第3話 漢としてのそれぞれの決意
僕の母さんは、僕が産まれてすぐに病気で亡くなったそうだ。
なので幼い頃から父さんに育てられた。
物心ついた時には、毎日毎日修行する毎日だった。
格闘術や武術、体術から武器の使い方まであらゆる事を教わっていた。
小さい時はそんなに疑問を持たなかったけど、小学校の3年生になる頃にはすでに僕の家は他の家と違うんだと分かっていた。
父さんが、周りの同級生の父さんともちょっと違う事も気付いていた。
しかし、それが父さんなりの愛情表現だと僕は思うようにしていた。
幼い頃から母さんがいない寂しさを紛らわす為に、そして強い人間になってほしいという父さんなりの愛情なんだとそう思った。
忍者の家系という話は嘘で、子供の僕を納得させる為についた嘘なんだと思っていた。
そう思うと父さんの修行もそんなに嫌ではなかった。
修行と言っても身体を使うだけではなく、勉強も叩き込まれた。
というよりさせられた。馬鹿では忍者になれないというのが父さんの教えだった。
「いいか! 日本の危機になった時に俺達は立ち上がるんだ! それまではずっと忍ぶんだ! それが忍者だと」
父さんにずっと言い聞かさせれた。
中学に上がる頃には、忍者はすでに日本にいない事は分かっていたし、仮に末裔だとしても父さんがやっている事は、時代遅れで全く無意味だと気付いていた。
それでも父さんとの修行は、毎日続いていた。
中学2年の時に父さんが他界した。
急な病気だった。最後の最後まで自分達が忍者である事をずっと父さんは言っていた。
僕の家族は、誰も居なくなった。
一人になっても習慣だった修行は続けた。
何故かと言われるとそれは分からない。歯磨きみたいなものだと思っている。
しないと気持ち悪い……そんな気持ちだった。
まあ自分の身を守れる術を知っている事は無駄ではないし、勉強も同時に厳しく教わった父さんには感謝している。
大学に無償で入れる位には勉強の実力も持っていたので、大学に入ってそのまま普通に会社に入って、普通に人生を送ろうと僕は思うようになっていた。
高校に入ってからは、朝と夕方にバイトして昼間は勉強というサイクルだった。
傑と出会って少しは学校も悪くないと思っていた。
そして突然世界が崩れた。
これが父さんの言っていた『日本の危機』なのかと思ったが、たまたまだと僕は思う。
でもこうなってしまった世界では、父さんとの修行で学んだ事が役に立ちそうだった。
せめて傑と圭佑、僕の手が届く範囲のこの2人は守りたい!
そう思いながら僕は暗闇の中、ある目的地を目指して走っている。
あちこちでゾンビ達のうめき声が聞こえ、車が大破していたり、乗り捨てられていた。
昨日まで普通に明かりがついていた住宅街の家々は真っ暗だった。
僕は街のスーパーに到着した。
田舎のスーパーだから駐車場が広くて、周りを見渡せるし逃げ道もかなり多い。
駐車場の植えられた木に登って、そこから僕はゾンビの観察を始めた。
僕が確認したい事は、山ほどあった。
特徴や弱点、何に反応するのか?
奴らゾンビに休憩や睡眠という概念があるのかどうか?
動く為に食料や水分が必要とするのかどうか?
