第46話 全力で、IKEEE!

「ドウラ様! わが軍がギティル率いる革命派を圧倒しております!」


 圧倒しております。

 理由はいくつかあるが、ひとつは、敵はギティル率いる革命派の若い竜達と、竜達を支援する人間たち。原作では竜用にカスタマイズされた武器を身につけて暴れまわっていた。特に魔導ガトリング砲で。

 そう、原作では描かれていなかったが、どうやら百足蜘蛛盗賊団の元にあった武器たちは最終的にギティル軍のところにやってくる流れだったようだ。

 だが、今回はシロ編で俺達がほとんどぶっとばした。なので、まず武器の数が足りていない。


 その上、ドウラの妹で、一つの旗印になっていたディアナが仲間に加わらなかったことで、竜も集まり切らず頭数も足りない。


 さらに、


「麻痺針の雨よ。無駄な抵抗はやめなさい。出来るだけ血は流したくないの」


 努力でほぼすべての属性魔法を覚え、とんでもない魔法の技術を身につけ始めたキアラ。


「個の力で競い合う必要はありません! 陣形を保ち確実に倒していくのです!」


 集団戦法を身につけた上に、光と闇の魔法を操り、バフデバフを使いこなすヒナ。そして、


「……もうやめよ? ボクには勝てないよ」


 個の力で竜を圧倒できるほど覚醒したシロ。


 そう、シロが覚醒しました。


 はずコピ原作では、トレスからのプレゼントからの、好感度アップイベントからの、致す。

 で、新たな力に目覚める。

 のだが、本作では、プレゼント受け取った後になんかすごい努力し始めてそれぞれすごく成長している。


 そう、シロにもあげました。


 その名も【月の涙】。このストーリーが実にすごい。

 温泉料理対決編で実はシロの作った料理が魔界の高級料理だったらしい上に、ダンス編で実はシロのダンスが魔界流だったらしい。


 そう。


 無理やり後付けである。


 そして、その情報から実はシロは魔界の女王と人間との間の娘であることがなんとなく分かり、美少女コンテスト編でのお祝いで買ったイヤリングが実は魔界の女王のもので、山賊編で山賊が持っていた宝の中にイヤリングの伝説について描かれた書物があり、それに従い、魔物狩り編直前、丁度ご都合なタイミングで【青い月】という月が真っ青になる現象が起きる夜にイヤリングを身につけたまま月の光を浴び続けると、イヤリングについていた宝石が真っ青に輝き【月の涙】が現れる。後付けな上に急速な伏線作り回収である。


 まあ、それで原作ではそれらをトレスとシロで行うのだが、美少女コンテストで子供への配慮なく色々ボカーンしたトレスにシロ嫌悪感あらわ、山賊編で村の女性陣にモテモテ足しまくりトレスにシロ嫌悪感モロ、そして、そのまま毎晩致しまくりナイトなトレス、更に嫌悪感限界突破なシロ。

よって、シロfeat.ゴメスの結成である。


 まあ、美少女コンテストでの子供のメンタルケアをシロと一緒にゴメスがしたし、山賊編でもネタバレしてる俺が書物の中身分かるし、青い月の夜はまあそのあのいわゆるシロが一緒にいて欲しいと言われたしみんな色々やることあったのでまあそのあのいわゆる一晩中二人きりでお話をしていました。致してはいない!


 そして、手に入れた月の涙は、魔族としての力を解放させる力を持っていた。

 その上、トレスに挑み体術に磨きをかけ、キアラに魔法技術を教えてもらい、ヒナから戦術戦略の授業を受けたとっても勉強熱心で良い子シロは、相手の思考を読み切って戦う達人と化していた。


 まあ、というわけで最強良い子シロ爆誕。

 さらに、ドウラ達竜の一族数的有利で圧倒的。

 ヒナが指揮する冒険者ギルドチームも他のこと人員割いてはいて多くはないがそれでも原作にはいなかったのでかなりの戦力になっている。さらに、まあそのあのいわゆる俺の【神言】がヤバいことになっていた。


「みんな、がんばれ! お前らなら出来る!」


 俺が声を掛けるとなんかみんなの身体から光で溢れ始めていた。


「うおおおおお! な、なんだ力が溢れてくる!」

「魔力も上がってる!?」

「腰痛が治ったぞ!」

「えへ、流石ゴメス!」


 なんかよくわからんが進化した。俺の【神言】がどんどん進化した。

 一度死にかけて女神さまに会ったくらいからどんどん【神言】の能力が上がっている。ちょっと声掛けたらみんなすっごいパワーアップしてる。理由はまあそのあのいわゆる多分なんかずっとヒロインズやらみんなを褒め続けていたからだと思います。

