第37話 キミ頑張り屋、DANEEE!

「にっひっひ、これでよーし」


 ワタシ、ゴメス。今、ワタシの目の前に44のトラップがあるの。


 きゃああああああああああああ!


 俺は、お宝の入った大きな袋を抱えながら震えていた。

 その奥には百足蜘蛛盗賊団の宝物庫。


『ゴメスはいいよ。血が出すぎてふらふらだし、ボクの方が目利きは出来るからねー』


 そう言って、シロが宝物庫に入ると、相変わらず素早い動きでお宝を選別し、マジックバッグに詰めて持ってきてくれた。


『めぼしいものは粗方とってきたよー。あとは、でっかい兵器とかマジックバッグの口を通らないものばっかりだから諦めた。にっひっひ、アイツらびっくりするだろうなあ。ざまぁ』






 めっちゃすぐおわった。

 シロが早すぎる。時間を稼ぐつもりだったのに全然稼げなかったんですけど。宝物庫に来るまでも、血が足りねー、罠こえーとか言ってゆっくり歩かせてもらったのに、シロがめっちゃ素早い動きで先回りして罠を解除してくれるし、出てきた敵は首トンで全員眠らせるし、スムーズにたどりつきすぎた。


 そこで、天才ゴメスは考えた。


『シロ、宝物庫の前に罠を張ったら、アイツらめっちゃビビるんじゃね?』

『ゴメス~、キミもワルよの~』

『『にっしっし』』


 シロは罠解除の天才だが、罠設置に関しても天才だ。

 罠を張ることで時間を稼ぐ。時間稼ぎの天才ゴメスはひらめいたんだ。

 血が足りてなくて頭回ってないのに、こんなの思いつくって、もしかしてゴメスって、天才過ぎ……?


『できたー! にっしっし』


 めっちゃすぐおわった。

 シロが早すぎる。時間稼ぎたかったのに全然稼げなかったんですけど。あっという間に罠を張り終わるシロ。悪戯っ子の本領発揮か。だが、天才ゴメスは諦めない。


『シロ、あそこにこういう罠を。むこうにああいう罠を。あのすみっこにそういう罠を仕掛けて繋げたらどうだ?』

『ゴメス~、キミもワルよの~』

『『にっしっし』』


 俺は前世のホームア〇―ンの知識を総動員してシロに提案する。もしくは、ピタ■ラスイッチ。連動型の罠は調整が難しいので、時間が稼げるだろう。

 もしかして、ゴメスって、天さ……


『できたー! にっしっし』


 めっちゃすぐおわった。


 天さ、天さ……天さーーーーーーーーーーん!


 シロがはやすぎる。時間稼ぎたかったのに全然稼げなかったんですけど。あっという間に罠を繋げる調整を終えるシロ。マ□ーレ・カルキンと年が近いからか、ピタ■ラスイッチ卒業したばかりくらいの年だからか早すぎた。


 そして、今に至る。

 トレスは来ない。マジで何をやっているんだろうか。ピンチにならないと出てこないのか。あのチート主人公。


「じゃあ、いこっか」

「お、おい! えーと、ちょおっと血が足りなくてふらふらするからよ。少し話でもしねーか」


 時間を! 時間を稼がねば!


「あー、そっか。ゴメスほんと血だらけで頭っていうか顔真っ赤だもんね。よくそれで死なないよねー。うんうん、わかった、いいよ。じゃあ、ちょっと宝物庫の前まで動こうか。あっちの方が罠に囲まれてて安全だし」


 そう言ってシロは俺に肩を貸して、罠の位置を教えながら連れて行ってくれる。ワナ屋敷すぎて足の踏み場がほとんどない。シロ様が頼りでしがみつく俺。小さいシロが大きく見えるぜ! あと爽やかないい匂いがするぜ!


