々と教わったんだ……自分の身は確実に守れるようにって」
「そうなのか」
「まさかこんな形で役に立つとは思わなかったけどね」
僕は傑にボウガンを渡した。
「傑撃ってみて?」
放った矢は真っ直ぐ飛び出してゾンビの眉間に見事命中した。
「当たった……」
ゾンビがそのまま倒れる。僕はゆっくりと近づいていき、矢を回収しながらゾンビの頭に大鉈を振りかざし、もう一度とどめを刺した。
「頭を当ててもまだ生きてる可能性があるから安心しちゃ駄目だよ」
圭佑に金属バットを渡す。
「これなら外す事は絶対にない。震えてても当てる事は出来る。後は振り抜けるかどうかだけだよ圭佑」
圭佑の体は、小刻みに震えていた。
両手でしっかりと胸の辺りに構えながらゾンビに近づいていく圭佑。
「うおおおおおおおおおおおお」
圭佑は、けたたましい声をあげながら金属バットを大きく振りかぶって、ゾンビの頭目掛けて振り落とした。
「パキャン」
と高い音が鳴り響いた。
「やってやったぞ」
「まだだ圭佑。まだ倒しきれてない」
「ゔ〜」
ゾンビが再び立ち上がった。
凹んだ頭のまま圭佑に近づいていく。
圭佑は何度も金属バットでゾンビの頭をぶっ叩いていた。
やっとゾンビが動かなくなった。
圭佑の息は上がっている。
「オエ〜〜」
その場で圭佑は吐いてしまった。
「圭佑大丈夫か?」
「大丈夫……とりあえずやっつけてやってぜ」
「ああ凄いぜ圭佑」
これならどうにか戦えそうだと僕は思った。
「よし! じゃあこのままゾンビ狩りと行こうか」
「「え!?」」
「大介これで終わりじゃないの?」
「何言ってるんだよ傑、これで終わりな訳ないだろもっと練習しないと!」
2人の腕を引っ張ってゾンビ狩りに出掛ける。
今日1日で2人には、とことん慣れてもらうつもりだった。
最低でも躊躇しないで1対1では戦えるようになってほしかった。
「よし! 次は傑の番だ! あそこにいるゾンビやっつけなよ」
「OK!!」
見晴らしのいい道にいる、ウロウロしているゾンビを狙っていく。
もし何かあってもすぐに逃げる事が出来るし、僕もすぐに対応が出来るし十分な安全マージンを取りながら2人にはゾンビと戦ってもらった。
「次は俺の番だな大ちゃん」
「圭佑任せたよ」
何体も何体も倒したおかげで、2人共躊躇なく戦えるようになっていた。
最低限の下準備は整った。
「よし! じゃあショッピングに行こうか!」
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