俺TUEEE系主人公に、お前SUGEEEっていう役のポジションおじさんなんだけど、みんなを褒めてたら主人公がモテなくなってなんかごめん

第44話 その穴、UMEEE！

　岩竜王ギティル率いる竜の軍勢は圧倒的にすごかった。

　すごい数ですごい武装の竜の軍団に対してみんなが絶望し始める。

「も、もう駄目……アタシ達じゃあこの数の武装した竜を倒すなんて」

「ええ……いくらトレスさんが強くてもこの数は……」

「そんな……ようやくトレスと結ばれたのに……」

「み、みんな……すまぬ……竜の戦争に巻き込んでしまって……トレス、すまぬ……」

　このままじゃあ、みんなが死んでしまう！　大切なみんなが！

「くそお！　諦めてたまるか！　オレはみんなの為に、みんなの為に勝つんだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！」

　その時、オレの身体が急に光り始める。

「これは……キアラやヒナの時と同じ……！　これなら、うおおおおおおおおおお！」

　オレは、頭の中に思い浮かんだ方法を実行する。

「できた！」

　それは……オレを増やす！

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ！？　ト、トレスがいっぱいに！？　そうか！　【アンドゥ】のスキルなら身体を元に戻すことが出来る！　だから、髪を抜いてその髪に【アンドゥ】を使って逆に肉体を作る！　そして、そこに【魂の秘法】と【コピー】スキルでコピーしたトレスの魂を入れて、大量のコピートレスを作り出したってわけか！」

「その通りだ！」

「トレスSUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE！」

　まあ、この方法は自分にしか使えないから、他人に使うことは出来ない。そんなことが出来たら世界がめちゃくちゃになるからな。そんなの常識だよね！

「トレス様！」

　そんなことを考えていたらギティル軍から見覚えのある女の子が！　アレは！

「ディアナ！　妹とはいえ、お主は敵であろう！　何をしに来た！」

　え、えええええええええええええええええ！？

　ディアナはドウラの妹だったのか！？　道理で似てると思った。

「ドウラお姉さま……この人、トレス様は私の命の恩人なのです。ああ……あの時、傷つき弱っていた私が魔物に襲われかけていてそれを助けてくれたかっこいい貴方の事をずっと想い続けていました」

「トレス、お前はまた人助けしたのかよ！」

「い、いや、あれはただのゴブリンだよ」

　うん、あれはただのゴブリンだった。多少大きかったけど、この辺のゴブリンはあのくらいのサイズなんだろう。別にそんなに強くなかったし。

「まあ！？　アレをただのゴブリンと！？　ふふふ、やはり、トレス様はかっこいいですわ！」

　そう言ってディアナがオレに抱き着いてくる。う……やわらかくて大きい胸がおしつけられる。

「と、とにかく今は、戦争を終わらせることが先だ！」

「まあ、トレス様は真面目ですね！　そういうところもかっこいい！」

　オレはずっとやわらかくておおきい胸を押し付けてくるディアナに困る。だって、みんながじとーっとオレの方見てくるんだもん！

「トレス……やっぱりモテるわね……確かにかっこいいけど」

「トレスさん……わたしの胸も大きいですよ。まあ、確かにトレスさんはステキですし」

「トレス……この前あんなにボクとイチャイチャしたのに……まあ、トレスはやさしいし」

「ぬぬぬ……妹にまで先を越されるわけには……強いトレスはわしのものじゃ！」

　こ、これは今夜が大変そうだ……！　みんな寝かせてくれないんだもんなあ！

「貴様ら、何をイチャイチャしている！　こうなったらお前ら全員ぐちゃぐちゃにしてやる！」

「みんなをぐちゃぐちゃにする、だと……！」

　聞き捨てならない事をギティルは言った。オレはそれを聞き逃さなかった。

　みんなをぐちゃぐちゃにするなんて絶対に許せない！

「そんなことはさせない！」

「はっはっは！　多少増えたところで外れスキルに何が出来る！」

「あははは！　ギティルのおじさま！　トレス様はすごいんですよ！」

「何がすごいんだ！　ぎゃはっはっは！　皆殺しだあ！」

「さあ、トレス様！」

「わ、わかった。えい」

　ぼかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん！！！！！！

「竜の軍勢が全滅うう！？　トレスＳＵＧＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥ！　ＳＵＧＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥ！　ＳＵＧＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥＥ！」

　ゴメス驚きすぎじゃないかな？　ああ、そうか。みんな疲れているから、そう見えているんだな。

「ぐ、ぐはあ……なんだこの力はすごすぎるではないか……くそう……あの貴族たちめ……外れスキル持ちのアイツを殺せと命じた貴族達め……弱いなどと嘘を吐いたな……くそう」

