第45話 その設定、ZARUUU!
現在、絶賛トレス劇場ロングラン上演中!
「なんで! なんで分かってくれないんだ!?」
おまいう~。
病的無自覚チートによるこのセリフはマジでこっちの台詞だ。
なんで分かってくれないんだ!?
だが、もう仕方ない。こんなヤバい人間を作り上げたこの世界の作者が悪い。
まあ、それもコイツなんだけど。
相手の技をなんでもコピー出来て今スキルが9万9999あって、魔力が人の何百倍もあって今100万あって、空間を切り取って張り付けることで移動も出来て自分の身体なら再生出来て自分の分身を作ることが出来て、SUGEEE最強で、人の話を聞かなくて、自分の力を理解してなくて、人を助ければみんな従うようになって特に女性は身も心も捧げるようになっていて、迫られたら全員に身体を許す。それがトレス。
思い通りにならないとざまぁ系主人公ムーブ劇場を開幕させる。それがトレス。
マジでデッカいクソガキ大怪獣である。
前世で我儘放題していた社長の息子を思い出す。
アイツがはずコピ書いたんじゃないだろうか。書いたんじゃないか。書いた気がしてきた!
次、死にかけたら女神さまに聞いてみよう。
だが、そうなれば、より俺のやるべき事は明確。
劇場の一部熱狂的な観客以外は冷めているにもかかわらず熱演を繰り広げているトレスをおいといて、ドウラと目配せし、ディアナを呼び出す。
「……なんですか? わたしたちは」
「ディアナ。声を潜め、ゴメスの話をよく聞け」
ドウラの言葉にいぶかし気な表情を浮かべるディアナ。元々原作では姉にコンプレックスを抱いて、見返してやろうとギティル側につくキャラだ。複雑な感情はあれど姉には逆らえないっぽい。そんなディアナに小さな声で告げる。
「……こちらの軍にスパイがいる」
「……! なんですって。それは本当?」
「本当だ」
嘘である。
いや、戦争だから実際いてもおかしくはない。ないのだが、原作では、そういう複雑な戦争模様なんて描かれていなかったから多分いないのである。
「そして、俺はそのスパイがどこの手の者か明らかにした」
嘘である。
「流石ゴメス物知りね」
そして、ゴメスである。
はずコピの〇ムチャ、解説係ゴメスさんはすけべで弱くて滅茶苦茶信頼があるわけではないのに、解説だけはみんなに秒で信じられる。それがゴメスなのである。
「……ちょっと待って。どこの手の者って、ギティルのおじさまの所じゃないの?」
「ギティルを唆し、この戦争を始めさせたSUGEEE悪い奴がいるんだよ」
「なんですって!?」
吾輩はゴメスである。
何故かゴメスのいう事は割とみんな信じてくれるのである。はずコピヤムチ〇効果か、女神さまの【神言】効果かあるいはその両方か知らないが、トレスの無双を邪魔しなければ、みんなゴメスのいう事を大体信じてくれるのである。
「そ、それは一体……?」
「トレスを追放した、トレスの父親ゲス=デスケドナニカと弟のクズ=デスケドナニカだ」
「なんですって!? ゲス=デスケドナニカ!? クズ=デスケドナニカ!?」
酷い名前である。むしろなんでトレスだけ違うのって感じである。これがご都合世界である。
だが、今はこのご都合世界にあえて乗る。
「奴らは、竜の一族の血を求めていて、戦争を起こすことで竜の血を手に入れようとしている。そして、その偶然の中で、トレスが生きていることを発見し、トレスも合わせて殺してしまおうと画策している」
「なんですって!?」
こいつ「なんですって!?」しか言わないのである。これもチャラAI遺伝子のせいだろうか。ボキャブラリが極端に減っているのである。
トレスが追放ざまぁ追放ざまぁと言っていたが、元々この作品は、無自覚チート追放ざまぁ俺TUEEE作品なのである。ならば、その追放ざまぁをさせてやるのである。
「ディアナ……お前もトレスの過去は知っているはずだ。トレスに過去との決着を付けさせてやるべきだとは思わないか?」
「確かに……」
原作であれば、竜達をチートぼかーんからの、毒親ぼかーんだが、それが竜とばして早まるだけ。
「ディアナ。残念ながら今俺たちの言葉はトレスには届かない。だが、お前なら、お前の言葉ならトレスに届くはずだ」
「確かに……」
