第43話 そういうこと、JANEEE!

 はーい、こちら現場のゴメスでーす。わたしは今、原作ドウラ好感度アップイベント、竜の戦争開始直前の戦場に来ていまーす。

 現場は騒然としています。なんといっても、原作では、ドウラも加わった竜族として人の世界に介入せずに生き続けようという穏健派、対、愚かな人間は支配すべきだと主張するドウラの叔父ギティルが率いる過激派の構図の中で、過激派にドウラの妹、ディアナが加わるという衝撃の事態が起きるんです。


 が、起きません!


 トレスが、キングデーモン編で先にディアナと致しちゃったので、ディアナはドウラ派、というより、トレス派なので、ギティルにつかず、それにより竜の里の若い奴らがついてこず、圧倒的に数的不利で一瞬で決着がつきそうです! 現場からは以上です! 原作からは異常です!


 なあああああんでだよぉおおおおおおおおおおおお!


 とは言わない。


 そりゃそうだ。それだけのことはしているし、当然の結果。

 これでなんでだよとツッコむのはもうただツッコみたいおじさんだ。

 なんでだよって叫んでれば盛り上がるだろおじさんだ。


 俺は違う。

 なんにも気づこうとしないトレスとも違う、わかんない振りをして原作通りに進めようとしたこの前までのゴメスとも違う。

 俺はもう原作をぶっ壊すことに決めた。


 今から始まる【竜の戦争】編は、穏健派と過激派の戦争から始まり、その裏で暗躍する魔族と人間。両軍がボロボロになったところで介入してくる奴らをトレスがチートぼかーんして勝利いえー終わり。

 竜の軍勢も魔族も人間もみんなぼかーん出来るトレスチートアゲーなお話だ。


 トレスも今か今かと待ち構えている。

 竜族と人族のオンナ達を引き連れて。


 はい。


 トレスがまた致しました。


 一回記憶を消してトレスとして俺TUEEE人生ウケ大草原を選んだチャラ神の世界強制力、これを仮にチャラAIと呼ぼう。チャラAIはとうとうトレスAGEをえっちの数勝負に持ち込み始めた。


 まず、ヒナ編で旅に出たトレスがヒナを助ける旅に出たにも関わらず盛り上がったディアナと致しましたよね。ディアナと致したトレスは能力AGE、新たなチートスキルにも目覚めましよね。

 そして、原作ヒロインズもそうなのだがトレスと致した女性陣もAGE。なので、本作で致したディアナもAGE。能力もAGE。なんか色々クオリティAGE~なディアナを見て竜族の娘達『ウチらもちょう強いトレスっちとしたーい』とテンションAGE~、迫られたトレス致す~。

 全員AGE。そして、全員トレスっちLOVE。


 話は終わらない。

 更に事態はチャラAIとトレスっちによって泥沼化。


 竜族の娘たちと致しまくってAGEまくったトレスっち。

 俺達は誰も聞いていないのに、恥ずかしそうな顔で、そこそこデカい声で呟く。


「なんかオレがその、えっちなことしてあげたらレベルを上げてあげられるらしいんだよね」


 突如そんなことを誰かの耳に届くボリュームで言った挙句「あ……」とか言って慌てて口をふさぐトレスっち。

 そういう赤裸々なことを普通に人前でしゃべるし声デケーし、「あ……」とか言って気づくならもっと考えて喋ってほしいし、えっちなことして『あげたら』レベルを上げて『あげられる』とかクソ上から目線なのもスゲーイライラするしなのだが、それで女の子たちがトレスに殺到するのがこの世界。


 毎夜、街の女性陣がトレスに夜這いをかけていきトレスも何も対策せず「アッー!!」と日替わりで致し、徐々に複数人で致しまくるヤバい宴が開催され始め、宿の風紀は乱れに乱れた。

 トレス曰くレベルを上げてあげた人族と竜族の女性によるトレス親衛隊が生まれた。


 怖すぎる。


 チャラAIの考え方が怖すぎる。もう蛮族の考え方じゃあん……。『どれだけ女を侍らせられるかが強さの証なのだよ……』って言ってるようなもんだ。

 母親をアクセサリーかなんかと勘違いしていた前世の父親にそっくり。

 いっぱいオンナにモテて力をAGEてあげられる俺TUEEEということか。

 原作か、チャラ神か、チャラAIか何のせいなのか分からない。


 だけど、


「よし! みんな! みんなの力で奴らを倒そう!」


 いずれにせよ腹が立つ。

 だから、


「オレ達正義は必ず勝つんだか……「ギティルゥウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」……ゴ、ゴメス?」


 俺は叫ぶ。


「降参しろぉおお! よく考えろ! お前がしたいのは戦争か!? そうじゃないだろ! お前が本当にしたかったのは、竜の尊厳を奪われないようにすることだろ! お前は騙されている! 竜に言う事を聞かせて気持ち良くなっている連中がいることに気づけ! ギティルウウウ!」

「ゴメス……何を言ってるんだ? アイツらは、ドウラ達の竜の里を裏切ったんだぞ」


 知っている。そんな事俺は前世から知っている。そして、その裏で暗躍している奴らがいることも知っている。信念もって戦っている連中の裏で好き勝手操る奴らがいるのが俺はもう我慢ならんのじゃい!