　外れスキル持ちのオレを殺せと命じた貴族たち？

「ま、まさか……父上たちが！？　そうだ！　この前コピーした【集音】のスキルで！」

　耳を澄ませると確かに聞こえてきた。父上たちの声だ。

『げすすすすすす！　今度こそ完全にトレスは死んだ！　ゲス＝デスケドナニカ家にはトレスなどと言う下衆はいなかったのだ！』

『そうですよね！　父上！　この名門の長男は、クズ＝デスケドナニカなのですから、あんなクズは長男にふさわしくない！　くくく、くずずずずずず！』

　あの二人……そうか……この戦争の裏で糸を引いていたのは、アイツらか。

　オレはこの前コピーした【飛翔】で、アイツらの所へ向かう！

「決着をつけてやる……！　外れスキルでも戦えるってところを見せてやるぜ！」

　以上、原作である。

　もう、ツッコまぬ。しんどい。

　原作もしんどいけど、現状もしんどい。

「ディアナを傷つけるなんて、許せない！」

「ああ、やさしいトレス様！　すごいやさしいです！　みんなもそう思うわよね！」

「「「「「「「「「「「「「はい！」」」」」」」」」」」」」

「ありがとう、みんな！　みんなはやさしいなあ」

「「「「「「「「「「「「「トレス様の方がやさしいです！」」」」」」」」」」」

　しんどい。

　全肯定トレスガールズと全肯定トレスガールズ全肯定トレス。

　此処にきてダルさが限界突破している。

　竜の戦争編が始まる前の各種ストーリーも本当にダルかった。

　一つ目は美少女コンテスト編。孤児院で人気者になったシロが子どもたちに応援されてとある街の美少女コンテストに出場。

　だが、美少女を狙う貴族達が大暴れ。トレスぼかーん。貴族たちをぶっとばす。ぶっ壊れたコンテスト会場はトレスがもとに戻したからめでたしめでたし。

　というのが原作なんだが。現実では裏で子どもたちが大きい音や血まみれの貴族を見たことによって心に傷を負ってしまった。それをシロが少しずつ記憶に刻まれた恐怖を盗みながら、子どもたちを慰め励まし褒めて心のケアに努めた。

　そして、そんなトレスのフォローをしてくれたシロのフォローを俺がした。

　シロに頼まれて、毎日毎日褒めながらシロの頭を撫で続けた。

「にひひ……ありがと、ゴメス。ゴメスのかけてくれる言葉は、やさしいね」

　二つ目は山賊編。山賊団が女を攫い、村には男たちだけ。そんな山賊団をトレスがぼかーん。めでたしめでたし。

　というのが原作なんだが。チャラＡＩが植え付けたトレス好き好き遺伝子により女性陣が全員トレスに惚れる。現実では裏で攫われてた村の男たち、嫉妬と絶望。

　それをヒナが元気づけ、色々と手配をし、他の村から女性を呼び寄せたりし、それぞれの良いところを褒めながら紹介し、カップルを成立させまくる。

　そして、そんなトレスのフォローをしてくれたヒナのフォローを俺がした。

　ヒナに頼まれて、カップル達に勧める為のデートの練習をさせられ続けた。

「うふふ……ゴメスさん、ありがとうございます。気配りが素敵ですね」

　三つ目は魔物狩り編。大量発生した魔物をトレスがぼかーん。めでたしめでたし。

　というのが原作なんだが。現実では裏で『もうトレス1人いればいいじゃん』と冒険者たちが少しずつやる気を失い始めていた。それをキアラが一人一人と向き合い励まし褒めて前を向くように促していた。

　そして、そんなトレスのフォローをしてくれたキアラのフォローを俺がした。

　キアラに頼まれて、キアラが素敵だなと思った瞬間に『キアラがいてくれて良かった』と逐一言うようにした。

「へ、へへへ……ゴメス、ゴメス、アタシもゴメスがいてくれてよかった……へへ」

　以上。これらが大きなトレスフォローの結果である。

　みんなのフォローはダルくはない。ダルくはないが、しんどい！

　心臓によくない！　みんなかわいいし美人だし！　心がもたない！

　これ以上、何かさせられたらゴメスおかしくなっちゃう！

　だから、トレス！　今、再び竜の戦争前にダルい事言い始めて追放ざまぁに路線変更しようとしているトレスよ！　話をつづけるなつづけるな！

「わかったよ！　みんながオレ達を認めてくれないなら！　オレ達は出て……！」

「トレスさんたちは自分の事ばかり……周りの人の声に耳を傾けてください。勿論、昔の私達もよくなかったことは反省しています」

「トレス……もうちょっとだけ大人になろ？　あんまりこどもみたいなこと言っちゃだめだよ」

「あなたの取り巻きみたいに強ければ何でも認めるわけじゃないのよ、トレス？」

「だ、だけどみなさんだって、ゴメスさんが言えばなんでも認めるんでしょう！？」

「ディアナ、なんでもは認めないわよ、ゴメスの為にならないし」

「ゴメスさんも、よくないことは褒めてくれませんよ。だから、よくないことはしませんし、褒められたいからよいことをするんです」

「赤ちゃんじゃないんだから、なんでもかんでもすごいすごいはよくないよ？」

　正論タコ殴りぃ……。とても丁寧にゆっくりと目を見て正論パンチを繰り出す３人に何も反撃できないトレスと取り巻きガールズ。まあ、言ってること要約すると『トレス強いから好き勝手させろ。他は知らん』だもんな。ほぼ大怪獣だもんな。敵を倒すから壊れた街ゴチャゴチャいうな、だろ。

　だけどな、このヒロインズ、無茶苦茶成長してんのよ？　怪獣レベルの強さはあるのよ。その上、ちゃんと周りが見えるし、人の話が聞けるのよ。どちらを応援したい？　後者だろ。

　チャラAIによって余程のチートモンスターが生み出されない限り、竜の戦争編でトレスがいない戦闘力の穴は埋められる。むしろ、後の事を考えると今のトレスは社会的にめっちゃ迷惑な穴だ。その穴で被害者が出たら、その穴埋めにヒロインズが頑張って、ヒロインズの頑張りに報いる心の穴埋めに俺が頑張るのよ……。

「ね、ゴメス」

「ゴメスさん」

「ゴメス……」

　トレスと取り巻きガールズを止めてくれた3人が振り返って俺を見てほほ笑む。

　……俺は、黙って微笑んで頷く。

　ゴメスおかしくなっちゃう！

　早くこの戦いを終わらせなきゃ！