第28話 俺、SIBUTEEE!

『グゥ……! おのれ! 』


 残りカスみたいなキングデーモンが吠えている。

 正直、もうゴメスでも倒せるんじゃね? レベルだが油断は禁物。

 俺は後ろに下がって、二人に任せることにする。


「頼んだぜ」

「「まかせて(ください)!」」


 ハモった。そして、向かい合った。


「ヒナ、あんたはまだ聖魔法に慣れてないでしょ、アタシがやるわ」

「いえいえ、聖魔法慣れてないからこそ練習でトドメをやらせてください」


 二人が手柄を奪い始めた。もう正直、結構眠気が限界でどっちでもいい。

 どうせ原作改変丸つぶしだ。作者激おこぷんぷん丸案件だろう。

 トレス帰ってこねーし。

 もう、あのちっさいキングデーモン早く倒してほしい。そして、寝たい。


「おい、さっきから何を騒いでおる! ヒナは無事、か……?」


 ドウラが入ってきた瞬間、キングデーモンの小さな口が真っ赤な三日月を作り嗤う。


『ほう……いい身体があるではないかあ!』


 そう言ってキングデーモンは入ってきたドウラに……!?


「ふん!」


 シバかれた。そして、地面に叩きつけられた。身体に入らなければ小さいキングデーモンは敵じゃない。

 その時だった。


「あ、アアアアアアア!」


 ドウラの足元の影から赤髪の女が現れて叫んでいた。ええ!? なにどういうこと!?

 っていうか、あの女どっかで見た事がある! あの、あれ、なんだっけ? ほら、あれ!


『クハハハハ! まさか、影に潜むことの出来る者がいたとは! 私にぴったりではないカ!』


 キングデーモンがあっという間に女を取り込み、彼女の肌を浅黒く染める。ギャルだ。

 赤髪の日焼けギャルだ。ギャル……?


「あ! キャルだ!」


 思わず声を上げてしまう。っていうか、思い出した。あの女の名前。キャル。この後始まるシロの盗賊団編で深くかかわってくる重要キャラ。シロが昔所属していた盗賊団【百足蜘蛛】でシロがいなくなった後、エース的な存在になり、相方と偶然偵察でやってきた街でシロを発見。シロが盗賊団に戻ってきたらまた自分の立場が危うくなるかもと思ったキャルは相方にアジトに帰らせてシロの動向を見張り、嘘の報告をし、シロを捕らえるとかだったはず。


 あんまり覚えてない。だって、このくだり、作者がめんどくさがったのか。あまり詳しく書かれてなくて数行の説明で終わってたんだもん。

 ただ、影を操るスキル持ちだったのは覚えている。それと……。


『ほう……この女、毒の使い手カ……ますます良イな』


 闇キャル(CV:キングデーモン)が見るからに毒っぽい緑色のナイフを振り回している。


「おい! これは一体どういうことじゃ!?」


 いつの間にか闇キャルから離れたドウラが俺に話しかけてくる。


「わからねえよ!」


 だって、原作にないもん! キャルとキングデーモンが出会うなんて! 考えうる限り最悪の相性だし!


「ただ! 俺の知っている情報だと、あの女は影に入ったり影で攻撃出来たりする影操作のスキルと毒スキルの使い手だ! 毒も普通の毒だけじゃなく、麻痺毒や腐り毒と色々使いこなしてくる! 不用意に近づくな!」

「流石ゴメス……そんなことまで知ってるなんて」


 はずコピ〇ムチャでよかった。なんでも物知りで済むのマジで助かる。

 しかし、どうしたものか……。原作では、こんなパワーアップしていない。

 本来なら人一人分程度の影しか操れないはずが、めっちゃ影がうにょうにょしてる。

 物は持たせられないから毒ナイフの心配はしなくていいが、それでも脅威だ。


 原作ではまだ戦わない。もっと後のはずなんだ! くそう! 原作なら、シロ百足蜘蛛編でトレスと夜の一線を越えたヒナが覚醒して聖魔法が使えるようになってそれで影は撃退できたのに!


 ん? 聖魔法?


 耳をつんざくような高音が響き渡り、闇キャルの影の攻撃を防ぐ。


「大丈夫!? ゴメス!?」「ゴメスさん!」


 あ、つかえましたー。しかも、二人も使えましたー。

 もう原作と順番がごっちゃになってるんでわけわかんなくなってたが二人も聖魔法が使えた。 ん? じゃあ、トレスとヒナが致して覚醒するシーンは? もうないの? ん?


