第39話 この世界、っTEEE!?
「あー、俺TUEEE主人公でモテてー」
少し向こうの走馬灯で、前世のげっそりした俺がエナジードリンク片手にうつろな目で家に帰っている。少し向こうの走馬灯ってなんだよって感じだが、今、俺は自分の人生のタイムラインに立っている。『俺歴史博物館』を逆走してて、本館(ゴメス館)から渡り廊下に、渡り廊下から別館(前世俺館)の展示を見ている感じ。いつの間にか、一人称視点から、三人称視点に切り替わっていた。
そして、
「おいおいおいおいおいぃいいいい!」
別館の中では、かっこいいことを言う暇もなく、チャラついた兄ちゃんにぶつかって道路に転ぶ子供、に向かって不格好に駆けてくげっそり俺。死ぬぜアイツ。こどもをどん。どんしたげっそり俺はトラックにドーン!!!
いやあ、トラックの運ちゃんが一番かわいそうだ。あのチャラ男、しっかり裁かれたかな。
ただ、これは俺歴史博物館であり、トラック運ちゃん博物館でもチャラ男博物館でもない。他人の人生は見られない。俺が見られるのは俺の人生だけっぽい。
向こう側別館の最期を見終えた俺は、本館に繋がる渡り廊下の展示に再び視線を戻す。
『俺、死す』の展示から『俺、転生す』の展示に。
この展示は随分真っ白。
そうだ。そうだった。
前世の俺は子どもを助けようとして事故にあって、そして、天国っぽい所に来た。
向かい合う前世の俺と女神っぽい金髪の美女。
ああ、金髪美女、ヒナにあげたペンダントの聖母よりも随分若く見えるな。
っていうか、前世の俺って近くで見ると、髪はふさふさだがマジで死人みたいだな。いや、この時点ではガチ死にではあるんだけど。ブラック企業で頑張ったな、前世の俺。
ガチ死人俺が聖母様と向かい合って、話を続けている。
「せ、世界を変えて欲しいってどういうことですか?」
「貴方に変えて欲しい世界というのは、貴方もよく知る世界……貴方に分かりやすく伝えるのであれば……『外れスキル〈コピー〉で無能扱いされ追放された俺、実は最強のスキルの持ち主らしいんですが、いやいやそんなはずないだろ?』の世界です」
聖母様が正式名称言ってる。冷静に聞くと、おもろ。
冷静じゃないげっそり俺、驚きすぎて目が飛び出そうだ。ほんと骸骨みたいだな。てか、こっちのスケルトンそっくり。ウケるよん。
「は、はずコピの世界に……? 何故……?」
「……その物語は、貴方のいた世界で生まれたもの。ですが、1人の神が面白がって、その世界を作り出してしまったのです」
その時の話を要約するとこう。
世界と生命を生み出し、見守るのが神々のお仕事。
そんな中で比較的若い神様が前世の俺の世界を見てて思ったらしい。
『俺TUEEEの世界作ったらマジ神レベルの草じゃね』
そして、そのチャラい神ははずコピの世界を作り上げた。
そして、思ったらしい。
『あー、一回記憶消して、はずコピ主人公になって無自覚チートで無双してーw』
そして、チャラ神は自身の記憶を一回消して、無自覚チート俺TUEEE主人公トレスに転生したそうな。
めでたくねえめでたくねえ。
「……つ、つ、つまり、なんですか? その世界は、一人の神様のチート主人公なってみたい願望で作られた世界だと」
スケルトン前世俺が顔真っ青キレ顔で女神さまに尋ねてる。そりゃそうだ。ブラックな世界で踏ん張った人間からすれば、マジで許せねえ案件である。
「はい」
「は、はははは! ふ、ふざけてますねえ。全くどういう教育受けてるんだか。親の顔が見てみたいですねえ。神様だからいるかわからんですが」
「……わたしです」
「お前かーい!!!!!!」
記憶がよみがえる。そういや、ツッコんだな。盛大に。女神さまにツッコミを入れるなんて貴重な経験だったな。
凄く女神さまは申し訳なさそうな顔で話を続ける。
「あの世界の人々には本当に申し訳ないと思っています。壊れるしかない世界で生きねばならないのですから」
「え?」
「……素晴らしい神の作った世界は全てが美しく巡る様にできています。巡ることでバランスを保つ。生があり死があり、再び生があることで続いていく」
食物連鎖や水の循環、そして、魔力もそうらしい。まあ、魔力はぶっこわしたり再生させるエネルギー。無尽蔵にどっかから生まれるわけじゃなく酸素と同じように使ったら再生する必要があるらしい。
「全ての物事には理があり、それによって生物は進化していく。ですが、我が子は、物語の世界で留めておくべきだった理を無視した世界を作り上げ、さらに、その世界の主人公として生きることを決めたのです」
「理を無視した世界……」
まあ、物語なんてご都合主義だ。世界のルールやら法則なんて無視なんてことはざらにある。俺はそこまで気にしないし、その瞬間面白ければいいと思っていた。だけど、
「……己の記憶を封印し、その世界の主人公を刹那的に楽しむ為に生み出された世界は、最初から崩壊の運命が決まった世界。理なき世界は、その主人公がいなくなった時からあっという間に滅んでしまう事でしょう」
実際にその世界が生まれてしまえば、話は別だ。多くの矛盾を抱えた世界は、どんどんバランスを崩し歪み続ける。物語には関係のない所で。
