第36話 原作気に、NARUNEEE!
「どけ……!」
オレは、百足蜘蛛の盗賊団の連中が目にもとまらぬ速さで斬りかかって来ることに構わず歩き続ける。
ナイフには毒が塗られているのだろう。オレの腕が腐り始めると連中は下卑た笑みを浮かべる。だが、オレには関係ない。
「アンドゥ」
「へっへっへぇええええええええええええええええええええええええ!?」
ヒナとエッチをしたことで覚えたスキル【アンドゥ】は、元の状態に戻すことが出来るスキル。どんな毒であってももとに戻せば関係ない。
「【カット】……【ペースト】」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
キアラとエッチしたことで覚えたスキル【カット&ペースト】。
奴らの持っている毒ナイフの存在を【カット】で切り取り、【ペースト】で奴らの頭上に貼り付ける。落ちてくるナイフを必死に避ける盗賊たちだが避けきれず刺さる。
「それがお前らのような腐った連中への罰だ……そして、【拡大コピー・アブソリュートドラゴンファイア】!」
ドウラのブレスを拡大コピーしレベルを上げた高熱のブレスを吹きかけると全身が燃えていく。
「これがオレの怒りだ! そして、お前らへの罰だ!」
オレは怒っていた。こんなに自分が怒ることがあるのかと驚いている。
誰も怯えもう近寄ることもしない中を、悠々と歩いていく。
ゴメスの言った通り確かに素早い連中だ。ゴメスでは手も足も出なかったのかもしれない。
だけど、関係ない。オレは怒りに任せてスキルを行使し続ける。
コイツらは許せねえ。やっちゃいけないことをした。シロを攫った。
オレの大切な仲間を……! いや、本当は気付いていた。オレは、シロのことを……。
「ト、レス……?」
大きな部屋の中でシロは両手足を縛られ疲れ果てていた。
「シロ……助けに来たぞ」
「トレスゥウウウウウ!」
涙を流すシロ。ああ、やっぱりオレは……。
「シロが好きだ」
「え?」
「オレはシロが好きなんだ」
「トレスが、ボクを……? 本当に?」
「ああ、本当だ。失いかけて初めて気づいたんだ。オレはシロが好きだ」
「う、うれしい……!」
シロが嬉しそうに微笑んでいる。よかった、思いを伝えることが出来て。
「ああ! トレス、後ろ!」
シロに言われて振り返る。
二人の男女の盗賊がオレに向かってナイフを!
「アタシ特製の毒だよ! いくら元通りに出来ても心臓に刺してしまえば関係ないだろ!」
「ははぁあ! よくやったキャルゥウ! しねぇええええ! 外れスキルぅう!」
く……流石盗賊早すぎる! 間に合わない! シロに思いを伝えたばかりなのに! こんなところで!?
「いやだ! トレスを、大好きなトレスを死なせるもんかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
振り返るとシロが白く輝いている。な、なんだこれは! 何が起きているんだ!?
シロが光になってするりと縛られているのを抜けて、さらにオレの身体をすりぬけていく。
その時、なんとなくだけど分かった。
シロは半人半魔だったんだ。そして、すごいスキルをもっている。
「なんで!? ナイフがない!? しかも、力が入らない……? 頭領、どういうこと!?」
「くそう! シロは実は半人半魔で、しかも、とある有名な魔族の血を引いているんだ! 魔族は自分の身体を魔力で出来ているからシロも半分は身体を魔力操作で変化できるんだ! しかも、アイツの親は、【強欲】のクロウ! 魔力や体力、なんでも盗むことが出来る、おれがしぬほど欲しかった力なんだぁああ!」
「うおおおおおお! シロSUGEEE!」
「だ、だがぁああ! 二人がかりならどちらかしか盗めないはずぅうう! 半人半魔のきらわれものが! しねええええ!」
「く……!」
そう言って盗賊の頭領とキャルと呼ばれた女が二人別方向からシロを狙う。
だけど、バカだな。
「オレがコピーしたら、盗めるんだよ!」
「トレス!」
「行くぞ! シロ!」
「トレス、ボクが怖くないの?」
「シロはかわいくて素敵な女の子だ! 怖くなんかない!」
「へへへ、トレス大好き!」
オレとシロはスキルを解放し、盗賊たちの全てを奪う。
「え? なんで、アタシ裸にぃいいいいいい!?」
「ほげぇええ……力が入らねえぇえええ……」