『おのレェエエエエ! 邪魔するナ! もう辛抱たまらん! 人を殺させロ! 皆殺しダ! 皆殺しさせろぉおおおお!』


 緑色ナイフぶんぶん丸の闇キャル、激やばな絵だ。いや、絵だけじゃない。正直ヤバい。

 あのナイフだけは対抗する方法が……原作だとトレスが、毒を喰らったら毒が血をめぐって身体中に回る前にその部分を切り落として、コピペしてた。流石チート。


 だが、今、出来ることは……。


「ゴメスさん……!」


 こちらを見たヒナを影が襲う。俺は慌ててヒナを抱えて逃げる。ふはははは!

 逃げ足と身体の頑丈さと怪我の痛そうな感はチート級よお!


「ヒナ、大丈夫か?」

「ゴメスさん、私、あの魔物を止めたいです。皆殺しにするって……そんなこと絶対に許せません!」


 ヒナが俺に抱えられたまま、俺をじっと見つめてくる。その瞳は前までとは比べ物にならないほどに強い意志が宿っているように見える。なら、出来るだけ叶えてやりたいのが男ってもんだ!  俺にあるのは、原作知識と〇ムチャ的ゴメススペック。逃げ足と身体の頑丈さと怪我の痛そうな感!


「……あー、そうか」

「ゴメスさん?」


 俺は自分のツルツル頭を一度パシャリと叩く。方法はある。

 あるなら……やるしかない。


「いいか、ヒナよく聞け」

「……え? ……そんな!?」

「ヒナ、俺たちはトレスみたいななんでも出来るバケモノじゃない。だから、何かを犠牲にすることは必要なんだよ。それが責任や覚悟ってもんだ。だから、行くぞ!」


 俺は、作戦を止めようとするヒナの腕を振り払い、駆け出す。

 狙いは、闇キャル!


『クハハハハ! 多少素早いかもしれんが、攻撃力がほとんどない貴様に何が出来る!?』


 闇キャルが持っている毒ナイフの色が変わる。赤緑! 確か……。


「腐り毒か!」


 あれを喰らえば、肉が腐り始め、毒が回れば全身がぐちゃぐっちゃに! まあ、トレスは関係なしに脚を切ってコピペしてたけど! 俺の素早さを生かした一撃が闇キャルに入る! どうせ敵だ容赦はいらない!

 だが……。


『弱いナ……お前は……』


 俺の一撃ではトレスみたいにぼがーん出来ず、闇キャルが笑ってナイフを振りぬく。


「ぐぬうう!」


 なんとか出した腕を犠牲にナイフを躱す。噴き出る血。


『ハハッハア! 腐って死ネ!』

「ぐぎいいぃいいい! ヒナァアアア!」

「はい! 解毒光!」


 ヒナの魔法がピンポイントで俺の傷跡を覆い、毒を消し去っていく。

 痛みとかゆみがびりびりと俺の腕をしびれさせる! 俺の身体は腐ることなくそのまま。


「ふうぅ……ふぅう……よっしゃあ! いけるぜ! まだまだぁあ!」

『な、何故だ!?』


 俺のチート能力。いや、血―ト能力のお陰だ。傷つけられた場所から速攻血液ぶっしゃあで毒素を飛ばす。完全にそれで洗い流せなくても多少は効果があるはず。そして、ヒナに適切な解毒魔法を掛けてもらい治療。本来の解毒魔法は、『ぜーんぶ毒なくなーれ』という荒業魔法で結構身体への負荷が凄い。だが、ヒナは前もって毒の種類が分かればピンポイントで治療できる。これが俺の作戦!


 まあ、正直、俺の血ぶしゃあが本当に意味あるのか分からない。これはただの理由づくりだ。俺が前に出るための。俺はゴメス。物語のわき役。それに比べ、アイツらはヒロインズ。物語にはなくてはならない存在だ。


 いや、違う。


 俺は、自分の意志で動き出したヒロイン達を死なせたくはない。彼女たちの努力が、勇気が、意志が報われてほしいだけだ。


 それにゴメスならなんとかなるなる! チート主人公みたいになんとかできなくても、生き残るだけならなんとかなるかもしれない。しぶとく生き残るのがゴメスだから!


「へへ……だからよお! この泥仕合に付き合ってもらうぜ! やられ役さんよお!」


 こんなわけわかんないヤツらにコイツらやられてたまるかよ!

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