第42話 頑張、っTEEE!
努力が全て報われる世界。
人より努力すれば誰もが勝てる世界。
人より努力すれば誰もが愛される世界。
人より努力すれば誰もが最強になれる世界。
そんなものはない。
そんなことは知っている。
だけど、
だから、
「ゴメス!!!」
瑞々しく幼さ残るシロの声。俺の方を向いて真っ赤にはらした目で笑ってる。
「見ててね」
「おお! やってやれい!」
と、言いつつ俺が先に駆け出す。いつだって俺が先駆け。身体は完治しているわけではないが3人のお陰で動けるようにはなってる。なら、俺は俺の役割を果たすまで!
「お、おっさんが一人で突っ込んでくるぞ!」
「くそ! おっさんの癖にすばしっこいな! 当たらねえ!」
おっさんおっさんうるせえなあ! おっさんだよ! 見りゃわかるだろ!
態勢を低くして、這いずる様にほぼ四本足で走るG走法。ゴメスのGな。
俺はかっけえ主人公じゃないので、かっこいい動きをする必要がない。なので、シャカシャカ動いて逃げ回る。しぶといGを舐めるなよ! ゴメスのGな!
盗賊団に向かって駆けていく途中で、地面に膝をつきこちらを見て笑っているドウラが。十人以上の魔法銃やら魔法兵器をもった連中の足止めをしてくれてたんだ。かっこよすぎるだろ。
「本当にSUGEEEよ、流石最強の竜娘だ!」
「ふん、褒めても今はもう何も出んぞ。だから……任せた。おぬしらなら出来るじゃろ」
「おおお!」
パシィイ!
すれ違いざま俺の出した手には反応せず、俺のツルツル頭を叩くドウラ。いい音がした。
ハイタッチと言えばハイタッチだけど!
そんなツルツル頭のゴメスさん、ツルツル頭を輝かせながら、盗賊団の中に突っ込んでいく。魔法銃や魔法兵器の類いは、しっかり足を固定させて撃たなきゃ反動で吹っ飛ぶので盗賊団の武器である速さが殺されている。逃げずにガチンコ殴り合いパワータイプのドウラには通じるが、俺みたいな逃げ回るGタイプには完全に悪手。
ちなみに、これは原作でトレスが言ってた。原作web版で、
『高速で移動出来て、竜族をぼこぼこに出来る魔法銃を撃つことがほぼ無限に出来るなら(魔力が途切れる描写がなかったので無限もしくは普通の人間よりはるかに多いと思われる)武器の横流しをする盗賊団なんてやらずに傭兵団でも作って無双しろよwww強杉だろ』
と感想を書かれた時に、
『魔法銃は、ちゃんとした銃なのでしっかり構えないと撃てないんですよ。銃の基本中の基本だと思ってたから、書かなくていいかと思ったんですが、そのレベルを理解できない読者がいることを理解できてなかったですw』
と、強火レスしていたので覚えてる。
絶対後出しだと思ったけど、今はありがとう作者! お陰で盗賊団が動きながら攻撃できない!
「うひょおおおおおおおお! こいつは、ブラスミス製の魔法銃だ! 連射も出来て、魔力使用量も100分の1に抑えられるとんでもない銃だぜ! しっかり固定しないと撃てないらしいが、それでもSUGEEE」
ちなみにこれも作者が追加で、
『魔法銃は特殊な銃なので、銃弾の装填はいらないし、連射できます。実はこれも後で明らかになりますがトレスが作ったものです』
と、感想で書いていた。なお、このあと原作ではトレスがどう銃にかかわっていたかは描かれていなかった。ただ、トレスが途中から銃を使い始め、空中で何度もぶっぱなしていた。
前世の俺は気にせず読んでたな。今だったらめっちゃ気になるわ。ズルすぎるだろ!
「こっちのは魔法兵器魔導ガドリングじゃねえか! これ一つでオーガの里を滅ぼしたって聞いたことがあるぜ! 重たい上に小回りが利かないらしいが、魔力使用量も100分の1に抑えられてる上に、相手をハチの巣にするSUGEEE武器だなあ!」
俺は必死に攻撃から逃げ回りながら相手の凄さを解説していく。俺のクソデカ解説ボイスが耳障りなのか、誰もが顔を顰めて俺を見ている。いいぞ、もっと見れ! 見れ! 見れ!
時折入れる俺の攻撃は一切効かない。全然ダメージを与えられない事で盗賊団の強さが強調される。それが俺の役割、相手の強さを見せつけて、その後に倒す主人公の強さを見せるためだけの役割。
「原作では、なぁあああ!」
解説をすることで弱点や攻略法を伝える。逃げ回って声をあげてこっちの注意を向けさせる。倒すための俺の役割。
「ゴメス、ありがと」
幼さ残る声が風のように白い光と共に通り過ぎていく。
そして、光が通り過ぎると……
「あれ? おれの銃が、ない……?」
「なんか軽い……? おれのポーションどこいった?」
「おい! 誰だ! おれの盗ったの!」
盗賊団が手に持っていたはずの銃や、ポーションベルトに差していたポーション、懐に隠し持っていた暗器などがなくなり自分が軽くなっていることに気づく。
そして、それらがとある場所に集まっていることに気づく。
「にひひー、いただきー☆」
悪戯っ子のように笑う半人半魔のシロが両手に持った魔法銃やポーションをマジックバッグに。【盗む】能力の本領発揮だな。
「流石シロ、SUGEEE!」
「にひ、にっひっひ! でしょう! ボク、SUGEEEでしょう!?」
笑いながら再び盗賊の集団に向かって駆け出すシロ。半分魔力体の為、盗賊団もとらえきれずスルスルと光はすりぬけ、ツルツルの俺のところへ。
え? 俺の方にくるんですけど!?
