第40話 この愛、っTEEE!?
『ゴメス! 死んだら許さないからね!』
『キアラの言う通りです! 私も、許しませんよ!』
『ボクだって、ひっく……ぜったいゆるさないからあ!』
キアラ、ヒナ、シロの三人がボロボロの俺の身体をなんとかしようと藻掻いている。
俺はそれを真っ白な廊下で遠くから眺めていた。
「って、今の俺って、これどういう状態なんですか? 魂?」
「そうですね、人間の貴方に説明するのが難しいのですが、ただ【面】が違うだけで、貴方の身体から魂が抜けて遠くから見ているわけではありません。そうですね……わたしとはリモートで話しているくらいに考えてください。で、あっちの映像はお天気カメラから自分の姿を見ているくらいのつもりで」
随分俺の前世の世界に慣れた女神様だこと。
「それより、わたしが与えた神の力で進化したゴメスの言葉の力。【神言】とでも名付けましょうか。【神言】の力で彼女たちは本当に強くなりました」
女神さまがそう言うと、遠くで見てたはずの映像が拡大化されて目の前にやってくる。
ヒナが動かない俺の身体の心臓辺りを綺麗で白い肌の手と、例の黒い闇の手で抑えている。
『ゴメスさんっ! まだ人生を終えるには早すぎますよ! まだまだ褒める時間があるはずです! 貴方が褒めてくれたSUGEEE癒しで生き返らせたい! これは私の我儘です!』
「貴方に褒められ、貴方を兄のように慕い始めた彼女は、少しずつ我を出し始めた彼女は、キングデーモンから奪った闇の手を使いこなし、いつだってみんなの様子を見守ってさりげなくサポートしてくれる男の、美しい魂を失わないように、しっかりとその魂を闇の手の中に、そして、もう片方の手で貴方を回復させて、両手でほしいものを手に入れようとしていますね」
我が儘だねえ。だが、それでいい。それを言うだけの頑張りはしてると思うし、ちゃんと周りが見える奴だ。人を不幸にする我儘は絶対に言わない。
シロが泣きながら、魔力体へ何度も姿を変え俺の、雷で焼けこげた身体を包んでは離れ火傷を【盗んで】は、マジックバッグから薬か何かを取り出し、俺にぶっかけている。
『ゴメスっ! ボク、ゴメスがSUGEEEいい子だって言ってくれた以上に、もっともっといい子になれるよう頑張るからあ! もっともっと生きてボクの事見ててよ! もっともっと褒めてよ!』
「貴方に褒められ、貴方を父のように慕い始めた彼女は、自分自身を信じて、闇に墜ちず正直に、なりたい自分になろうと歩み始めました。そして、その道へ導いてくれた、背中を押してくれた男の道を終わらせまいと、焼け焦げてしまった身体を【盗ん】で、【盗んだ】部分を宝物庫から盗った秘薬で再生させようとしています。焼け焦げた体を【盗む】度に自身の身体に激痛がはしっても諦めずに」
本当にいい子だ。もし、いい家に生まれていたら……いや、他人の痛みや苦しみが分かるからアイツはアイツなんだ。将来、絶対誰もがハート盗まれる素敵な女になるな。
そして、大分グロい俺の身体の穴にキアラが手を突っ込んで魔力を送り続けている。あれはなんだ? 魔力で何かを形成しようとしてる?
『ゴメスゥウウウ! あんたが死ぬわけないでしょ! あんたが褒めてくれたSUGEEE繊細な技術でアタシは絶対あんたをしなせてあげないんだからね!』
「貴方に褒められ、貴方を男性として慕う彼女は、貪欲に知識を覚え続け、この世界にもない魔法を生み出したのです。いつだって身体を張ってみんなを守り続けるとある男がどんなに傷ついて死にかけても命を失わせないように、ありとあらゆるもの、人体さえも作り出す創造魔法を」
いやいやいや、努力しすぎだろ。とんでもない魔法じゃないか。
でも、キアラの繊細さややさしさなら何かをぶち壊すよりも生み出す方が向いてるかもな。
前半ちょっと女神さまが何言ってるか分からなかったけど。
けど。
ああ。
ああ。
「あー……ちゃんと、言葉が届いてるって……うれしいっすね」
他人からの言葉なんて、忘れようと思えば、すぐに忘れることが出来る。
耳をふさげば、『え? なんだって?』って言えば、聞かないことだって出来る。
『いやいやいや、外れスキルだから』と頑なになれば、無視だって出来る。
言葉の力なんてそんなもんだ。だけど、もしその力が届いて人の運命を良い方向に変えられているなら、
「俺の声は無駄じゃなかった。がんばった、俺」
最高だ。
「ええ……貴方の言葉、届いていますよ。そして、彼女たちの運命を良い方向に変えているんです。そして、それはどんどんと……」
女神さまが微笑みながら、映し出された【向こう側】のキアラ達の更に奥を指さす。
『ぬおおおおお! アイツらの治療の邪魔はさせん! すっこんでおれぇえ!』
「竜の彼女もまた、少しずつ違和感とあるべき世界に気づき始め、今は、貴方と貴方を信じる彼女たちの為に、どんどんと集まってきた武装した盗賊達を抑えてくれています」
女神さまの言葉の通り、ドウラが孤軍奮闘。蜘蛛百足頭ボスと同じように魔法銃やら魔力で動く兵器やらを携えた盗賊達と戦って、キアラ達の治療の時間を稼いでくれている。
やっぱ、アイツもSUGEEE。それに、普段は猪突猛進痴女お姉さんだが、実は、ちゃーんと周りを見て色々気づけるヤツなんだよな。
「って、孤軍奮闘? そういや、トレスは……アイツならちゃんとチートスキルをコントロールすれば、あんな奴ら、あっという間に……」
俺がそう言うと、女神さまはめっちゃ気まずそうに指を動かす。
キアラ達が頑張って俺を治療してくれている。それを、守る為にドウラが戦ってくれている。
そして、その頃、トレス君は……
『オ、オレが……? オレがゴメスを殺したのか……?』
『トレス! しっかりして、トレス!』
俺を殺して落ち込むトレスと、それを慰めるキャル。
「おぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
こんな状況で急に罪の意識に囚われて、周り見えなくなるほど落ち込んでんじゃねえよ!
