わたしでも
わたしが制服を着てリビングに姿を現すと、父はわたしたちと朝ご飯を食べてからすぐに仕事に出かけたようで、母が朝食の片づけをしていた。
彼女は制服姿のわたしを認める。
「広海、もしかして学校……?」
「うん」
母が、複雑な感情が入り混じりながらも優しげな笑みをたたえる。
「無理は、しなくていいのよ」
「ううん、大丈夫」
「私は、広海が少しずつ成長していって、嬉しい」
わたしは、母がわたしのことを愛してくれていて、大切に育ててくれるのが嬉しい。
それに、わたしが学校に行こうと思えるようになったのは、母と父が優しく見守って手伝ってくれたから。
わたしは時計を確認して、玄関へ向かう。
改めて学校に行こうと思うと、胃が痛くなるようだ。でも決意した以上は後戻りしないし、母もこんなに喜んでくれてる。
「それじゃあ、行ってきます」
精一杯の強がり。わたしは無理やり笑う。
「行ってらっしゃい」
ゆっくり噛み締めるような母の言葉が、感動的だ。
わたしが最後に外に出たのは、霊くんと一緒に外に出たあの日の夜だった。
朝見る我が家は、真夜中に見た我が家とはまた違った佇まいのように見える。
なにより、隣を見ても、あの時は隣にいた霊くんの姿はない。
「いや、違うよね……。ずっと、傍にいるんだよね……」
霊くんと最後に会ったあの真夜中、霊くんはそう言っていた。いつか干渉できなくなるけど、きっとずっとわたしの傍にいてくれるって。
だからきっと今も、見えていないだけで霊くんはわたしのすぐ傍にいて、わたしを見守ってくれてる。
そう思うと、わたしの気持ちは奮い立つ。
大丈夫、クラス替えでわたしをいじめた人たちとは離れたクラスになったし、先生はわたしに親切だった。
それに、一歩踏み出せただけで大きな収穫だから、明日から行かなくたって構わないんだ。
不安が消えることはなかったが、少し和らぐ。のろのろと引きずるように歩いていた足が速くなる。
わたしの学校は家からさほど遠くなく、考え事をしながら歩いているとどんどん学校へ近づく。
学校へ近づくにつれてわたしと同じ制服を着た生徒たちの数も増えていって、その中にわたしをいじめた人たちの姿も探してしまう。
ひゅっ、と喉が掠れた声を出した。
わたしをいじめた、主犯格の一人がいた。目が合う。
だが目が合ったのは一瞬で、彼女は興味なさげにわたしから目を逸らした。わたしは彼女から目を逸らすことができず、立ち止まったまま、歩いて行く彼女を見送る。
はっと気づいたころには長い時間が経っていて、遅れてしまうかもしれないとわたしは足を先ほどよりも速める。
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