恐れ
霊くんは、目を見開いた。
わたしも、明日外に出ることを考えると、不安と恐怖と緊張から、心臓が速く脈打つ。目眩がする。視界が狭くなる。吐き気がする。
「広海ちゃん、落ち着いて」
倒れかけたわたしの身体を優しく支えたのは、霊くんだ。
わたしに優しく言葉をかけて、落ち着かせてくれる。
呼吸の仕方を思い出す。
「無理をする必要は無いから。明日外に出るのは、やめようか?」
「いや、でも」
「変わりたいと思いならチャンスを与えるのは重要なことだとは思うけど、それで体調とか心の調子を崩すっていうのは良くない」
霊くんは無神経でも無遠慮でもなく、わたしに最大限気を遣っていた。
「心配しないで。真夜中なら、大丈夫だと思うから」
「広海ちゃんが外に出るのを怖がるのは、人が怖いから?」
「そうなの。深夜は人が少ないだろうから、大丈夫だよ」
「広海ちゃんがそう言うなら様子見で明日、外に出てみようか。でも、無理はしないでね。広海ちゃんが無理をしてるように僕から見えたら、すぐに帰るから」
「それで、いいよ」
決定するのは怖かった。だけど、今ここで進めないと、これから先もきっと進めない。だから、明日、外に出てみよう。
明日外に出ると約束をして、しばらくわたしと喋ると、普段通り霊くんは姿を消し、霊くんの気配も消えた。
明日、外に出る。
何年ぶりだろうか。
いじめられて不登校になったのが高校一年生のときで、今は十七歳だから――およそ一年ぶり。それほどまでに期間が空いてしまえば、外の世界はもはや未知の世界となる。
わたしは、とても不安だ。
明日、外に出るのはどうしようもなく怖い。
今日はもう寝ようと思い部屋を暗くして、布団に被さってベッドの上で仰向けになるが、なかなか眠気を感じない。
いつもだったらなんだかんだすぐに眠れているのに、今日は余計なことが頭中を回り続ける。
もし明日外に出て、怖い人に絡まれたら。もし明日外に出て、車に轢かれたら。もし明日外に出て、道に迷ったら。
――もし明日外に出て、わたしをいじめた同級生に出会ったら。
ぞっとするような想像が頭をよぎり、もっともっと明日が怖くなる。
大丈夫。そんなことはそうそう起きないだろうし、霊くんも一緒に来てくれるから。
そう自分に言い聞かせても、憂いは消えない。
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