第48話 オレ、TUEEE?
【トレス視点】
初めに会った時は、冒険者の先輩で尊敬していた。
だけど、ギルドの試験ですぐに倒して、オレの魔法でツルツルの頭になった後は、ずっとオレの側でSUGEEESUGEEE言ってくるようになった。
オレは外れスキルなのに不思議だなと思っていた。
それが、ゴメスだった。
そして、キアラと出会って、ヒナと出会って、シロと、ドウラと、みんなと出会って、オレはみんなから愛され、褒められていた。
なのに、いつからか少しずつみんなのオレへの誉め言葉が減っていった。
わけがわからなかった。オレは、みんなの為に頑張っているのになあ。
確かにみんなのお陰で敵が消耗していたり、ラッキーで相手が弱っていたり、みんなが雑魚なのに勘違いしていたりしてた上でオレがとどめを刺しただけだ。
それでなぜかみんながオレの事を好きだと言い出した。それだけだ。
キアラもヒナもシロもドウラもみんなオレの事をそんなにすごくもないのにすごいと言って、勝手に好きだと言って迫ってきたんだ。
なのに、どんどんすごいも好きだも言わなくなっていった。
そして、おじさんの所に。
何故おじさん?
キアラもすごい。ヒナもすごい。シロもすごい。ドウラもすごい。
でも、あのおじさんはすごくない。いきなりやられて、そのあとはオレの側で勝手にSUGEEE、SUGEEE言ってるだけだ。
なのに、かわいくてすごいみんなはおじさんの所にいった。
そして、それからどんどんおかしくなっていった。
オレの所にはディアナと十何人の女しか来なくなった。
足りない。
これじゃオレには足りない。
頭の中がうるさい。
誰かがオレに話しかけてくる。
何故オレの邪魔をする。
オレはすごいのに。
オレはすごいのに?
外れスキルなのに?
外れスキルだけど。
すごいんだろ。
すごいはずだ。
何が?
きっと努力だ。オレはすごいがんばってる、外れスキルなのにがんばってる。
それがすごいはずなのに。
周りはすごくない。
外れスキルでがんばっているオレよりすごくない。
才能あるやつらばかりですごくない。
じゃあ、あのおじさんは?
うるさい。
おじさんは……すごいスキルを持っていないからすごくない。
じゃあ、おかしくない?
うるさいうるさい。
あのおじさんはすごくない。ていうか、オレ以外すごくない! みんなみんなすごくないんだ!
はい、矛盾ーw
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!
黙れ雑魚が!!!!!!!!!!!
落ち着こう。
もう大丈夫。
だって、あのおっさんは【カット】した。
その間に、みんなを正気に戻せばいいだけだ。
そうだ、あのおっさんの口八丁にみんな惑わされて騙されて操られていたんだ。
だから、オレがあのおっさんからコピーしたスキルで元に戻してあげればいい。
オレを愛してくれるみんなに。
それがあるべき姿だから。
オレを愛さないみんななんて。
ありえない。
だけど、きっとおかしくなっているみんなは消えたあのおっさんを探そうとする。
オレのコピーしている【集音】【魔力探知】【千里眼】のスキルならすぐに見つけてしまえることになる。絶対皆に頼りにされる。こういう時、あまりにもスキルをいっぱい持ってると面倒だよなあ。
汗だくで走り回っているキアラがいる。金髪ツインテールでキツめのつり目がかわいいキアラ。前はオレのことをキツい言葉をかけながらでも心配してくれていたのに。今は必死になっておっさんを探している。
あ、オレに気づいた。
「トレス……その、アイツを見なかった?」
「ああ、ちょっと出てくるってすぐに戻るとは言ってたよ」
問題ない。ちゃんと話せばおっさんなんていらないし、オレのことを分かってくれるはずだ。
視線を地面に落として走り出そうとしたキアラの腕をつかんで引き留める。
【コピー・褒める】を発動。
これで、オレのものだ。
「それにしても、キアラも本当にSUGEEEな」
「……なによ急に」
「いや、だってさ、キアラは……キアラはSUGEEEよ。かわいいし、SUGEEEし、金髪ツインテールがSUGEEEかわいいし、つり目もSUGEEEかわいいし、SUGEEE……そのSUGEEE……」
言葉が、出てこない……!