「ゴメスが注意を惹きつけてくれたおかげだよ。ありがと」
そう耳元で囁きすり抜けていくシロ。気づけば俺の手には、ポーションと……誰かのカツラが。
「ああー! おれのカツラぁああああ!」
盗賊団の一人が叫んで指さしている。あ、これ君の? かなりの焼け野原が彼の頭に広がっている。
「っていうか、いらねえよ! 俺のこのツルツル頭はむしろチャームポイントだ!」
「にひひー、たしかにー」
くそう、かわいい。細すぎるくらいの美脚を見せつけ走り抜けていくシロの振り返りざま笑顔は100万ゴールド。俺は、そんなかわいいシロ様に心の中で拝みながらカツラをぶん投げる。
「ああ! おれのカツラ!」
焼け野原さんがカツラを追いかけて一直線に駆けていく。そのせいで人とぶつかり混乱が起き始める。そりゃそうだ。今まであまり気にしなかったけど集団で来たら隊列組むなり、散らばるなりしないと絶対ぶつかったりする。そうして生まれた混乱を見計らい俺はポーションを口にする。まだ、いける。
「おいおいぃいい、あんま調子に乗るんじゃねえぞぉお」
百足蜘蛛頭ボスが叫ぶ。いたんだ。リーダーの癖に指示とか出さないからいなくなったのかと思ってた。いやらしい笑いを浮かべながらゆっくりとこっちに近づいてくる。いや、ちんたらすんな。あと、さっきまでブチギレてたよね?
「ボロボロのてめえらに何が出来るんだよぉお」
確かにボロボロだった。俺は腹に穴が空いて火傷だらけ、ツルツルなのにボロボロ。それを治療する為に、キアラとヒナは魔力切れ、シロとドウラは身体のダメージがかなりあった。
魔力が切れれば魔法は使えない。ダメージが深ければ動けない。
理由があれば結果は明確だ。
だが、その理由が変われば、結果は変わる。
「もう今はボロボロじゃねえんだよ! ぼけえええ!」
俺はボスに負けないくらいのいやらしい笑みをぶちかまし、指をさす。
シロは体力や魔力を【盗ん】だ。キアラとヒナはシロが盗んだ魔力回復薬を貰って回復、ドウラもポーションで傷をいやした。
理由があれば結果は明確だ。
「やっちまえ! お前ら!」
「ゴメス! ちゃんと見てなさいよ!」
「ああ、お前はSUGEEE! キアラはSUGEEEぞ!」
「ふふん! 当然よ!」
キアラが、聖魔法の光の針、氷の針、炎の針、雷の針……とにかく大量の針を生み出していく。あのやり方なら魔力消費量が100分の1かは知らないが相当抑えられるはず。職人のような繊細な技術は間違いなくアイツの努力が生み出した美しい芸術品!
細くて踊る様に不規則な動きで近づく大量の針を迎撃しきれず盗賊団の連中の痛そうなところに深々と突き刺さっていく。
ていうか、キアラさん、なんか身体がうっすら発光していない?
「す、すごい……ゴメスが声を掛けてくれればくれるほど力が湧いてくるわ……」
え? マジ?
これが比喩なのかマジなのか俺には分からないが、とにかくキアラの力が増している。
女神さまに逢ったことで、もしくは、記憶が完全に蘇ったことで俺に与えられた【神言】の力が覚醒したのだろうか。頭光ったし。
「え? ということは……?」
白い光が駆け抜けていく。そして、その光が通り過ぎた後は、魔法銃や魔法兵器の輝きが失われていく。そうか、いかに100分の1のエコなものでも、魔力そのものが盗まれれば、撃つことさえ出来ない。ただのL字のガラクタだ。
殺さずに的確に無力化させていくのは、生きていくために身につけた技と本当にやさしい彼女の真っ白な心故か。
「シロ、SUGEEEぞ! いい子だ!」
「にしし! だよね?」
シロの輝きが増している気がする。おお……。そして、
「ドウラさん、どうぞ」
「うむ! この魔法銃というのは便利じゃのう、わっはっは!」
「キアラ、そろそろ回復して。シロ、深追いしない。いい子だから一回かえってきなさい」
なんか闇の手の五本指がそれぞれ手みたいになって伸びてシロから借りたマジックバッグに手を突っ込んでは魔法銃やらポーションやら取り出し適切にみんなに渡しているヒナ。
元々金やアイテムの管理もしてくれているし、常にみんなのサポートをしてきたヒナなら、状況把握は間違いなくピカイチだ。それは彼女がみんなとコミュニケーションをとることで積み重ねてきたもの。
「ヒナ、やっぱSUGEEEわ」
「うふふ、でしょう。私『も』すごいでしょう?」
ヒナの輝きも増しているんだけど、なんかちょっと黒い。圧がすごいな。
「はっはっは! ゴメスよ、たまには儂も褒めていいんじゃよ」
「いやいや、いつも褒めてるだろ! 期待してるぜ、最強のドラゴン、ドウラさんよお!」
「おお!」
ドウラがにやりと笑い、魔法銃を両手持ちでぶっぱなす。最強の力を持つ竜族だからか、盗賊団の連中よりも安定して使いこなしている。打つまでの準備時間が短い。100分の1かどうかは分からないけど。今、思うと1000倍とか100分の1とかってどうやって分かったんだろう?
