第6話 私のまちぶせ

 夕方5時。

 私は『No.3』の松林に向かった。今度は私がジローをまちぶせる。


「ジロー? ごはんだよ~」

 私のか細い声は、林に溶けてしまった。


 夕方5時。『No.3』の松林。

「今日は、肉だらけの肉じゃがにしようかな?」

 少し大きな声が、林に響いた。


 夕方5時。『No.3』の松林。

「今日は奮発して、牛肉の肉じゃがだよ~。おいしいぞ~」

「ぞ~」の部分が、林にこだまして、消えた。


 夕方5時。『No.3』の松林。

「肉じゃがが飽きたなら、違うのも作るよ~。おーい」

 私は、きょろきょろ、暗くなるまでジローを探し回った。


 夕方5時。『No.3』の松林。

「ジロー、出ておいで~~~~」

 叫んで、叫んで、叫んだ。


 夕方5時。『No.3』の松林。

「ジロー、どこにいるの?」

 私のつぶやきは、林を濡らす冷たい秋雨に消えた。


 出会った日のように、夕方5時を知らせるチャイムが、歪んだ音を林の中に響かせていた。



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