……嘘だろ。嘘だ! あのおっさんのスキルをコピーしたのに!
なんでなんでなんで!?
「トレス……急に褒め出してなんのつもり?」
「いや、その、褒めたくなったんだ!」
「そう……もしかしてだけど、アイツの真似、じゃないわよね?」
おっさんの真似。
その言葉を聞いた瞬間、カッと頭に血が上る。真似!?
真似じゃない! これはオレのだ! オレの為にあるスキルだ!
みんなのスキルはオレがオレTUEEEするためにあるんだから!
あれ? なんだ? 今、なんて思った?
違う。何もかもがおかしい。間違ってる。
オレがおっさんの真似。なんだそのつまんない展開。
「そんなわけ、ないだろ……」
「キアラ、見つかった? トレス?」
ヒナ達もやってくる。みんな、おっさんを探してたのか汗だくだ。シロなんか涙を浮かべている。
ドウラも竜になって空から探していたみたいだ。
「トレス。アタシを褒めたくなったのよね? ありがとう。トレスはすごく強いわ。多分、だれよりも強いし、スキルもたくさんコピーしてすごいわね。アタシはどう?」
「……!」
キアラがようやくオレを褒めた! そうだ! そうだよ! これはオレの物語なんだ!
オレが主役なんだ! みんなオレをほめたたえるべきなんだ!
オレを褒めてくれたんだ! キアラもちょっとは褒めてあげないとな!
「キアラもSUGEEEよ。魔法もかなりSUGEEEし、SUGEEEかわいいし、結構SUGEEE強いし……」
オレがそう言って、褒めスキルを使って褒めてあげるとキアラは……悲しそうに笑った。
「……ねえ、トレス、気づいてる? アンタは、絶対にキアラ『も』って言うのよ。その言葉に何が含まれているか分かる? みんな『も』SUGEEEけど自分『も』、自分の方がSUGEEEでしょ。なのよ。トレスは確かに凄いわ。だけどね、本当にその人を褒めたいならちゃんとその人のことを見てあげて」
キアラはオレの目を見てそんなことを言ってくる。
違う。そんな言葉、聞きたいわけじゃない。
「そして、トレスは勘違いをしているようだけど、褒めるってのはね、ちゃんと褒められたい人から褒めてもらわないと嬉しくないのよ。知らない人から褒められてトレスは嬉しい? 散々馬鹿にしていた、例えば、アンタの父親ゲス=デスケドナニカからSUGEEESUGEEE言われて嬉しい? アタシは嬉しくない。アタシがちゃんと認めて、アタシのことをちゃんと認めて、理解してくれている人に褒められるからうれしいのよ」
違う。オレのキアラはそんなこと言わない。
違う。間違ってる。おかしい。こんなのおかしい。
「トレスさん、言葉は鏡です。美しい心の人には美しい言葉が。そうでない方は言葉に闇が、毒が、隠そうとしても現れるのです。配慮のない言葉、人をさげすむ気持ち、見下すプライド……私も気づきました。自身の本当の汚れに。トレスさん、己の言葉を見つめてください。誰かの借り物の言葉で己を美しく飾り立てた振りをしても、ちゃんと見てくれる人は気づいてしまうんですよ」
ヒナがそんなことを言ってくる。
違う、間違ってる。違うんだ、これはボクの考えた物語じゃない。
この物語は借り物で……物語……? 借り物……? 何を考えているんだ、ボクは……オレは……?
「トレス……ボクね……勉強したよ。自分を褒めてあげたかったら、まず自分に誇れることをしなきゃいけないんだよ。自分で自分を褒められることをしなきゃいけないんだよ。トレス……トレスは今、自分を褒めてあげられる? 他人の言葉をコピーして本当は心にも思ってない事を言って他人を喜ばせようとして……今、空っぽじゃない?」
シロがオレを見下している。絶対見下している。
違う! 間違っている! 全部間違ってる!
オレじゃない! オレは間違ってないはずだ!
「トレス……」
ドウラはじっとオレをボクを見つめてくる。
なんだよ! 馬鹿にしやがって! ボクより下の癖に!
