第41話 脇役だ、っTEEE!

 キアラは涙をぼろぼろ零しながらそれでもゴメスの身体に空いた穴を埋めようと創造魔法をやめなかった。

 魔力はほとんど使い切り魔力の光は弱弱しくなって薄皮一枚も生み出せそうもない。

 それでも、やめずに必死に魔法を使い続けていた。


「うぐ……う……ううぅう……ゴメス! ゴメス!」


 ヒナは真っ黒な闇の手でゴメスの魂が天へ昇ってしまわないようにおさえ続けていた。

 闇の力を使いすぎた反動で、身体がきしみ、血が噴き出るのも構わず、ずっとゴメスの心臓を抑え回復魔法をかけつづけていた。


「ゴメスさん! まだです! まだ逝ってはいけませんよ!」


 シロは焼け焦げた体を何度も自分の体内に取り込んだことによる痛みでふらふらとよろめきながらも、魔力体と化した身体をゴメスに這わせダメになった皮や肉を盗み、宝物庫の秘薬と溢れる涙をゴメスに振りかけ続けていた。


「ゴメスゥウ! やだ! やだあああ!」


 だが、時間は誰にとっても平等であり、無情。

 三人の後ろでどさりという音がする。傷だらけのドウラが倒れ込んだ。


「あ、ぐう……すまん! これ以上奴らを止めておくのは……!」


 ドウラの視線の先には、いやらしい笑みを浮かべ魔法銃や魔法兵器を見せつける盗賊団たちの姿。その先頭には、蜘蛛百足頭のボス。


「へっへっへ、それにしてもどいつもこいつも上玉だなあ……だが、所詮はか弱い女子供だったかぁあ。抵抗するなよお。きれーな肌に傷がついちまう」


 早く一度捕えてから話せばいいのに、離れた状態でゆっくりと長々と話を続ける。


「大人しく従順にしておけば、たあっぷり愛してやるからよお。よかったなあ、お前らみたいな美人は、愛を誓い股を開けばそれだけで価値があるんだからよぉお。精々おれたちを愛してくれよぉお」


 嘗め回すような目でボスは4人の顔を、身体を、隅から隅まで堪能しているようだった。

 その視線を向けられた彼女は気の強そうなルビーの瞳で睨み返す。


「……はあ? 冗談じゃないわよ。アタシはね、ただただ強い男に従う事をよしとする、簡単に身体を許す女にはならないと決めたのよ」


 彼女はエメラルドの瞳にしっかりとした輝きと意志を宿らせ、


「私は私の生きたいように生きます。勝手に私の価値を決めないでください」


 彼女は水色の瞳を潤ませながらそれでもしっかりと自分の夢を映して、


「ボクは! もう誰かを悲しませたくない! お前の言うことは間違ってる! ボクは、みんなの笑顔の為にがんばる!」


 前を向いていた。


「……いいことを教えてやるよぉお。男に逆らうような女は、モテねえぞぉおおおお! しねぇええええええええええええええええええええええ!」


 なんでやねん。

 なんで急にキレるねん。

 展開急すぎるやろ。

 もうちょっとあるやろ。

 盗賊団が一斉に武器を向ける。よくそれでこんな大盗賊団の組織作れたな。

 そして、『は!』という声が聞こえる。

 トレスが気づいた。


「み、みんなああああ! くそ! 死んだゴメスの為にも、みんなを守る為にも……俺は立ち上がらなきゃ、立ち上がらなきゃ……」


 なんでやねん。

 ゴメスすぐころすな。あと、立ち上がれるならもっと早くに立ち上がってやれよ。

 あと、何回も言うけど……みんなを何回も守ってるんだからいい加減自分の力に気づけ!

 ああもう! 奇襲かけてやろうと思って待ってるのに長々と!

 もう俺、準備できてるから! こっちの世界に帰って来ちゃってるから!

 なのに、長々長々長々とぉおおおおおおおおおおお!


「立ち上がるんだ、オレ……立ち上がるんだ……そうだ! みんなの為に! オレは! たちあが……「URUSEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」え?」


 百足蜘蛛の盗賊アジトにクソデカボイスが響き渡る。あと、光る。

 え? なにこれ? この光? 覚醒の光!? 俺も知らないんですけど!

 俺の身体から出てる? いや、違う。

 頭だ! 頭だけ光ってる! どういう仕様!? 普通、こういう時って全身から光が溢れない!? もしかして、この世界の強制力でトレス以外覚醒の光でかっこつけられないように抑えられてる!? だけど、女神さまの力で少し世界が変わっているから、ちょっとだけ部分的に光を放ったってこと!? いや、それが頭だけってあんまりじゃん!


 こ、こうなったらもっと頭光らせて光で埋め尽くしてそれっぽく見せてやる!


「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「その、声は……」


 あ、やべ。光出しすぎて全然見えない。手探りで抱きかかえる。

 やわらかいしいい匂いがするなあ! まあ、今回は許してくれ!

 一生に一回あるかないかの脇役の見せ所なんだ!


 俺のツルツルヘッドからの覚醒の光がおさまる。

 よかった、腕の中におさまった奴らは間違ってなかった。


「やっぱ、お前ら、SUGEEEわ」

「「「ゴメス!!!」」」


 キアラ、ヒナ、シロ。俺が認めた最高のヒロイン達。

 少しでも強く感謝と頑張ってくれたことを褒めたくてぎゅっと抱きかかえる。

 今日はセクハラも許してネ!

 ゴメスも、俺も頑張ってるから許してネ。そして、これからも頑張るから。

 お前達を褒めて褒めてAGEまくるから、お前達にお前達の最高の価値を教えるから。

 血と汗と涙でびしょびしょのキアラ達をぎゅっと抱きしめ、俺は声を掛ける。


 俺に出来ることを。


 手の位置を変えて、彼女たちの背中を支え押してやる。

 これは、物語の世界だけど、現実。盗賊達は俺みたいな脇役の為には待っちゃくれない。

 感動の余韻もゴメスには与えてくれない。

 ヒーロー覚醒タイムは、トレス専用だ。


「敵はTUEEE」


 だったら、ゴメスらしく逃げてやられて敵の強さを教えて……俺の主人公たちの、キアラの、ヒナの、シロの見せ場に、世界を作り変えてやる!

 俺の言葉は魔力となりみんなの身体に入り込むと大きな光に変わり彼女たちの魔力に変わる。


「だけど、お前らはもっとSUGEEE」


 前を向く彼女達に力を。声を!

 もっともっとコイツらが輝くために!


「SUGEEEお前らなら……もっともっと褒めさせてくれるよなあ!」

「「「当然!」」」


 世界を盛りAGEる脇役の意地見せてやらあ!

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