第5話 ジローの家出

 その数日後、事件が起きた。


 ジローが家出をしたのだ。

 なんの前触れもなく、突然。


『さょっとでていさます』

 テーブルに置き手紙があった。


 これってたぶん、


『ちょっとでていきます』

 の、間違いな気がする。


 その日からジローは、家出を覚えた。



 はじめは、たま~に。


 ジローは泥だらけで、帰ってきた。

 私は、ジローを丁寧にシャンプーしてあげた。


 たま~にが、ときどきに。


 ジローは、なんだか、ちょっぴりスリムになった気がする。

 心配になった私は、山盛りの肉じゃがを作って食べさせた。


 ときどきは、『よく』に変わって。


 セミがワンワン鳴く、蒸し暑い季節が訪れていた。

 私は、ジローに多くの質問をした。


「ねぇジロー、最近何してるの?」

「なんでも、ないですよ」


「ねぇジロー、昨日は何してたの?」

「なんにも、ないですよ」


『よく』が、ずっとに。

 私は、毎晩肉じゃがを作って、ジローを待った。

 来る日も、来る日も。


 ――ずっとは、ずっとのままに――




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