第29話 その声を、KIKEEE!
『ク……! 邪魔なヤツめ!』
「それはお互い様だろう! やられ役同士仲良くしようぜ~!」
俺は闇キャルの周りを走り回りながら隙を伺いとにかく一撃入れるのを繰り返す。
ヒット&アウェイは戦闘の基本。だが、相手は毒攻撃持ち、近寄るのも命がけだ。致命傷だけは喰らわないように闇キャルの毒ナイフを持つ右手の位置・構えを注視。影の攻撃は、キアラの聖魔法である程度防いでもらってるし、多少喰らっても痛いだけゴメスの敵ではない。
「ヒナ! 麻痺毒だ!」
「はい!」
喰らったら血の噴き出る傷口をヒナに治療してもらうを繰り返す。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返す!
『アァアアアアアア! うっとおシイィイイイ!』
「うおおおっとおお!?」
闇キャルが苛立ちにまかせて放った大振りを飛びのいて躱す俺。流石ゴメスだ。トレスのチート技を解説できるくらいだ。目はけた違いにいい。
『ハアハア……無駄ダ! 貴様の攻撃では私を、この女を倒すことが出来ナイと分からないのか!』
「いや、分かってるよ」
『ハア!?』
闇キャルが目を見開きこっちを見ている。いや、なんで驚いてるの? そんなの馬鹿でも分かる。俺のショボ攻撃じゃメイン敵キャラなんて倒せないって。いや、だから、驚いてるんだよな。なんでそんなことするのかって、理由は明確。
「倒せないと無駄は一緒じゃねえからだよ! この人だよりゴースト野郎がぁあああ!」
『貴様ァアアアアアアアアアア!』
闇キャルが、いや、中の人、キングデーモンがキレ散らかして俺の元へ飛びついてくる。
真っすぐ俺の元へ一直線!
俺は……逃げる!
敵に背を向けて逃げる。それが俺だ! ゴメスだ!
そして、
「……おいしいとこはメインキャラにおまかせよ」
目ひんむいた闇キャル越しにドウラに抱えられながら力強い眼をした聖女様が見える。
「お前がやれ! ヒナ!」
「……はい!!!!! 邪よ、去りなさい! 聖光!!」
ヒナの放った聖魔法の光が闇キャルを襲う。
『ナ!? しまった……! こんなハズ、では……くそお! くそおおお! あのツルツル男ォオオオ!』
なんで俺限定なのよ。恨むならチート主人公を恨んでよ。主人公なら恨まれてもチートでなんとか出来るからさ。
俺はただのゴメスなんだって!
『グワァアアアアアアアアア……』
光に包まれていく闇キャル。そして、中の人、キングデーモン。
教会中を光が埋め尽くし、光が収まった頃には…………。
「わ、私……?」
「やったな、ヒナ。お前がやったんだ」
キャルは白キャルに戻って気絶していた。
「お前がみんなを救ったんだ。ありがとう、SUGEEEよ。ヒナ」
ぼろぼろと涙を零しながら自分の手を胸の前でぎゅっと握るヒナ。
今、ようやくヒナは、俺の褒め言葉を心から受け入れてくれたのかもしれない。
自分は褒められていい人間だと。
自分はやったんだと。自分の力で成し遂げたんだと。
褒められたいと思ったんだと思う。
「ゴメスさん……我儘いってごめんなさい。でも、ありがとうございます」
「なあに、いいってことよ! お前ならやれるって思ってたぜ!」
だから、俺は褒める。それが俺だ。ゴメスだ。
「だけどよ……なんでギリギリ生かしたの? コイツ」
白キャルさんの胸の上で死んだように静かにしている黒い染み。通称キングデーモン。
俺の言葉にびくりと染みが揺れる。ゴメスの目は誤魔化せないぜ! ていうか、原作にそういう描写あるし。
「散々迷惑をかけたこの魔物にはたっぷり償いをさせようかと思いまして……ね?」
ヒナがキングデーモンから奪った黒い魔力の手を頬に当てながら妖艶な笑みを浮かべている。こわい。ぶっちゃけ、こわい。めっちゃちっちゃいキングデーモン、いや、菌グデーモンがなんか言ってるけど小さすぎて聞こえない。
まあ、ヒナにまかせるとしよう。ゴメス怖きに近寄らず。
と、その時だった。
「【ペースト】! ……は! ヒナ、ソイツは……! オレに任せろ! ヒナは危ないから近寄るな! 君を傷つけさせない! 喰らえ! 魂コピー、からの、一撃ぃいいいい!」
『ァ……!』
「「「「あ」」」」
しんだ。突然現れたトレスによって、菌グデーモンが除菌された。
トレスのチート超クソデカスキル攻撃で消し飛んだ。
「ト、トレス……お前……」
「ヒナ……! 無事でよかった。もう大丈夫だからな!!!!」
「あ、はい。もう大丈夫です」
しんでいる、ヒナの表情、しんでいる。
ゴメス、心の一句。
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