まあ、なにはともあれ圧倒的身体能力の高さで盗賊団よりも魔法銃を使いこなすドウラが盗賊団を蹂躙していく。
となると、黙っちゃいないのが……
「みんな、やるな!」
トレスさんだ。さっきまでの絶望顔がなかったかのように嬉しそうな笑顔。
コイツ、一回どころか毎回都合よく記憶リセットされてんじゃないか……?
そんな都合いいこと忘れるトレスさんが、恒例の
「オレも外れスキルなりに、みんなを手伝うよ!」
手のひらを盗賊団に向け魔力を高める。
うん、このパターンは、魔法ぶっ放す、盗賊団ぶっとぶ、『なんで……そうか、キアラ達のお陰で弱ってたんだな! じゃないと、オレの外れスキルでぶっとぶはずがない! きっと、そうだ!』、そして、トレスSUGEEE。
俺は大きく息を吸い込む。
そして、
「トレスゥウウウ!」
「ゴメス!?」
驚いた表情のトレス。きょとんとしてる。きょとんとすな。
「お前それぶっぱなしてまだ盗賊団のアジトにつかまってる人間がいたらどうするんだ!? キャルやシロが捕まってたんだからその可能性は十分あるだろ。それにお前が前に人を簡単に裁けないなんて言ってたのに簡単に消滅させるな。他に生き物がいるかもしれないしぶっ飛ばした後の影響を考えろ。全部なおせばいいんでしょじゃないんだよ。そういうメンタルがあとでなおせばなんでもいいんでしょって他の奴らも雑になって物語がぼかーんでもなおーすになっていくんだよ! ていうか、いい加減気づけ! 毎回お前のとんでもない魔法を近くでぶっぱなされてる俺の気持ちに! 危ないだろうが! 怖いだろうが! お前が何やってるか分かりやすく教えてやるよ! とんでもなく切れる最強の剣を『これ木の棒だからー』つって振り回してんの! 全部ぶっとばす爆弾で『これおもちゃだからー』つってぽいぽい投げまわしてんの! バカか!? 前の世界なら普通に犯罪者だぞ! 想像力や思いやりが欠如しまくってんだよ! 味方が怪我したらなんてひどいことをってなれるのになんで敵が消し飛んでもすごくないってなれるんだよ! 怖! 怖! 怖!!!!!!」
きょとんとしてる。きょとんとしてる! きょとんとぉおおおお!
「『なんでみんな驚いているんだろう、きょとーん』じゃねーんだよ! 驚いている結果だけに目を向けて、原因や理由を見つけようとしない奴は、どっからどう見ても頭おかしいだろうがぁあああああ! 要は!」
これでもこいつには響かないだろう。それでも、俺は伝える。
もうあきらめない。
「お前UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」
もう決めた。俺は、今もきょとんとしてるコイツのチート頼りにはならない。
俺は俺の見たい物語になるよう戦う。
努力が全て報われる世界なんてない。
だけど、
「そして、アイツらはSUGEEE! チートがなくても頑張って頑張って強くなってる! 『え? なんだって』も『外れスキルだから』もいらねえから黙って見てろ!」
才能ってのは残酷だ。
だけど、
「アイツらを見ろ!」
少しでも努力が報われる世界に。
だから、
「お前らマジでSUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」
俺の褒め言葉でみんなが頑張った甲斐があった。少しでも報われたと思ってくれるなら。
俺は声をかけ続ける。
「ふふーん、当然でしょ」
努力の末に手に入れたたった一つの勝利と笑顔を。
「はあ、はあ、ふふふ……がんばっちゃいました」
勇気を出した先にある小さな変化と汗を。
「にひひー、もっと褒めていいんだよー」
やさしさが生み出した心からの感謝と胸の中のあたたかさを。
「おう! 儂もついでに褒めるがいい! 大勝利じゃな! わっはっは」
そんな未来が来ることを信じられるように。
がんばった人間が少しでも報われる世界に。
がんばってよかったと思える世界を。
「ほんと、すげえよ。お前らがんばったな。ありがとな」
俺は、支える。がんばって、支える。このSUGEEEE良い笑顔を。
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