 宝物庫のゴツイ扉に背中を預け、シロと隣り合わせで他愛もない話をする。


「この前さー、キアラがスリに合ったのに気づいてなくて、ボクが取り返してあげたんだよ」

「おお、そりゃすげえし、えらいな、シロは」

「いた! てめぇらぁあああああああ!? な、縄が!? 水が!? 袋が……!」


「ヒナが、どうしてもボクにニルギル菜を食べさせようとするんだよ」

「でも、お前この前はちびっとだけでも食べてたじゃねえか。ヒナも喜んでたぞ」

「シロ、しねぇええええええ!? 足がひっかかってってぬわあ槍が矢が岩がぁああ!」


「ドウラの格好えっちすぎない? みんな見てるんだけど」

「アレはやばいな。でも、お前らみんなかわいいからな。同じくらい見られてるよ」

「シロォオオオオオオオおおおおおとしあなぁぁぁぁぁぁ………!」


 ぼーっとした頭で罠にピタゴラっていく盗賊たちを見ながらシロと話をする。

 ああ、穏やかな昼下がりだ。アジトの中は暗いから昼かどうか知らんけど。


「トレスってさ、すごいよね」

「ああ、SUGEEEなあ。でも、お前らもSUGEEEよ。俺から見れば十分SUGEEE」

「あべす! ひでぼ! めめだあ!」

「……ゴメスってさ、人を褒めないと死ぬの?」

「あん?」


 シロの方を見ると、シロの顔が真っ赤だ。ただし、俺の方が真っ赤だろう。血だらけだし。


「よ、よく見てるよねー。ボクも罠とかお宝とかを見る目は鍛えてるけどさ、人を見る目だけはゴメスには敵わないよ」


 ああ……そりゃそうだ。こちとらおっさん2周目なんだ。しかも、2周目は解説マン、ゴメスだぞ。そりゃ見る目はある。だから……シロがなんて言って欲しいかも分かってる。


「俺はよくお前のことも見てるから、お前が本当はめちゃくちゃ頑張り屋のいい子だってことも分かってるぞ」

「……!」

「ずっと一緒に旅してきたんだ。分かる」


 半人半魔で極悪盗賊の英才教育を受けてきたシロは、ずっと怖かったんだろう。

 あるいは、あの蜘蛛頭に『お前みたいなのは誰からも受け入れてもらえねえんだよ』くらい刷り込まれたのかもしれない。


 それに、シロは多くの犯罪を重ねている。やらされていたとはいえ、犯罪は犯罪だ。だけど、ここは俺が前世に居た世界とは違う。よくもわるくも法が整備されきっているわけではない。だから、シロはこれからちゃんと歩けばいい。シロの歩きたい道を。


 シロは、ただ、


「シロ、俺はお前が頑張り続ける限り何度だって言ってやる。お前はやさしい。お前はがんばってる。お前は、すげえよ」


 褒められたかっただけだ。

 誰かに認めてもらいたかっただけだ。

 子どもなんてそんなもんだ。


 なあ、前世のガキの頃の俺。


 もし、少しでも父親が認めてくれていたら、俺の人生も変わっていたんだろうか。

 そしたら、この世界にも来なかったかもしれない。

 でも、ここに来たから。

 ここに居るから。

 この事に意味があるなら。


「ゴメス……ありがと……」


 俺は、きっと褒める為にこの世界に呼ばれたのかもしれない。

 なら、褒めてやろう。どこまでもどこまでも。

 シロの頭を撫でてやる。前世ならセクハラだが、まあ、ゴメスならいいだろ。

 どうせあとでぶっとばされるだけだ。


 俺は細くて綺麗で、泣いてるせいで熱くなったシロの髪の毛を撫でた。



 その間も、盗賊はどんどんホイホイされてた。




「シロ、どっちだ?」

「多分、あっち」


 トレス来なかった。

 いや、正確には来てるっぽい。

 騒がしい音が方々で聞こえ始めていた。


 なら、もうこっちが迎えに行った方が早いんじゃね?

 そう思った俺は目をはらしたシロと一緒に移動を開始。多少ふらつくがシロの探知能力のお陰で敵とほとんど遭遇せずに切り抜けてられている。


「ねえ、ゴメスはさ」

「ん?」


 立ち止まったシロが向こうを警戒しながら声を潜め話しかけてきたので、俺も息を殺して耳を澄ませる。


「ボクとえっちな事したいって思う?」

「ぶほお……!?」


 噴いた。何を言ってるんだとツッコもうと思ったが、予想以上に真剣な顔で耳真っ赤のシロに俺は踏みとどまり、答えを探す。


「……あー、したいくらいかわいいとは思うが、別にしなきゃ価値がないとは思ってないぞ」


 慎重に選んだ言葉はどうやらシロのお眼鏡に叶ったようで、シロは嬉しそうに微笑む。


 きっと、シロは愛される方法が分からないんだろう。

 ゴロツキみたいな盗賊団の環境だったし、ウチの女性陣は何かとトレスへのアピールが凄かったから性教育が終わっていたかもしれない。エッチしたい女=価値がある女、好き=エッチではない。勿論、愛の形の1つではあるだろうけど、それがすべてじゃない。俺は、シロが好きだが別に男女の関係になりたいとは今の所思ってない。ただ、頑張り屋で尊敬しているから、人として好きなんだ。


 好きと言う代わりに俺は褒めてあげたいのかもしれない。


「シロ、俺はSUGEEEお前とこれからも旅出来たらSUGEEE嬉しいよ」

「にっひっひ、ありがと。そうだよねー。エッチな事とか恋愛が全てじゃないよねー」


 俺を見て笑ったシロが、再び向こうを見つめる。SUGEEE冷めた目で。

 シロの後ろから向こうを覗くと……


「キャル、オレはお前が好きだ」

「トレス……!」


 両手足縛られたキャルとトレスが、大量に床で寝てるボロボロの盗賊団どもを気にせずにキスしてた。


 ……なにやってんの、おまえら?

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