 というわけで、俺の最強バフ【神言】によりとんでもない集団爆誕。


 ほぼ100%勝つ。トレスがいなくても勝てる。


 だが、これは戦争。


 そして、リアルな戦いだ。


「おのれぇええええええ! だが! ここで引き下がるわけにはいかぬ! 儂の命果てようとも!」


 負けると分かっていても、後のない革命派は全員死ぬまで辞めない様子を見せる。身体中に纏わせていた魔力を爪や牙に集中させ攻撃特化に。一人でも多く道連れにするつもりだ。


 理のない意地。


 だけど、これが戦争なんだろう。

 そうなれば、こっちにも被害が、いや、死者が出る可能性だってある。


 そういえば、原作には死者の描写はなかった。みんなで勝ったね宴だねいえーだった。

 だけど、死者ゼロなはずがない。何十という竜同士の激突で人間たちも戦いに加わっているのに奇跡的に死者ゼロでしたなんてあるはずがない。ていうか原作トレスが魔法で消滅させてたし。


 読者には見えない場所で死んだ奴らを俺たちは見なければならない。

 そして、それが何人だろうとどんな奴だろうとそいつには仲間や家族がいる。ただ、描かれなかっただけだ。物語には必要ないから。だけど、俺達には見えてしまうんだ。


「ならぁあああああああああ!」


 描写がないなら、夢を見る。無謀な夢を、原作以上のハッピーエンドを目指す!

 特攻兵と化した敵軍が近づいてくる。道連れになんかさせてたまるものか!

 死んでほしくない! 死んでほしくない! 死んでほしくない!!!


「みんなあ! 絶対に絶対に死ぬんじゃねえぞおお! お前らなら出来る!」


 肺から喉を通っていく魔力が増幅されていくのを感じ、声となりみんなに届きみんなの身体が輝きだす。みんなの身体が。


 俺の声に応え、一番前に飛び出したのは……竜の姿のドウラだった。


「『奴ら』の狙いは竜の血じゃ! 儂が前に出る! あとは後方から援護を頼む!」

「し、しかし、ドウラ様! 貴方の竜の血こそ」


 竜族の一人が心配そうに近づくがドウラは手で制し笑う。


「なあに、儂は大丈夫じゃよ。竜族最強となった女を舐めるでない。それに対策は出来ておる! キアラ!」

「ええ! 『魔鎧』!」


 キアラが虹色の魔力をドウラに向かって飛ばすとドウラの全身を包むように魔力の鎧が現れる。


 キアラさんのオリジナル魔法である。治癒効果、魔法防御効果、物理防御効果、魔法抵抗、対熱、耐電などなど完備のオリジナル魔法である。ちなみにこれも原作にはない。キアラさん原作にない魔法を現在15個ほど生み出している。


「これがあればよほどのことがなければ、血をくれてやることもないし、やられることもない。だから、心配するでない……では、行くぞ!」


 ドウラがちらりと俺を見て、そして、前を向く。


「誰も死ぬな! これは命令じゃ!」


 一番戦争をいやがっていたのはドウラだった。


 昔起きた戦争でいいように使われ、竜同士の争いで沢山の命を失い、数自体が減った竜族は『竜の隠れ家』と呼ばれる場所でひっそりを暮らしていた。

 ドウラは先の戦争のショックで引っ込み思案な女の子だったが、一人前になる為と隠れ家の外に出され修行の旅に。それで色々あってトレスと戦い仲間になり一度竜の隠れ家に帰り『許可』を貰い晴れて一人前になれた。


 トレスと戦うまでの色々は色々らしい。原作には色々で省略されてた。

 なんだったら、ドウラの過去も結構後付け気味につけられてた。


 なにはともあれ、ドウラは元々戦うのが怖い臆病な女の子。強がってお色気強者お姉さんを装っている。原作では、トレスが『オレが君を守るから、戦おう』とか言う。


 だが、もうトレス頼りにならないと決めた俺は、戦争前にドウラと二人で話をした。

 ドウラは泣きながら仲間たち、そして、敵側の竜族や人族の死さえも恐れていた。




『こわい……わしはこわくてこわくて仕方がない……臆病者じゃ、わしは……』


『ドウラ……俺はお前がすげえ奴だと知ってる。……すげえやさしい奴だってな』


『え?』


『お前はどんなに怖くても戦う選択肢を選ぼうとしてる。みんなの為に。こわくてこわくて仕方がないのに。すげえよ。お前は。だから、みんなお前と一緒に戦いたいんだ』


『で、でも……わしは……』


『しゃあねえなあ。お前がお前の本当に進みたい道を選ぶためにおじさんが人肌脱いでやるか』


『え? あの? その? ゴメス? あのじゃな、儂はその……』


『どれだけお前がSUGEEEか、そして、お前の仲間がSUGEEE頼りになるか時間ある限り俺の仲間自慢に付き合ってもらうぜ!』


『……あは。頼む』




 それから俺は、キアラを、ヒナを、シロを、キャルを、竜族の奴ら、冒険者ギルドから来てくれた人族の奴ら、そして、なによりドウラの自慢話をしまくった。嘘は一つもない。俺がちゃんと見てきて感じた本当にSUGEEEと思っているところを隅から隅まで語った。


