第10話 お米の味
週末、綾ちゃんとスパイ映画を観た帰り、私は水色の傘を差して、つんと松の葉が雨に香る松林を歩いていた。
最近、雨が良く降る。
そのせいで、米の収穫時期が伸びていると、テレビのニュースで言っていた。
『新米がスーパーに出回るのは、もう少し先になりそうですね』
ジローが見ていたら、「大変だ」と驚いたに違いない。
ジローはお米が大好きだから。
それと肉じゃがも。
今日は、久々に肉じゃがにすることにした。スーパーで買ったお肉やジャガイモの入ったビニール袋をぶら下げて『No.3』の標識の前で立ち止まる。
あの日のずぶぬれのジローが、にぃと笑って見えた。手を伸ばすと、それは湿った雨に溶けていった。
もしかしたらジローは、わたしの夢だったのかもしれない。
そんな気さえしてくるほど、月日は確実に過ぎていく。
しっとり濡れる林にジローの残像を置き去りにして、私は歩き始めた。
もうすぐ新米の季節。
でも、ジローが急にいなくなったせいで、思い切って10kgも買ってしまったあきたこまちが全然減らない。
今年は新米は食べれないだろうな。
冬休みに実家に帰れば食べれるか。
まあ、どっちでもいいか。
ジローがいなければ、新米も古米も同じ味だから。
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