冬夜

「広海ちゃんは、なにか夢とか目標とか、ないの?」


 少し考える。


 遠い昔、例えば小学校時代とか、そのくらいの頃はわたしにもなにか夢があったような気がするけど、今は特に思い浮かばない。


「……ない」


 求められていない答えだと自覚しながらも、他に答えが見つから中たのでそうやって答え、霊くんの顔色を窺う。


 霊くんは少し考え込むような表情をする。


「じゃあ、他の方向性を探ってみるのもいいかもしれない。上を目指すんじゃなく、下を避けるみたいな」


 霊くんは空を見上げながら続ける。


「今の広海ちゃんも、そんな感じだよね。僕はずっと手伝ってあげたいけど、そういうわけにもいかない。だから、いつかは一人でできるようにならないと」


 何気ない霊くんの言葉に、それでも確かにいつか訪れる別れを感じ取る。


 まだ出会ってから日も浅く、心を許しているわけでもないはずなのに、胸が締め付けられるような思いを感じる。


「霊くんは、いつかいなくなるの?」


 あまりにも幼く、答えが明白な問い。


「そういうわけじゃない」


 霊くんはそこで一度言葉を区切る。


「大丈夫、きっとずっと傍にいるから」


 霊くんは、優しく囁く。


 でも、霊くんがずっと傍にいるとは思えなくて、それはたぶん優しい嘘なんだと、そう思う。


「いつか広海ちゃんに干渉することはなくなるだろうけど、広海ちゃんの傍を去るわけじゃない」


 甘く優しい言葉を、たとえそれが嘘だとしても、わたしは信じたいと思った。

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