トレスはチャラAI遺伝子の塊。俺の覚醒後、女神さまから与えられた【神言】で何度も何度も何度も説明をしても『オレは外れコピーだから』と聞いてくれなかった。だが、トレス以外の人間なら【神言】でも心を動かせる。そして、現ヒロイン候補のディアナが言うのであればトレスも無下には出来ないはずなのである。
「それに真の黒幕を倒し、ギティルに真実を伝えれば、戦争も終わらせることが出来る」
「確かに……」
こいつ「確かに……」しか言わなくなったのである。恐るべし雑世界生成チャラAI遺伝子なのである。
だが、ここまで理を積み重ねてきた。矛盾はないはず。
トレスにとっては、真の黒幕を倒し追放ざまぁが出来てトレスAGEになるチャンス。
ディアナにとっても竜族同士の戦争が早く終わり。竜の血が奪われないのはよいことのはずであり、トレスにお願いしていい案件である。
何もトレスの邪魔をしてない。
「今、俺達が揉めているのは好都合だ。敵にそのまま揉めていると思わせておいて、油断させよう。揉めたふりをしたまま、トレスを連れて出ていけ。そして、ゲス=デスケドナニカとクズ=デスケドナニカを……! トレスのために、そう、トレスのために、トレスが過去に決着をつけるために、トレスのために、行ってくれディアナ……!」
「ゴメス……貴方、その為に、こんな状況に……? すべてはトレスのために?」
俺は無言でうなずく。
嘘である。
全てはトレスの為ではない。
むしろ、トレスを遠ざけるためである。
だが、この状況を作ったのは意図的。
この世界はトレスに都合の良い世界。
そして……
設定ザルの世界だ!
基本的にトレスAGEを見せるためだけの物語なので、他の設定がとんでもなく甘いし、雑だ。まあ、名前の付け方からしてもよく分かる。
なので、そこを突き、利用するのである!
「行ってくれ、ディアナ。戦争は俺達でなんとかする! トレスの為に!」
「……分かったわ!」
ディアナが駆け出し、大劇場大熱演トレスに抱き着き耳元で囁いている。
それを聞いたトレスは目を見開き、うっすら涙を浮かべ、俺の方を見て微笑んだ。
そして、
「わかったよ! もういい! おれやでぃあなたちはでていく! こんなところにいられないよ!」
急に大根演技になったのである。そんなトレスがトレスの行動には疑問を持たない全肯定トレスガールズを引き連れて俺の方に歩いてくる。そして、耳元で囁く。
「ありがとう、ゴメス」
うるせえ、本当にお前の為じゃねえよ。俺の為だ、である。
だが、心配する振りをするのである。
「大丈夫か?」
「外れスキルだけど、絶対にアイツらは倒す」
うるせえ、本当にお前それもうやめろ。なんでまだ外れスキルだと思ってんのである。
だが、スルーするのである。
「わかった。任せた」
トレス去っていくのである。
これで、余計な被害とストレスを回避できたのである。
ノン素トレスである。
キアラ達と頷き合う。
「ゴメス、あれでよかったの?」
「ああ、上出来だ。名女優だったぜ。キアラ」
「えへへ」
かわいい。これを挿絵にしてくれ金髪ツインテいじりいじり照れキアラである。
「これでようやく本当の戦いに集中できますね」
「そうだな、ヒナ。いつも苦労かけてすまねえな。ありがとう」
「ふふ、そうやってちゃんと労っていただけるから、まだまだ頑張れますよ」
かわいい。これも挿絵にしてくれ両手ぐーふんす気合い入れヒナである。
「もう少しトレス達には大人になって欲しいよねえ」
「シロはこんなに周りが見えているレディーなのになあ」
「にしし……やっぱりそう? そう?」
かわいい。いくらだいくら出せば挿絵を増やしてくれるんだ上目遣いシロである。
吾輩はゴメスである。
原作の原型はもうない。
俺達はこれからとてつもなく大きなものと戦う。
それは世界そのもの。
トレスの為のご都合主義世界そのものだ。
敵はとんでもなく理不尽で強い。
だが、とんでもなく穴も多い。
その穴をついて、世界を変える。
「そのために……こっちの戦いを終わらせようかね」
「ああ……そうじゃのう!」
ずっと無言を貫いてくれていた隣のドウラが魔力をみなぎらせ、遠くを見つめる。
なんとかあの竜の軍勢が来る前に、間に合ってよかった。
これから俺たちの最初の戦いが始まる。トレス抜きの竜の戦争編。
新しい、誰も見た事がない、原作とは違う戦いが、始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます