『第十章~ゲットアップ』

 四月二十五日土曜日、十五時三十三分。

 久作と須賀が1‐Cの教室に戻る際、入り口付近で担任とすれ違った。丁度、ホームルームが終了したらしい。クラスメイトの殆どが帰り支度を始めていたが、久作が自分の机につくと、方城とリカちゃん軍団が集まった。当然、須賀もいる。

「速河くん、大丈夫?」

 久作の目の前に座ったリカが、不安そうな表情で言った。久作は、朝一番から昼休みを間に今、十五時過ぎまでずっと保健室にいた。その問いかけは当然である。体のほうは幸い回復していたが、首から上、脳みそが若干疲弊している。露草葵の話とリカの不安そうな顔が重なる。無意識に須賀を見ると、須賀はかすかな笑みでこくりとうなずいた。

「大丈夫だよリカさん。今日は丸一日、保健室だったからね。もう一人で歩ける」

 笑顔ではきはきと、久作は応えた。それが意図的なものだと気付いたのは、須賀、ただ一人である。

「須賀? お前も大丈夫なんだろうな? 保健室に今までずっとこもってたってことは、お前も調子悪いんじゃねーか?」

 リカの安堵の笑顔の横から方城が言った。保健室での露草葵とのやり取りを知らない方城からの、当然の質問だ。

「俺か? 大丈夫も何も、俺は今朝からずっと……ああ、少し頭痛がしてな、下らんことに頭を使いすぎて持病の偏頭痛が出たんだ。アスピリンを出してもらって、速河と一緒に横になっていたから、もう大丈夫だ」

 リカがくすりと微笑んだ。偏頭痛とアスピリンという組み合わせが、いかにも須賀らしい、そう思ったのだろう。

「須賀くんは頭を使いすぎなのよ。体調管理、方城くんを見習いなさい」

 笑顔のまま、リカが柔らかく指摘した。

「ねー、アヤちゃーん。アスピリンて、何?」

「それはな、レーコ、昔ながらの果汁三%の炭酸ジュースだ! 糖分がスゲーあるから頭痛に効くんだぜ!」

 方城が「ふーん」と納得し、久作はがくりとうなだれ、須賀は卒倒しそうになっていた。

「アヤ! 滅茶苦茶なことレイコに吹き込まないで! まあ、それはいいとして――」

 さすがに良くないだろうと久作は思ったが、口には出さなかった。

「――速河くんと須賀くん、きちんと家まで帰れる? バイクの運転、大丈夫なの?」

 久作と須賀は視線を合わせる。体調のほうは全く問題ない。問題があるとすれば、頭、脳みそのほうだ。二人の視線がそうだと言い合い、揃ってリカに向けられた。久作の、おそらく須賀も同じくだろうが、脳裏に保健室の主、メタルフレームの露草の顔と科白が再び浮かんだ。

「あー! 須賀恭介!」

 唐突にアヤが叫んだ。

「今、リカちゃんの足をエロエロ目線で見ただろ! あたしの目はごまかせんぞー!」

「何? アヤ君? 俺は……エロエロ?」

 須賀は露草の言っていた「でっかいアザ」を無意識に探したのだろう。しかし、そうだと解かるのは久作と、その場にいない露草のみで、ゆえにアヤと、アヤの背後にとっさに隠れたリカにそれを説明するのは至難の業である。まさかここで、リカの過去を暴露するわけにはいかない。というより、久作と須賀が彼女の過去を知っているということ、それ自体、まだ伏せておくべきだろう。ゆえに、須賀はこう出る。

