わたしが

「幽霊って、寒さとか感じないの?」


 思い返してみれば、霊くんは初対面の時からずっと、白いパーカーに黒のズボンを履いていて、暖かそうとは思えない格好をしていた。


「死んだときの服装が反映されてるのかわからないけど、ずっとこれなんだよね。寒さも暑さも全く感じないから、不便してはいないんだけど」


 少し不満そうに言った霊くんは、それでもパーカーとズボンがよく似合う。


「それで、どこ行こうか、霊くん」


「あれ、特には考えてなかったの?」


「外に出るってことでいっぱいいっぱいだったから」


 わたしにとっては、外に出ることが出来たというだけで、負のスパイラルから抜け出すことが出来たのだから、大きな進歩だ。


 霊くんもそれを察してくれたらしい。


「じゃあ、次はあまり疲れないことしようか。ちょっと河川敷を歩いてみる?」


 この近くには河川敷があり、昼間は子供から大人まで多くの人で溢れるので避けたい場所だった。


 しかし、深夜という視点で考えると、夜の川というのも一興だと思うし、人もあまりいないと考えられる。


「いいね、それ」


 わたしは少し考えて、河川敷を歩いてみることにした。


 少し歩くと運動不足の解消にも貢献してくれるだろうし、運動をするとちょっと心が豊かになるみたいな話を聞いたことがある。


 いざ河川敷に行ってみると、わたしたちの予想通りそこには人っ子一人おらず、ただ静かな川がそこにあった。


「霊くん、明日も来る?」


「うん。まだまだ広海ちゃんのこと、心配だし」


 外にいるからだろうか、彼の何気ない言葉がわたしの心臓の鼓動を速める。


 わたしのこと、心配してくれてるんだ。


 でも素直に言葉にするのは気恥ずかしくて、あえてそう言わない。


「わたしに会いたいってわけじゃないんだね」


「広海ちゃんには会いたい。僕は感情が希薄だけど、広海ちゃんといると感情豊かになれて、心地良い」


 少し意地悪をしたつもりが、霊くんが想像以上に真っすぐな答えを返したので、わたしはたじろぐ。


「えっ、と……」


「広海ちゃん、可愛いね」


 ふふっと優しく笑いながら言った彼の言葉に、わたしは自分の顔がこれまでにないほど熱くなるのを感じる。


 冬の夜風が、熱くなった顔を冷やすのにちょうどいい。

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