「トレス、あの一瞬でコピーしたのか!? SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!」
ゴメスが驚いているけど、オレのスキルはただの外れスキルだし、ちょっと大げさだ。それにすごいのはシロだ。
「シロ、大好きだよ」
「トレス、ボクもトレスがだーいすき!」
「おーい、ゴメス? ゴメスー?」
頭をぺちぺちされて正気に戻る。
……どうやら夢を見ていたようだ。
原作の脳内再生が始まっていた。あまりにも現実逃避したくて。
白い光を纏ったシロが目の前にいる。足元にはありとあらゆるものを『盗まれた』盗賊子分A。
そう、シロは半人半魔。人間と魔族のハーフだ。魔族というのは魔力で体が出来ていて、魔力操作で大きさを変えられるらしい。当時読者だった俺は、シロ編で急に明らかになった魔族の特徴に驚いたものだった。ちなみに、原作では闇ヒナの近くにいたはずのシロがキングデーモンに攻撃できなかったのは、半人半魔で半分人間だから結局傷つけてしまうかららしい。原作ではドウラ編の後の話で明らかになる。
まあ、原作に言いたいことはいっぱいある。
後だし情報の無理くり合わせが強引すぎる。お前らの罰を二回言ってる。シロが縛られた状態で告白すな。なんでキャルと頭領の強襲だけピンチやねん、対策できることあったやろ。なんとなくわかるってなんやねん。頭領なんでめっちゃ説明するねん。ゴメスいつの間におるねん。二人に挟まれ襲われた後の会話長すぎやねん。ゴメスいつの間におるねん。あと、シロが心配なら歩くな。走れ。
とはいえ、これにより盗賊団が壊滅し、シロの真の姿が解放されパーティーの戦力がアップする。そのうえ、このあとまたトレスとシロが致しましてトレスがパワーアップするので必要な展開だ。
なのに、
「ゴメス、待っててね。すぐに外すから」
シン・シロが一瞬で盗賊子分Aから鍵を盗み、オレの拘束を解いてくれている。
「シロ、お前SUGEEEな」
「ごめんね、ゴメス。こんなところ早く出てヒナに治療してもらおうね」
シン・シロがマジ・ケアしてくれている。
まあ、心配するのは分かる。ゴメス血だらけなう。死にはしないが、血を流しすぎたせいかちょっとくらくらする。
「シロ、お前SUGEEEやさしいなあ」
「すぐに出してあげるからね」
シン・シロの能力と、シロの盗賊としての天才的な技術ですぐに出してもらえそうだ。トレスが来る前に。
ぶっちゃけもう原作とかいいかあとなってはいるが、もうちょっとだけ粘ってみようかなという思いもある。どうせ逃げられそうだし。なので、一生懸命背伸びしてよいしょよいしょと鍵を外してくれているシン・シロちゃんに提案してみる。
「な、なあ、シロ。ちょっと提案なんだけどよ。逃げる前にちょっとやり返してやらねえか」
「ん? ゴメス、どういうこと? ていうか、身体は?」
「まあ、血は大げさに出てるが俺は頑丈なんだよ。平気平気。だからよ、こいつらのお宝をよ、頂こうぜ」
俺は出来るだけやらしい笑顔を浮かべ提案する。宝好きなシロだし、何かやりかえしたい気持ちもあるだろう。そして、こいつはこういう事が大好きだ。だから、きっと。
「……にしし、いいねえ。のった!」
のってくると思った。それが、シロ。
「いよおし、それじゃあ、行こうぜ」
「うん! 宝の場所はボクわかるよ」
流石元盗賊団のシロだ。俺は差し出された手を掴み二人でやらしい笑顔を浮かべる。
これでちょっと時間を稼げるはず。これでトレスが来ればラッキー。来なけりゃ来なかった時だ。シン・シロが駆けだすのに合わせて俺もついていく。
「ゴメスは、ボクのこと見てもなーんも思わないんだね」
「ん? いやいや、いつも通りかわいいぞ、シロちゃん」
俺は前でつぶやくシロに出来るだけやらしい笑みで応えてやる。ここが異世界で良かったぜ! セクハラなんて言葉はないからなあ! と、思っていたらシロが振り返って真っ赤な顔でぷるぷる震えている。
「そういうことじゃないの! ばーか!」
怒られた。あの程度のセクハラでそんな真っ赤になって怒るなんて血の気の多い奴だ。
出血大サービス中のゴメスさんに分けて欲しいくらいですよ、もう。
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