「いや、すまない。リカ君の足があまりに魅力的だったもので、つい、見とれてしまった。失礼」

「須賀、お前は委員、じゃなかった、リカに、その、何だ、あれか?」

 当然そうなるだろう、久作は須賀を見て、苦笑いをする。須賀は、やれやれ、とゼスチャーで返してきた。

「方城くん! あ、あの! 須賀くん! えっと、私は、その……」

「あー! リカちゃん照れまくってやんのー! ははは!」

「やんのー!」

 須賀が「これが最善の選択だろう?」と視線で合図を送ってきた。久作と須賀にとって、相当に深刻な問題であるミス桜桃学園という行事。頭から離れることは一瞬もない。しかし、それで神経をすり減らしてしまっては、この「勝負」には絶対に勝てない。だからこそ、こういった、一種の息抜きが必要だ。久作は「それでいい」と相槌を返す。

「ありゃー? ひょっとして速河久作、須賀恭介とリカちゃんにやきもちボーボーかぁ?」

 バババン! アサルトライフルの銃声が聞こえた。

「え? ああ、そう、そんな感じだよ」

 須賀がぎょっとして久作を睨み付けたのを感じたが、「すまん」と手で合図を送っただけで、続ける。リカが久作とアヤを睨んでいるが、こちらはとりあえず気付かないフリをして、久作の本題に入る。

「今は、十五時四十五分か。もし都合がよければでいいんだけど、みんな、ちょっと付き合ってくれないかな? 何というのか、ストレスを発散しておきたいんだ」

「別に用事はないけど、ストレス発散って?」

「あたしも用事ねーよぅ。コンピ研は無視っていいからなー」

「はーい!」

 リカ、アヤ、そしてレイコ。

「今日は土曜日か。昨日と同じで基礎練だけだから、多少遅れても俺はいいぜ?」

「放課後の学園に用事なんてない。何をするのかは知らんが、付き合えというのなら構わんが」

 全員から了解が出て、久作を筆頭とした集団はいくつかの階段を昇り、辿り着いたのは「音楽室」と書かれた部屋の前だった。


「ストレス発散って、カラオケでもすんのか?」

 方城が小さく言った。なぜ、小さくかというと……。

「ん? 何だお前ら? 吹奏楽部なら今日は休みだぞ? ……って、あれ? お前、確か一年の方城じゃねーか? バスケ部期待のエースが練習サボってたら、先輩に怒鳴られやしねーか?」

 音楽室にいた数人の一人、二年だか三年だかの茶色の髪の男性が、久作と方城を見て、不思議そうに言う。

「は、速河くん? 何をするのか知らないけど、ここはちょっと……」

 リカが方城と同じく、小声で言った。久作は二人に小さく微笑むと、音楽室の入り口をくぐった。

「こんにちは、1‐Cの速河です。あれ? 先輩のそのギター、アイバニーズのハーマン・リーモデルじゃあないですか?」

 視線が素早く、傍らに無造作に置かれたブレザーに行く。小さなピンバッジが、この茶髪の男子が二年だと言っていた。

「去年の文化祭、先輩たちは、ドラゴンフォースのカヴァーでしたっけ?」

 久作の言葉が止まると、茶髪の二年男子が、若干険しかった表情を一気に崩した。

「……ああ! 速河とか言ったっけ? お前、詳しいな! 俺の、ああ、スマン、2‐Aの加納だ、加納勇介(かのう・ゆうすけ)だ。よろしくな」

 加納と名乗った二年男子が右手を差し出し、久作はそれを軽く握る。

「これな、そう、TVF・ハーマン・リーモデル、俺の宝物の一つだよ。ローンが残ってるからまだ俺のじゃないかな? まあいいや。値段に見合うだけの音が出るぜ……といっても、俺の技術が全く追いついてないんだけど、なあ? ははは!」

 加納勇介は大きく笑いながら、傍らの、おそらくバンドメンバーであろう男子の肩を叩いた。

「ドラゴンフォースをカヴァーしたのは、こいつが、ドラゴンフォースが好きだからって、単純な理由だ。ああ、こいつはベースの真樹だ、真樹卓磨(まき・たくま)。俺と同じで2‐Aで、ついでに俺たち「ラプターズ」のリーダーだ」