多分、みんながピンチになるまで落ち込むんだろうなあ! 凹む気持ちは分からなくはないが、そんな風にしてるうちにヒロインズが殺されたらどうするんだよ!
まあ、多分、本能的に、ヒロインズピンチになる、ピンチに気付く、覚醒、多分光かなんかビカー、オレは怒ったぞぉおおおおおおおおおおおおおおお的な展開になると感じ取って、しっかり落ち込んでいるんだろう。
そういや、原作でも毎回タイミングよく助けに来たり、覚醒したりしてたな。
記憶を持って意図的にやってるんじゃなくて、記憶を一回消してそうなる人間としてキャラメイクしてるんだからたちが悪い。
『あ、あ、あああ、オレがゴメスを……ああああああああああああああああああああああああああああ!』
ああああああああああああああああああああああああああああ! じゃねえよ。
急にメンタル崩れるやん。
俺みたいな雑魚はいちいちメンタル崩れてたら秒で死ぬから、崩れかけたメンタルでも動かなきゃ自分の命も他人の命も何も守れないって知ってるから、その為に色々心がまえしてるやんか。力足りずに、守れずに人が死ぬのだって、見てきたやんか。ていうか、そんなレベルで落ち込むなら魔物ぶっ殺した時ももうちょっと心に響けよ。俺なんて未だに魔物を倒すのしんどいぞ。めっちゃ落ち込んでるやん。みんな必死に戦ってる中で地面殴ってるやん。
「なんでやねん」
ダメだ。悔しくなってきた。
「女神さま」
「ええ……大丈夫。貴方が向こうに戻ることが出来る【理】は整っています。貴方が褒めて、認めて、生まれた力によって」
あんな共感できない主人公より、人の為に泣けて苦しんで一緒に喜べて努力だって滅茶苦茶できるヒロイン達の方がいいに決まってる。ていうか、元々俺ヒロイン推しで主人公苦手だったし? 俺が、アイツらを……
「気持ちAGEて、AGEて、AGEまくって、お前ら超SUGEEEにしてやりますよ」
褒める!
それが俺の愛だ。
女神さまが頷くと、キアラ達の映像が再び俺歴史博物館のゴメス本館の奥に移動する。
そして、その手前には、自動ドアっぽい扉が。あれをくぐったら出られるという事なんだろうけど、なんで自動ドアやねん。もっとファンタジーなドアでもええやん。
とか言ってる時間も惜しい。早くアイツらを助けに行かないと!
俺がドアに向かって駆け出すと、女神さまの声が耳元で聞こえてくる。
「世界を、お願いします」
「まあ、世界については出来る限りの事はやりますよ、だけど……」
俺は返事にためらってしまう。世界を変える。それ自体は構わない。だけど、世界を変えるという事は……。
こんな事を考えるべきじゃないとは分かってる。だけど、俺はやっぱり努力している人間を否定したくない。
「何か、気になる事が?」
「【はずコピ】だって物語で誰かが生み出したものですよね。その人の努力を無視して変えてしまうってことじゃあ……」
そう、無自覚チート作品が悪いわけじゃない。多くの作品は、作者がいて、その思いや情熱が詰まった作品だ。そういった作品を俺は本当に尊敬している。その大切につくられた世界を変えることに罪悪感がないとは言えない。
「ああ、安心してください」
ドアに向かって走り続ける俺の耳元で風の音と共に女神さまの優しい声が響く。
「この作品は、インプレッション稼ぎのほぼ設定丸パクり、プラスAI頼りの愛も情熱も全く籠っていない作品ですから」
「こんちくしょうがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
道理で色々雑だと思ったよ!
作者のスキルも【コピー】なんかーい!
じゃあ、
「遠慮はいらねえな」
作者の作品愛より、俺の仲間愛の方が強いなら!
「世界変えさせてもらいまーす!」
俺はドアの向こう、アイツらのいる場所にツルツル頭から飛び込んだ。
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