第34話 悪い子、JANEEE!
「ク、ククク……どうしてもぉお、おれ達の仲間になる気はないみたいだなぁあ」
百足蜘蛛盗賊団の頭領が汗を垂れ流しながら笑っている。
「ならぁあ、仕方ねえな……おい、お前らぁあ、痛めつけろ」
「「へい」」
「ああ、違う、ちがぁう。シロじゃねえ、コイツを壊すわけにはいかねえし、折れねえよぉお……壊すのは、こっちのおっさんだぁあ」
「な!? なんでだよ! ゴメスは関係ないだろ?」
「あるある、おおありだよぉお。このおっさんはお前の心を折る為の道具だぁあ。……シロよぉお、おれはお前のいわば育ての親だ。お前のいやがることはよぉおく知ってるよぉお」
すっごい悪役ムーブ。後ろの子分たちも見事な子分ムーブ。
「へっへっへ、流石頭領」
「じゃあ、おっさん……ちょおっと痛い目にあおうか……なあに、すぐにシロが折れて楽になれるからよ」
子分膝蹴り。こういう時にあるある膝蹴り。
「ぐう!?」
「ゴメス! や、やめろ」
正直そこまで痛くない。
いや、痛いのは痛いが、頑丈さカンストゴメスからすれば、そこまでの痛みではない。
それに、確かに攻撃は早く避けきれないが、見えている。
チート主人公の攻撃を解説できる目を持っているんだ。見切ることは出来る。
なので、全部わずかにミートポイントをズラしているのでダメージも半減。からの頑丈さカンストなので、結構余裕で耐えられる。あと、流石に向こうも殺すわけにはいかないと考えているので、やりすぎは避けたい。
そこで活躍するのがゴメスの血―トスキル。【痛そうな見た目】だ。簡単に痛そうな見た目になれるゴメスのせいで子分A・B達は、手加減せざるを得ない。
全てが合わさり、めっちゃ耐えられる。なのに、隣で震えてるシロさん。
え? え? 嘘だよね? 嘘でしょ? シロさん?
「う……わ、わかっ……!」
「やめろ! シロ! その先を言うんじゃねえ!」
言ったら原作と変わっちゃうから! あと、そんなに痛くないから、ギリギリまで原作通りいけないか待ってみようよ! トレスが助けにくるかもだから!
「ゴメスゥウ……で、でも、ゴメスが……」
シロが泣きそうだ。シロのメンタルケアもしないとシロが折れたら話が100パー変わる!
かなりパー原作の話から変わってるけど、俺はゴメス! 1パーの可能性でも多分諦めない男!
「だーいじょうぶだ、シロ。こいつらの攻撃なんてスライムに噛まれたようなもんだ」
全然平気だよアピール。ちなみに、この世界では『蚊に刺されたようなもんだ』よりスライムに噛まれたようなもんだの方が通じる。スライム、歯がないから。
それにシロだって俺の頑丈さを知っているはず。
「ゴメスゥ……!」
ん? 知ってるよね? 俺、頑丈な事。ねえ、知ってるよね?
滅茶苦茶涙目なんだが? ああ、そうか! 演技だな。さては、演技だな。演技であれよ。
俺とシロの熱演で盗賊子分A・Bを騙すという流れであれよ!
「シロ、大丈夫だな……? 俺の言いたいことは分かるな?」
俺、大丈夫だからな。頑丈夫だからな。
「う、うぅう……うううううううう!」
シロ、大丈夫だよね!? 演技迫真だけど、迫真だよね? 真に迫っているだけで、真ではいよね!?
盗賊子分A・Bを騙す流れであれよ!
俺たちを見て……笑う盗賊子分A・B。流れであるな! ナイスゥ!
「くっくっく! シロ、早く仲間になると言わなくていいのか?」
「おっさんも強がるねえ。そんな血だらけで……その強がりがいつまでもつかな!」
いつまで? いつまでもつかな? いつまで待つかな?