 肩を叩かれた男子、真樹卓磨がセルフレームのメガネをいじっている。

「真樹だ、まあ、何だ、速河だったかな? よろしく」

「それで速河、何か用事でも――」

 突然、ドン! と大きな音がして、音楽室にいた全員が驚いた。

「加納! 俺を無視するな!」

 再びドン! バスドラムが響く。

「ああスマン! あっちの大柄の奴は、大道庄司(おおみち・しょうじ)、2‐Dでラプターズのドラムだ、見ての通りな。大道、これでいいだろ? この速河ってのが話があるらしいんだ、続けるぞ?」

 シャン! ハイハットが鳴る。どうやら了解ということらしい。

「スマンな、騒がしくして。俺、加納と、こいつ、真樹、そしてあっちの大道の三人でラプターズだ。ドラゴンフォースを文化祭でカヴァーしたのは、これはもう言ったっけ? まあいいか、真樹がたまたま去年、それをやりたいっていったからで、ラプターズのメインはオリジナルだ、なあ真樹?」

 ベース担当で、「ラプターズ」というバンドのリーダー、二年の真樹卓磨が、こくりとうなずく。

「たまには変わった楽曲もやりたい、ただそう思っただけだ。俺は加納ほど、こだわりはないが、まあ、オリジナルでやりたいという点は一緒だな。それはいいとして、そもそも何だ? 一年の速河だったかな? 何か用事があったんだろう?」

「それだそれ! 速河、どうしたんだ? お前、吹奏楽部じゃないよな?」

 真樹がゆっくりと喋り、加納が目の前の久作を見る。

「ええ、あの、初対面でこういうのは失礼だと思うんですけど、先輩たちの楽器を少し貸して欲しいんです。ストレス発散で少し弾かせてもらいたい、そんな感じです」

 背後から「はあ?」と聞こえた。方城だろう。二年の加納勇介と、同じクラスだという真樹卓磨が不思議そうな顔をして少し喋り、加納が切り出した。

「ストレス発散でギターか! そりゃいい! 速河だったよな? いいぜ、勿論! さすがにこれは貸せないが、別のギターが何本かある。好きな奴を選んでいいぜ! 真樹! お前もベース出せよ。ベースは、方城か?」

 加納勇介に言われた方城がぶんぶんと首を振る。

「ベースは、彼、須賀です。僕と同じ1‐Cの須賀恭介です。方城はドラムです」

「何? 速河? 待て! 俺はベースなんて弾けないぞ!」

「おいおいおい! 俺はバスケ部でドラムなんて見たこともねーって!」

 須賀と方城が久作に駆け寄り、怒鳴った。それまでは相手が高学年なので、距離をとっていたらしい。そして、未だに距離をとっているリカちゃん軍団に久作は顔を向けた。

「リードヴォーカルは、リカさん。アヤちゃんとレイコさんはサイドヴォーカル、ザコとかそういう意味じゃあないよ?」

 手招きするが、リカは状況が読めないらしく、微動だにしない。が、アヤはレイコの手を引っ張って、寄って来た。

「サイドヴォーカルって、やっぱザコじゃん! なあ? レーコ?」

「うん? よくわかんないけど、私はそれでいーよ!」

 アヤとレイコのやり取りに、加納勇介が大声で笑った。

「あははは! いやいや、サイドヴォーカルがザコってことはないだろう? なあ? 真樹?」

「サイドヴォーカルありきの楽曲は山ほどある。ザコどころか、準主役だよ、君。確か、橘君だったかな?」

 真樹卓磨の科白にアヤが飛び上がる。

「あれー! なんであたしの名前知ってるんだ、ですか? ナントカ先輩?」

「真樹だ、真樹卓磨。まあ覚えなくてもいいが、ナントカ先輩はさすがに。せめて真樹先輩くらいにして欲しいな。名前を知っているのは、君、橘君が俺と加納のクラスで、ナントカというゲームの話をしていて、そこで名前が出たから、それだけだよ」