全員全員馬鹿だ! ゴミだ! クズだ! ボクより下のクセに! 下下下下下下下下下下下下下下下下下下下下下下下下下下下下下のクセによぉおおお!
「うあああああああああああ! もうめんどくさいめんどくさいめんどくせええんだよおおお! 理解力のない他人なんて全員ゴミだろうが! オレを、ボクを理解しろよ! うやまえよ! オレTUEEEんだよ! SUGEEEんだよ! みんなSUGEEEって言ってればいいんだよ! お前らは全員オレより下! 下下下! オレより馬鹿! 馬鹿どもは黙って、トレスTUEEEトレスTUEEEって言って崇めていればいいんだよ! オレは最強の才能を、チートを与えられて、モテモテで、逆らう奴は全員死んで、みんなオレをあがめる世界になれよぉおおおおおお!」
あ。
「……」
「……」
「……トレス」
「……そうか」
……やらかした。思わず叫んでしまった。
みんながオレを見ている。蔑むような目、憐れむような目、怒りに震える目。
だけど、誰もオレに声を掛けてくれなかった。
オレは、一人だ。なら、
「あー……もう終わりだ。この世界おーわり」
どいつもこいつも馬鹿で頭おかしい。変だ。だから、
「作り直そう。この世界。【コピー】して」
そうだ。全部【コピー】すればいいんだ。魂はコピーできないけど、命令すればオレの言う通りに動いてくれる。
目の前でオレを見下していた奴らのコピーを作る。そして、【テイム】していう事を聞かせる。
「「「「トレスTUEEE! トレスSUGEEE!」」」」
これだよ、これ。
「なのに……なんで、キアラ達のコピーは作れないんだ?」
そう、キアラ達4人のコピーは作れなかった。アレが一番欲しいのに。
「残念ね……アタシの創造魔法【コピーガード】よ。アイツにアイディア貰って、ヒナの闇属性魂魔法と合わせて作ったアンタ専用のオリジナル魔法……! 魂と身体やスキルをしっかり結び付けて簡単にコピーできないようにしたのよ!」
キアラが嬉しそうに叫んで見下している。
「ふーん。でも、それも魔法でしょ? オレの方が魔力もSUGEEE」
「……! やれるもんならあ! やってみなさい!」
思った以上に粘られた。でも……オレの勝ちだ。
「はあ……はあ……!」
【コピー・鑑定】で見て分かる。もう魔力はほとんどない。【コピー・鉄壁】で傷をつけることは出来なかったし、仮に傷をつけても【コピー・完全治癒】で元通りだ。
【コピー】して、同じ姿の人形でもいいし【コピー・全自動錬金術】でホムンクルスを作り出してもいいけど、やっぱり彼女たちは特別だ。
そうだ、彼女たち自身を【コピー・テイム】すればいい。オレに従順になるようにしよう。
「【コピー・テイム】。……? 【コピー・テイム】……【コピー・テイム】!」
「【テイム】……はぁはぁ……相手の心を折らないと使えないんでしょ? アイツに教えてもらったのよ! 残念だったわね! アタシたちの心は折れてない! アイツに褒めてもらってアタシ達の心はアンタの何倍もTUEEEのよ!」
いちいちいちいちあのおっさんはなんでも説明しやがって……。
「じゃあ、もう、死ね。死んでアンデッドにして、その後、オレをずっと褒めたたえる人形にしてやるよ」
【コピー・死霊術】で操る。それでいいんだ。
「そいつは、褒められたもんじゃねえなあ」
声がした。
疲れた声。
おっさんの声。
振り返るとそこには、
「いやあ、トレスよお」
ツルツル頭の、
「ほんと、お前はTUEEEよ」
なんの戦うスキルもないのに、
「こんな状況になってもまだ自分の為だけの世界を守ろうと出来るんだから。メンタル強すぎ」
口だけSUGEEEおっさん。
それが………!
「だけどな! マジで、お前UZEEE!」
「ゴメスゥウウウウ!!!!」
「おう。俺が、ゴメス。ただのクソデカボイスおじさんだ、このただのクソバカチートやろぉおおおお!」
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