考えたらいくらでもあった。
今こうして見てみると、動きに法則性はなさそうだった。
それにスーパーの店内の明かりにも反応している様子はなさそうだ。
やはり音に反応するのだろうか。
僕は改造した防犯ブザーを手に取り、駐車場の真ん中辺りに投げこんだ。
スイッチを押す。
「ビィーーーーーーー」
耳障りな大音量の高音が鳴り響いた。
ゾンビ達が、意気揚々と音がする場所に集まりだした。
道路の方からもわんさか集まってきた。中には走っているゾンビなんかも存在していた。
(走るやつとかいるのかよ……)
あまりにも集まってきたのでスイッチを押して音を止めた。
音が止まるとゾンビ達は、再びさまよい歩きはじめた。
走ってた奴も歩いていた。
「ギィーーーーー」
急に歯ぎしりをしているような音が聞こえた。
音の方に目をやると、スーパーの看板辺りに何やら生物がいるようだった。
双眼鏡を手にした俺は覗いてみた。
四つん這いで目がない気持ち悪い生物が、双眼鏡越しに見えた。
(なんだあれ……)
よだれを垂らしながら、何やらニオイを嗅いでいるかの様な動きをしていた。
「パンッ!!」
遠くで破裂音が聞こえた。
その瞬間、四つん這いの生物は、ビョーンと地面に飛び降りて音のした方へと四つん這いのまま、もの凄い勢いでいなくなった。
「ありゃあヤバいな……」
心の声が漏れていた。
その後の僕は駐車場に降り立って、ゾンビを攻撃していった。
どこか弱点なのかを把握する為だった。
手始めにボウガンで一発、眉間を目掛けて発射し頭を抜いた。
ゾンビは矢が刺さったままこっちに向かって歩き出してきた。
(はぁ!? 頭弱点じゃないのかよ。いや銃じゃないと駄目なのか?)
もう一本打ち込んだらゾンビは倒れて動かなくなった。
それから僕は色々試してみた。
心臓を突き刺しても奴らは動く。
足を切ってもそれでも歩いてきた。
首の頸動脈を切っても倒れなかった。
頭を潰せばやはり倒れて動かなかった。
弱点というのは、やはり頭になるようだった。
普通のゾンビは普通に歩くより遅いから逃げられるが、走ってくる奴と、さっきいた四つん這いのやつは要注意だ。
それにこいつらはずっと動いている。夜中とか全く関係ないみたいだった。
外に出て違う都市を目指すことになったら、夜も常に警戒しないといけないのは厄介だ……。
僕1人だけだったらどうにでもなるけど、2人には超えさせないといけない壁がある。
落ち着いたら話して、傑と圭佑には経験してもらおう。
そうこうしているうちに、辺りに日が指し始め明るくなってきた。
(もうそんな時間か……そろそろ帰るか)
「ビー……大介……か?」
トランシーバーから傑の声が。
「傑どうした?」
「――早く――帰ってきて!」
「もうだめ――」
「おいどうしたんだよ!!」
そこで切れた。
僕は全速力で家へと向かった。
二人に何かあったのか? 何があった? 勝手に外に出た? 誰か地下に招き入れたのか?
僕の中で様々な憶測と最悪の状況が頭をよぎる。
「クソッ!! 2人共無事でいてくれよ!!」
肺が破裂しそうになりながらもスピードを緩めなかった。
やっと家に到着し、すぐにドアを開ける。
誰かが来たような様子はなかった。
地下の扉を開けてハシゴを降りた。
「プシュープシュー」
僕のマスク越しの乱れた息遣いがこだまする。
マスクを外すと、二人は仰向けになりながら倒れていた。
顔や体には誰かに殴られ、引っかかれたような跡が無数にあった。
制服は乱れて、ワイシャツやTシャツが破れていた。
「おい!! 傑!! 圭佑!! どうした!? 何があった!?」
「無事に帰ってきた……みたいだな……大介」
「なにっ!? 大ちゃん……帰ってきたの? おか……えり」
二人の顔は、あちこち青く腫れ上がっていた。
「一体何があったんだ!?」
僕は声を荒らげた。
「大介! これは重要な話だ……ゾンビが一体なんなのか? 誰がこんな世界にしたのか? どんな目的があるのか? そんな事より重要な話がある」
「傑くんの言う通りだ! 俺達にとってこれほど重要な事はない! 大ちゃんの意見で全てが変わってしまうんだ……」
「一体なに??」
今まで見たことがない真剣な表情で近寄ってくる2人。
あまりの緊張感に僕は、生唾を飲み込んだ。
「大介って童貞??」
「大ちゃんて童貞??」
「はっ!?」
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