「えー! ってことは真樹? 真樹先輩も、そっちの、えーと、加納先輩? 二人もミラージュやるってことですよね? 誰使いなんです――」

「アヤちゃん! ごめん、その話は後回しでいいかな?」

 アサルトライフルの弾幕に転がり込み、久作は素早くセイフティロックをかけ、そのトリガーを強引に止めた。

「まあ、そういうわけで、先輩たちの楽器と、ここ、音楽室を少し借りたいんですけど、どうですかね?」

 久作が申し訳なさそうに、加納勇介と真樹卓磨に訴える。

「速河、いいぜ! ほら、そこにいくつかケースがあるだろう? 好きなのを選んで、好きなように遊んでいいぜ。アンプはあそこだ。真樹、お前も早くベース出せよ! 大道! 聞こえてるだろ! 方城と変わってやれ!」

 加納が素早く指示を出し、真樹が一本のベースを持ち出して、それを須賀に渡した。

「あ、ありがとうございます……いや! そうじゃあなくて、速河! 俺はベースは弾けないんだ! そもそもどう持ったらいいのか、それすら知らん!」

「まあ、そう大声を出すなよ、えっと、須賀恭介といったかな? 弾けるとかどうかはともかく、とりあえず構えてみろよ。ほら、このストラップを、少し短いな、これくらいか。よし、こんなところだろう。速河、ベーシストが完成したぞ?」

 真っ黒なエレクトリックベースを、須賀が首からぶら下げていた。両腕はだらりと下がったままだった。

「真樹先輩でしたか? 俺はベースなんて触ったこともないんです! 傷でも付けたら――」

「ああ、それは安物の中古だ、気にするな。ネックが折れても別に構わんよ」

 須賀の、らしくない動揺を、真樹卓磨は軽く流した。久作はそれを見て、うむ、とうなずき、四つほどあるギターケースから、一番安そうなギターを持ち出して、細部をチェックする。

「加納先輩、このストラト、貸してもらっていいですかね?」

 ぽい、とピックが久作にほおられた。

「そんなジャンクでいいのか? もう少しマシなのがあったと思うが……ほら、これとか」

 加納が別のギターを出して言った。久作の手にした青いエレクトリックギターと見た目は殆ど同じだった。

「いえ、これでいいです。初対面の先輩のフェンダーを傷付けるのは、さすがにまずいですから」

 加納の申し出を丁重に断り、久作は、青いストラトキャスタータイプのエレクトリックギターを首から下げ、長めのシールド(配線)を握り、ギターアンプとストラトを接続した。

「マーシャルの十五ワットか。これならフルボリュームでも大丈夫だ」

 ぶつぶつと言いつつ、マーシャル・アンプのつまみをいじる。VOLUME、GAINとBASSを最大値までひねり、青いストラトの六本の弦を掌で軽く押さえたまま、アンプの電源を入れる。ぶーん、と小さな唸りが聞こえた。加納から渡されたドロップ型のハードピックを軽く握り、一呼吸置いて、六弦から一弦までを一気に弾いた。

 ズギャーーン!

 物凄い爆音が音楽室と、そこにいた全員を震わせた。その波動に須賀がよろめき、アヤとレイコが飛び上がり、リカが駆けてくる。駆け寄ったリカが何か言おうとしたが、それは久作のストラトの轟音でかき消された。久作は左手付け根を突き出すようにして構え、単調なコード進行を開始した。単調ではあるが、十六ビートの爆音なので、単なるコード進行には聴こえない。

