探偵はウーロン茶を片手にハードボイルドを語る

ナカナカカナ

泣きぼくろの女編

第1話 早乙女瞳

 オレかい?


 オレの名は……瞳……。


 ハードボイルド探偵、早乙女 瞳!!


 なに? ハードボイルドなくせに名前が乙女チックだと?


 そんなことはない。


 ワイルドすぎるオレにはこういう可愛らしさが多少入ってる程度がちょうどいい……茶目っ気のないハードボイルドなどただの乱暴者だ。


 それにこれはオレの本名……両親が付けてくれた名前を捨てる事など出来はしない。


 そう、「瞳」は視力が悪い両親が、生まれてくるオレに「目が悪くなりませんように」との願いを込めてつけてくれたステキな名前だ。

 そんなオレの両目には今では、がっつりコンタクト。

 ふふふ……ホントに人生ってのはままならないもんさ……

 ところで先ほどの自己紹介からも分かると思うが、オレは探偵だ。


 今日は依頼者と会うため、行きつけのバーで、今は一杯やっている。


 ああ、そうだ……話は少しずれるんだが……こんな話を知っているか? 人づてに聞いたのだが『一度は言ってみたい言葉』というものに「マスター……いつもの」というものがあるらしい。


 ちなみにオレは、ここに毎日10年以上も通っている。マスターも顔なじみなので当然、憧れのセリフを使えるというわけだ。


「マスターいつものだ」


 しかし酒が飲めないオレに差し出されるのはいつも決まってウーロン茶。


 憧れのセリフの後、ウーロン茶を口にする男の姿は周りから見てさぞかし滑稽なことだろう……


 酒が飲めないオレは、ウィスキーと色が似ているウーロン茶をいただく。ウーロン茶に、このセリフを使うのはいささか恥ずかしいのだが……「ウーロン茶」と頼むとマスターはオレを無視するのだ。


 どうやらこれは「言ってみたい言葉」というだけではなく「言われてみたい言葉」でもあるようだ。


 ふ、まったくお茶目なマスターだぜ。

 おっと、話しの途中だが……すまない、依頼者が来たようだ。


 入り口のドアの鈴を鳴らしながら入ってきた依頼者は、オレの隣の席に静かに座った。


 さて……今日の依頼者は……


 ほう……なかなかの美女……どうなんだ? マスター?


 こういう時、オレは決まってマスターを確認する……


 マスターは女性に対して斜め45度の姿勢を保ち、まだ使われてもいないグラスをしきりに拭きはじめた。


 ちなみに斜め45度の角度はマスターの一番自信のある顔の角度らしい。


 レベルは極めて高く、マスターのストライクゾーンに見事ど真ん中のようだ。

 あとで連絡先を聞いとくから楽しみにしといてくれよ?


 ということでお嬢さん。とりあえず連絡先を教えてくれないか?


 連絡先を聞くと彼女はなんの疑問も持たずに電話番号をメモに書き私に手渡した。


 ふふふ、チョロイもんだ。

 まあ、依頼者としては仕事を頼む私に連絡先を教えないわけにもいくまい。


 なになに……03……ん? いや、しかし……これは……

 よく見ると携帯電話ではなく固定電話?

今時珍しいな…。


 この時、一抹の不安がオレの頭をかすめる……


 電話かけた時……お父さんが出てくるなんてことはないよね? と……

 

 

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