第3話 ジローは大食漢

 ジローと出会って、ふと気が付けば一年近くが過ぎていた。 

 夜7時。

 エアコンのいらない5月上旬の快適なワンルームで、私はジローを呼ぶ。


「ご飯できたよ。ジローの好きな、肉じゃがです」

「たべる、おさらだすの、てつだう」

 ポチポチポチポチ、と、ジローが狭いキッチンを歩き……


 がちゃん、がちゃん、と、大きな手をふるふるさせながら、不器用にお皿を運んでくれる。

 私はそれをヒヤヒヤしながら見守りつつ、ジロー用に100均で買った大きな水色のお茶碗に炊きたてのご飯をてんこ盛りによそった。


「それではごいっしょに」

『いただきます』

 はむはむはむはむ、とジローのご飯と肉じゃがが吸い込まれるように減っていく。


「おいしい?」

「はい。んと、おかわりです」


 二杯目。


 はむはむはむはむ。


「んと、おかわりです」


 三杯目。


 はむはむはむはむ


「おなかいっぱい。ごちそうさま」


 炊飯器の中身も、お鍋の肉じゃがも空っぽ。

 ジローがうちに来て、お米一袋がひと月でなくなるようになった。

 なんという食欲。


 私はゴロンと寝っ転がるジローを見つめ、ほうっとため息を吐いた。

「ジローを飼うには米俵が必要だわ。うちの実家が農家だったら良かったのにな」

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