「よし、こんなものかな?」

 轟音が消え、久作は小さくつぶやいた。

「須賀、方城、こんな感じで。リカさん、えーと、そうか、歌詞カードがないと。加納先輩、何か簡単な――」

「速河! お前! ロックンロールだぜ! なあ真樹!?」

「いい感じだな! 加納! 次は正統派ロックでいこう!」

 加納勇介と真樹卓磨が、大声で言い合っている。どうやらギター音で耳の感覚が麻痺しているようだ。

「加納先輩、簡単な曲で歌詞カードがある――」

「ああ! ちょっと待て! そういうノリの奴な! えーと、これでどうだ? 譜面は確か、あった! これだ! どうだ、速河?」

 CDアルバムと、開かれた分厚いギター譜面が渡された。

「VAN HALEN(ヴァン・ヘイレン)の「GET UP」……ああ、これはいいですね! リカさん! はい、これが歌詞カード」

 目の前で呆けているリカに、久作は「VAN HALEN/GET UP」と書かれた歌詞カードを渡した。渡されたリカは依然呆けたまま、その英語の歌詞カードをゆるりと見る。久作は加納から借りたCDを傍にあったプレイヤーにセットし、CDプレイヤーとギターアンプをピンジャックシールドで繋ぎ、その「GET UP」という曲を流した。十五Wとは思えないほどの大音量で、そのハイスピードのロックは音楽室を駆け抜ける。

 リカは、リピート再生される大音量の「GET UP」を聴きつつ、その歌詞カードを必死に追っていた。

「まあ! だいたいこんな雰囲気! どう? リカさん!?」

 リカに大声で怒鳴り、アヤ、レイコ、須賀、そして方城にも言った。

「ど! どうもこうもないわよ! こんなスピードで歌えるわけないじゃないの!」

 怒っているのではなく、単に耳が麻痺しているだけである。

「歌詞? 英文はどうにか発音できそうだけど! とにかく早すぎて全然追いつかないわよ!」

 と、加納勇介が笑顔でリカを手招きして、同じく大声で言った。

「名前知らないけど、彼女! これがロックだ! 歌詞だとか発音だとか、そんなのはどうでもいい! ノリでいいんだよノリで!」

「そう! 加納先輩の言うとおり! 僕だってこんな難しい曲は弾けやしない! でもいいんだよ! 適当で! それっぽくなってればいい! 須賀! 方城! 弾けるとか弾けないとか、そんなのもどうでもいい! 楽器を壊さないようにだけして、後は全部適当でいい!」

 久作が笑顔で怒鳴る。徐々に耳の感覚が戻ってきた。加納勇介、真樹卓磨、大道庄司がそれぞれ、リカ、須賀、方城に、とりあえずの基本姿勢だけを教えていた。

「この曲のサビはここ、簡単だろ? 他の部分は、まあそれっぽく聴こえるように怒鳴ればいい。ロックだから早く聴こえるが、歌詞カードを見ればわかるように、同じフレーズの繰り返しが殆どだしな。速河? 「GET UP」ならスリーヴォーカルってのはどおだ? 彼女たち三人で」

 加納勇介がアヤとレイコを見て提案した。

「なるほど、そうですね、それがいい。えーと」

 久作はリュックからルーズリーフを取り出し、歌詞カードを素早く書き写し、アヤとレイコに渡した。

「そんなに難しい単語はないけど、リカさんが言ってたようにかなり早いから、解かるところだけを適当に歌って、カラオケとかそんな感覚でいいよ。じゃあ……」

 チューニングをしつつ喋っていた久作が、CDプレイヤーの再生ボタンを押した。イントロに、ディストーションの効いたスローなギターソロが十秒ほどあり、再び音楽室が震えた。十五Wのマーシャル・アンプが咆哮をあげる。久作の指がフレットを飛ばして弦をすべり、ハードピックが素早く上下する。バスドラムがドカドカとリズムを刻み、リカちゃん軍団が英語だか何だかを叫び、須賀のベースヘッドが上下する。ギターソロパートにアヤの絶叫が割り込み、ライドシンバルが鳴る。

「ゲラァァァーーップ!!」

 音楽室の全員が叫んで、しばらくして笑い声がこだました。久作の頭に詰まったあれやこれやが全て吹き飛び、視界と思考がクリアになった。他にやっておくべきことがいくつかあったような気がしたが、今はこれが最良だろう。「GET UP」の歌詞カードを読みつつ、久作は若干興奮した頭で確信した。

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