五年前の願掛け【短編】

真ケ部 まのん

現在.1



 その日、僕は本当にのん気だったと思う。


「ねぇ、覚えてる? 五年前の今日、二人でほこらに行ってお願いしたの……」

「え……」


 学校の正門を抜けたところで、幼馴染の里帆りほが憂鬱そうに切り出した。


 珍しく里帆から「一緒に帰ろう」と声をかけられ、僕は舞い上がったのだが、彼女は判決を待つ被告人のように、暗い表情かおで俯いていた。


「……いや。あんまり覚えてないけど」


 歩幅の小さい里帆に合わせながら歩いていると、中学の制服を着たクラスメイトが僕と里帆を追い越し、いかにもな様子でにやついた。


 僕が好きな子と一緒に帰っているからだろう。明日にも教室で冷やかされるのが目に浮かんだ。


「小三の七月二日に私としょうくんで行ったんだよ。海の近くにある護念祠ごねんぼこら。今からそこに行こうと思うの」

「へ……?」


 俯きながらも淡々とした口調で里帆が言い、僕は間の抜けた返事をもらした。


「今から行くって、制服のこのままで?」

「……そう。あのとき書いた願いがちゃんと叶ったかどうか、確認しに行くの」


 顔を上げた里帆と目が合った。強い意志をはらんだその瞳に、僕は「うん」と頷くしかなかった。

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