 そして、ドウラは決めた。


『儂は……種族最強の竜族の最強の女。この戦争をあっという間に終わらせてやるわ。SUGEEE一生懸命生きてる多くの者たちを生かして終わらせてやる……!』


 最も難しい選択を。だが、俺はそれを褒めた。だって、ドウラなら……。




 敵軍に一人で突っ込んでいくドウラ。ドウラを守る様にドラゴンのブレスが、人間たちの矢が、魔法が飛んでいく。


「ド! ウ! ラァアアアアアアアアア! がんばれぇえええええ! お前ならやれる! この戦争を終わらせられるぅうううううううう!」


 ドウラなら出来る! だったら、俺はそれが出来ると信じ声を掛けるだけだ!

 俺は俺の役割を! 強者をより強者にするよう声を上げる!


「な、なんだ……力が……」

「魔力が落ちている? 敵の、ドウラ達の力はあがっているのに!?」

「あの声のせいか……?」


 敵軍の竜達がざわついている。そう、俺のパワーアップした【神言】の力の一つが、これ。

 褒められていない側の力が落ちていくというもの。嫉妬なのか落ち込みなのかはよく分からないがとにかくパワーダウンする。なぜかキアラ達は他を褒めるとパワーアップしてすんごい努力し始めるけど!


 もしくは俺自身の戦争を終わらせたい思いが言葉に乗って彼らに届いているのかもしれない。いずれにせよ! 俺は叫ぶ! 力の限り! ゴメスは叫ぶ!


「うおおおおおおおおおおおお! ドウラはSUGEEEEEEEEEEEEE!」


 俺が叫べば、肺・喉・口を通り魔力が飛んでいく。何度もそれを繰り返す。何度も何度も何度も!


「ちょっと! ゴメス! アンタ、のどから血が……!」

「ゴメスさん! 身体に負荷をかけすぎです!」

「ドウラ! お前はSUGEEE! SUGEEE自分を信じろ! SUGEEEながまをっ……!」


 魔力を乗せて言葉を吐き出すのは、かなり身体に応える上に、未だかつてないほどに叫び続けているせいでどんどん身体が悲鳴を上げ始めていた。


 だけど!


 俺はゴメス! はずコピのURUSEE男! そして、仲間のSUGEEEを伝える男!

 そして、臆病で誰も死なせたくない小心者だ!


「SUGEEE仲間をっ! 信じろ! 俺達はっ! SUGEEEEEEEEEEEEEEE!」

「ふ、ふ、ふははははははははは! ゴメス、お前が一番SUGEEEのじゃよぉおおおおおおおおおおおおお!」


 ドウラがまさしく一騎当千の戦いを見せ、支援を受けながら襲い掛かってくる敵の攻撃を防ぎ続けた。やっぱりSUGEEE。ドウラも、それをサポートしてるキアラもヒナも……そして、


「な、なんだ……こいつらは、強すぎる。何故、こんなに、もっ……!」


 敵の竜に囲まれた敵軍大将ギティルの動きが止まる。

 自身の首元に真っ白な魔法の剣を当てているイヤリングを付けた半人半魔のかわいくてSUGEEE女の子に漸く気づいたようだ。


「ボク達はね、SUGEEEんだよ。竜よりも何よりも……だって、ゴメスがそう言ってるんだ。ゴメスが言うなら嘘じゃない」

「そうか……どうやら、我々はそのSUGEEEではなかったようだ」

「大丈夫だよ。ゴメスならきっとあなたのSUGEEEも見つけてくれる。だから、ゴメスの敵になるのは……やめよ」


 シロが光となって、ギティルの体力魔力を【盗んで】いく。

 そして、シロが再び姿を現すと、ギティルは微笑みながら地に倒れ込んだ。


「……敵将ギティルはもう戦えぬ! お主らにも声が届いたであろう! 戦争は、終わりにしよう。……そっちの方がSUGEEEじゃろ?」


 ドウラがそう告げ天へととんでもないブレスを吐き出し、金色の魔力の雨を降らせた。すると、敵軍はその圧倒的な力故か、それとも、戦争を終わらせられることへの安堵かゆっくりと膝をついていく。


 正確な事は分からない。だけど、多くの命が救われた。

 原作では、チートボカーンで失われた命も沢山守られた。

 チートなしで、トレスなしで、より良い結果を生み出せたんじゃないだろうか。


「けほ……やっば、ずげぇえわ……お前ら……! けほ」

「!!!! ゴメス!」


 そして、俺は口から血を吐きながら倒れた。














 そして、治った。

 すぐに治った。

 みんなのお陰ですぐ治った。


「やっぱ、こいつらSUGEEEわ」


 俺達は完全勝利したんだ。戦争にも原作にも。

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