冬夜
「広海ちゃんは、なにか夢とか目標とか、ないの?」
少し考える。
遠い昔、例えば小学校時代とか、そのくらいの頃はわたしにもなにか夢があったような気がするけど、今は特に思い浮かばない。
「……ない」
求められていない答えだと自覚しながらも、他に答えが見つから中たのでそうやって答え、霊くんの顔色を窺う。
霊くんは少し考え込むような表情をする。
「じゃあ、他の方向性を探ってみるのもいいかもしれない。上を目指すんじゃなく、下を避けるみたいな」
霊くんは空を見上げながら続ける。
「今の広海ちゃんも、そんな感じだよね。僕はずっと手伝ってあげたいけど、そういうわけにもいかない。だから、いつかは一人でできるようにならないと」
何気ない霊くんの言葉に、それでも確かにいつか訪れる別れを感じ取る。
まだ出会ってから日も浅く、心を許しているわけでもないはずなのに、胸が締め付けられるような思いを感じる。
「霊くんは、いつかいなくなるの?」
あまりにも幼く、答えが明白な問い。
「そういうわけじゃない」
霊くんはそこで一度言葉を区切る。
「大丈夫、きっとずっと傍にいるから」
霊くんは、優しく囁く。
でも、霊くんがずっと傍にいるとは思えなくて、それはたぶん優しい嘘なんだと、そう思う。
「いつか広海ちゃんに干渉することはなくなるだろうけど、広海ちゃんの傍を去るわけじゃない」
甘く優しい言葉を、たとえそれが嘘だとしても、わたしは信じたいと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます