第2話 ジローの中身
ジローはへんてこな、なりをしている。
体の色は、ころころ変わるし、模様がついている時もある。
しましま、はーと、おほしさま。
は、まだマシな方。意味不明な模様の時もある。
ジローは、毛むくじゃらで気持ちいい。
ジローは、わりと大きい。
ふと思いついて、メジャーで測ったら、180センチもあった。
「たいじゅうはひみつ。でもデブじゃない」
ジローは、どうやら、見栄っ張り。
ながーいながーいまつげが好き。
深い海のようなブルーの瞳も好き。
……結構、かわいい気がする。
大学の友達の綾ちゃんが言っていた通り、世の中には不思議な生き物がいるらしい。
人見知りな私が、大学で唯一友達になった風変わりの綾ちゃんは「ウチ、昔っから妙なもんが見えるんよ」と、カフェテリアで声を潜め、秘密を教えてくれた。
「大きなクマみたいなもんとか、人間サイズの巨大ネズミとかな。先週は、カピバラみたいんが空飛んでたわ。地元にいたときは、せいぜい一年に2、3回目撃するくらいやったのにな、この大学入ってから、もう8回も見ててん。8回やで。おかしない? たぶん、この辺の土地、そういうんが出やすいんやと思うわ」
切羽詰まった乾いた声で綾ちゃんは言った。
テーブルの上で組み合わせた両手が小刻みに震えていて、とても冗談を言っているようには見えなかった。
少なくとも、彼女にはそういった『なにか』が、つまり、不思議な生き物が見える人なのだと思った。
私がすんなりジローを受け入れてしまったのは、彼女の話を聞いていたからかもしれない。
それでも、一度だけ。
ほんの一度だけ、もしかしたら着ぐるみかもしれないと、寝ている間に頭をそうっと引っ張ってみたことがある。
もしも、中に入っているのがおじさんだったらどうしよう。
フライパンで殴ろうか。
でも、ジローなのだから、見なかったことにした方がいいだろうか。
さまざまな恐怖と葛藤を押し殺しながら、そうっと、そうっと、気づかれないように引っ張った。
「うにゅっ」
苦しそうに寝返りを打ったジロー。
驚いて、慌てて手を離した。
罪悪感。
とても悪いことをしてしまったと思った。
綾ちゃんにも。
ジローにも。
その日から、私はジローをジローという生き物として信じると決めた。
たとえそれが、他の人には見えない『なにか』であっても。
たとえ、もし。
万が一。
万が一にも、ジローの中に、別の『なにか』が入っていたとしても。
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