は、早めに来てね! トレスぅううう!
トレス、来ません。
「はあっはあっ……くそ……これだけやって吐かないのか……!」
「思ったより、根性あるじゃねえかおっさん……!」
「う、うぅう……ゴメス……死なないで……!」
おじさん、死にません。
だが、痛いものは痛い。あと、シロの視線が痛い。それと……
「お、おい! シロ! お前、あのおっさんがどうなってもいいのか!? やっぱりお前は悪魔だな!」
「そうだ、その通りだ! 他人なんてどうでもいい。むしろ、アイツなんて死ねばいいと思ってるんだろう、クソガキ!」
「ち、ちがう……ボ、ボクは……!」
盗賊子分A・Bがシロをいじめだした。やめてほしい。これだけ頑張って時間稼ぎしてるのに、シロがトレス来る前に話し始めたらどうする。
それに……。
「う、あ、あ……ちがう……ちがう……」
シロは孤児だ。
百足蜘蛛盗賊団に洗脳のような悪の教育を受け、暗殺・盗賊・詐欺、そういった技術と、悪の心を刻まれる。まさに最悪の教育だ。
地獄のような環境で育てられ、ボロボロでいびつな心になってしまったシロ。
トレスやキアラ達と出会い仲間になってようやく人のあたたかさを知った時には、多くの罪を犯してしまっていた事に気づいた彼女は自分を保つことに必死だった。
悪ぶるシロは、まさしく悪のふりをして、自分を保っていたのだろう。
初心なくせにトレスに迫ったり、俺に金をせびたり、キアラ達に悪戯をしかけたり……原作で触れているわけではない。一読者の俺が勝手にそう解釈しただけだ。
前世で綺麗な人間も汚い人間もぐちゃぐちゃの人間も見てきた。
それに……
「クソみたいな親はどこにでもいるもんだ……っ!」
経験者は語るってな。
「おっさん、どうした? 急に何を?」
「それより、シロ! どうすんだ! やっぱりお前は見殺しにするような悪魔なのか!?」
「ボ、ボクは……悪魔……」
「違うっっっ!」
俺は、運がいい。一度目の人生はクソみたいな人生、クソ親父になにもかも歪められて育ち死に、二度目の人生はSUGEEEいっぱいの愛を、くそ親父のむさくるしい愛と母ちゃんのこうるせえ愛を貰った……と思っていた。
だけど、きっと一回目の人生も無駄じゃなかった。
だって、俺は……
「お前は悪魔でもクソガキでもない! お前は、俺たちの」
俺はコイツの事を少しは理解して、
「仲間だ!」
少しだけ褒めてやれる!
「罪の意識をちゃんと感じられて、悪ぶって、気を使って、距離を取ろうとする、やさしい仲間だ!」
俺がこの世界に生まれて一番最初に褒めてくれたのは多分くそ親父だ。
『おい、ゴメス! お前は、やさしい奴だな。ありがとよ、父ちゃんを庇ってくれて』
だから、俺は多分ちょっとだけやさしくなれた。
『いやあ、ちょっと尻を見てただけなんだけどなあ』
ちょっと道を踏み外した!
いや違う! そう言う事じゃない! 俺が言いたいのは、褒めるってSUGEEE!
人を導ける。成長させることが出来る! 強くさせることが出来る!
「シロ、お前が仲間であることを俺は誇りに思ってる!」
「ごめすぅ……!」
俺はお前の気持ちがほんのちょっとは分かるから!
俺が! お前が今まで言ってもらえなかった分だけ、褒めてやる!
「大変な人生をお前は今までSUGEEEがんばった! 偉いぞ! お前はSUGEEE!」
褒めて褒めて褒めまくって凹む暇与えてやるもんか!
「ゴメスっ……!」
だから、もうちょっと我慢しようね! 1パーにかけよう!
トレス、マジで早く来てよね! 一分でも早く!
ね!!!!!!!!!!!!!!!!!
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