「人族の男よ……お前の言いたい事も分かる……だが、戦争はそう簡単なものではないのだ……ワシらはもう止まることが出来ない」


 知っている。本当の戦争はただただぼかーんしてるだけじゃない。思惑が入り交じり複雑な話だと知っている。ギティルさんは真っ当な竜族の男だ。ちゃんと会話には応じて、宣戦布告し、一度去っていってくれる。


「く……! やはり……! みんな、いく「ちょっと黙ってて、トレス」……キアラ?」


 もう知っている。俺の仲間は、キアラは、ヒナは、シロは、トレスのおかしさを、もう知っている。知って苛立ち悔しがり彼女たちは自分の力で努力して強くなった。


「キアラ、何を言ってるんだ。オレが……」

「『オレが……』何? 『外れスキルだけど、少しでも力になる』って? もし仮に本当に外れスキルで微力なら戦場に出ない方がいいわ。アタシもみんなも無駄な人死には出したくない。仮にアンタが弱いのなら死なせたくはないし……もし万が一アンタが本当はとんでもなく強くて人を一瞬で殺せるにも関わらず自分の力に気づかずに悪戯に振るうならその力は危険すぎるわ。どうしようもなくなった時に使えばいい」


 キアラがとてつもなく真っ当な事を言い、自身の力を解放し始める。最近キアラはトレスに稽古を頼み始めた。何度も挑むがやはりチートトレスのスキルには敵わずボロ負けにされる。それでも、トレスは『今日のキアラは調子が悪そうだった』で済ませてしまう。

 何度も何度もトレスに挑み、負け続け理不尽な強さに悔し涙を流しそれでも諦めずキアラは強くなった。


「だ、だけど……オレもみんなの力に「では、トレスさん。貴方は自分の力がどれくらいだと思っていますか? それに合わせて私が適切に配置します。決して貴方の意見をないがしろにしません」……ヒナ」


 そして、それはキアラだけじゃない。


 ヒナは、古今東西ありとあらゆる書物を勉強し始め、育成から戦術・戦略、はたまた経済や教育に関してなどとにかくみんなを強くするためにありとあらゆることを学び実践している。

 今回の竜の戦争に関しても冒険者ギルドがぜひ力にならせてくれとヒナに冒険者達の部隊を送ってくれた。全員、訓練されており、そして、しっかりと人の指示を聞きその上で自分で判断も出来る優秀な人間たちだ。


「オ、オレは……外れスキルだし弱いかもしれない……! けど、彼女たちが!」

「そうよ! 私達が守るわ! それに、トレスは、本当は強いのよ!」

「……トレスさん、皆さん、この話は何度も何度も何度もしています。貴方達の話は矛盾しています。トレスさんは自分を弱いと言い、貴方達はトレスさんを強いと言う。……トレスさん、もし彼女たちの言う事が本当なら貴方は強いのです。どう思われますか?」

「……ああ、そうか! 強いよ!」

「……今、何と比べて強いと思われましたか?」

「え?」

「言葉を省略せずに伝えましょう、トレスさんはそう言う事が多いので」

「あ、ああ……この前倒したゴブリンよりは」

「アレは、冒険者ギルドでも出会ったら逃げて報告しろと言われていたキングゴブリンです。そして、私もギルドのひともちゃんと説明をしましたが、貴方は、『ヒナもギルドの人も大げさだな。あんな弱いのに、勘違いしてるのかもしれないなあ』と貴方の周りにいる女性にこぼしていたそうですね……トレスさん、私達は貴方が強いと思っています。だけど、私達の言っている事を聞いてもらえない、信じてもらえない事で、貴方への信頼は、貴方の周りの方以外はほぼゼロです。そして、そんな貴方を庇う彼女達もまた同じです。これ以上理にかなわない我が儘を言うようであればギルド法で貴方達を拘束します」


 ヒナの言葉で、トレス達を囲む冒険者達。

 トレスとトレスによってAGEられた女性陣にかかればいくらヒナの鍛えた冒険者達も理不尽にやられてしまうだろう。だが、それは国や街を裏切ることと同じ。しかも、しっかりとしたルールに基づいてだ。今はヒナは国の重要人物達からも信頼を寄せられ同時に国全体をよくしてくれたことで正に聖女としてあがめられている。そんな聖女のしかもしっかりとした理論立った話に逆らえば、反感を買うのは必須。


 人々から称賛されなくなることは、トレスの、チャラAIの望みではない。

 大人しくなるトレス。だが、取り巻き娘の中でもリーダー格であるディアナが食い下がる。


「トレス様の人を救いたいという思いを貴方達は踏みにじるのね! そうやってトレス様をいじめて何が楽し「いい加減さ、気づいてくれないかな。そうやって子供みたいに都合よく解釈してこっちの会話を無視して言いたい事言って迷惑をかけちゃってることに」……シロさん」


 シロが悲しそうな目でディアナを見ている。

 シロは大分大人になった。身体こそまだ小さいままだが、人々の為に出来ることをと魔物対策の色々な罠を開発し、弱い人を守ることが出来る方法をいくつも考えた。

 そして、子供たちが悲しい目に遭わないように様々な慈善活動を行い、子供たちの成長につながる活動をしながら、その子供たちを守る為にと、キアラと同じくトレスに挑み何度も敗北を味わいながら日々成長している。


「シロの言う通りじゃ。今回の戦争の意味も戦う事の怖さも知らぬ者たちは下がっておれ」

「ドウラ姉さま……!」


 今回の戦争の最高責任者であるドウラが告げると、流石に何も言えないのかディアナも口をつぐむ。

 ドウラも徐々にチャラAIの影響下から離れていっているようだ。なんだったらキャルも今のトレスガールズの様子に引いている。

 確実に物語は変わり始めている。これなら……


「ディアナはキミの為を思って言ったんだぞ! ドウラ! もういい! 君達はオレたちの話なんて聞いてくれないんだ! わかった、みんなオレ達を貶めようとグルなんだな! なら、オレ達はオレ達の信じる道を行く! だから、追放でもなんでもすればいい!」


 もおおおおおおおおおおおおおお!

 追放ざまぁに変更したいわけじゃないんですけどぉおおおお!?

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