「その世界に産み落とされた人々に罪はありません。その人々がただただ我が子の気まぐれで命を失うことは私にとっては耐え難い苦しみなのです」
ヒロイン達は原作通りであれば主人公と一緒になり楽しく生きることが出来るだろう。
裏で崩壊していく世界を知らないままに。
数十年後の子孫まではどうだろうか。
「だから、貴方に、その世界を救ってほしいのです」
「ど、どうやって……? 俺TUEEE主人公を、トレスを殺せってことですか!? ムチャでしょ! アイツ、確かコピーで自分も増やせるし、アンドゥで自分の身体再生できるし、カットで存在を切り取ることも、ペーストで空間移動も出来るんですよ!」
スケルトン前世俺が悲壮感あふれる死にそうな声で叫んでいる。死んでるけどね。
でも、そうだよな、無茶苦茶な主人公じゃねえか。
「……あの世界は、ほとんどあの子の為に作られた、あの子の都合の良いように設定された世界です。分かりやすく言えば、チート展開後トレスに対してほとんどの女性が、彼を愛したくなる遺伝子を埋め込まれています」
怖。
「ですが、神は人の意思を完全に操ることはできません。惹かれやすいように設定は出来ても、その場で好きになれと従わせることは出来ないのです。その上、あの子は記憶を一度消して転生しました。神としての介入は出来ません」
まあ、神として介入できなくてもスキルが神クラスチートスキルだけど。
「それに、あの子は大きなミスを犯しました。トレスというとてつもなく恵まれた人間を作り上げましたが、心持つ人としてはとても不完全なものになってしまったのです」
ああ、そうか。そうだった。なるほど。
トレスは、俺TUEEE無自覚チート主人公をはずコピの世界で成立させるために無茶苦茶な人格で作られているんだ。
絶対に自分がチートであることを受け入れない。
外れスキルであると言い続ける。
何故かえっちはうまい。
耳が遠い。
ヒロイン達からの愛には鈍感なのに、気が利く性格と言われる。
何故かえっちはうまい。
流されてすぐに致す。
自分の強さをちゃんと知ろうとしない。
普通の生活で普通の人間を知っているはずなのに、力の自覚がない。
とにかく無自覚。
無理やり作った世界で、無理やり成立させる為に生み出された主人公だから、実際の人間としてはとてつもなく不完全なのか。
「その不完全さが、世界の崩壊を防ぐ鍵です」
女神は少し寂しそうな顔で笑う。
「彼が、己の不完全さに気づく。のは難しいでしょうが、彼の不完全さに人々が気づき、一人の力ではなく、皆の力で生きることを選べば、世界は良い方向に向かうはずです。だから、」
我が子をうまく導けなかった彼女もまた苦しいのだろう。
「貴方に神の力を授けます。いびつな世界を変えてください。お願いします」
「で、でも、ど、どうやって……?」
スケルトン前世俺、粘る。スライムかよ。
「貴方の得意なことでいいのです」
「俺の得意なこと……?」
「人を認めること。褒めること。それで、人は気づくはずです。己の価値に。我が子のとてつもない力だけが価値ではないと。私の、神の力が加わった貴方の言葉なら、我が子に造られた人々も少しずつ変化していくはずです」
そうか、キアラ達が原作とは違う行動をとり始めたのはそういう理由だったのか。
俺の言葉で、物語の強制力から外れ始めたんだ。
「貴方の言葉で、自分たちにも無限の可能性があるのだと気づかせてあげてください」
『お前SUGEEE』
そうか、俺は、そう言えばいいんだ。
それで、よかったんだ。
前世俺が力なく頷き、『俺、転生す』展示から去って本館へ向かっていく。
あれ? これどうなるの? こっちの俺は? ちょっと俺歴史博物館の職員さーん。
「はーい」
前世俺を見送った女神さまが返事しちゃったよ。こっち見てる。
「久しぶりですね、ゴメス」
「すみません、忘れてました」
「いえ、仕方ありません。あの子のつくった世界の強制力がすごかったということでしょう」
「それに……死んでしまいました。世界を、救えませんでした」
ああ、情けない。
俺は、結局何も出来ないまま……。
「貴方は、よくがんばりました」
あ。
やばい。
泣きそうだ。
やめてくれ。
褒められたら。
認めてもらえたら。
泣いちゃうよ。
だって、嬉しいだろ。
褒められるのは嬉しいだろ。
がんばってよかったと思っちゃう。
ゴメスなりに、俺、がんばったよな。
トレスの為の世界で、必死に、一生懸命頑張ったよな。
がんばった、俺!
「それに……貴方ががんばったから、物語は、まだ、終わっていませんよ」
「え?」
真っ白な天に向かってあげた顔を女神さまのほうに戻すと彼女は笑っていた。
そして、向こうを、別館、前世俺の歴史館とは逆方向の本館、ゴメス館の遠くを指さす。
すると、そこには……
『ゴメスゥウウ! あんた、簡単に死ねると思うんじゃないわよ!』
『ゴメスさん! 死なないで!』
『ゴメス! やだ! 死んじゃやだよ!』
アイツらが……。
「貴方の声が届いた人たちは、まだ、諦めていませんよ」
キアラが、ヒナが、シロが。
俺を、ゴメスを呼んでくれていた。
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