第27話 その展開、NEEE!
「私の……人生……?」
ヒナがきょとんした顔で俺を見ている。理解が出来ないという顔。
そりゃそうか。そりゃそうだ。
この世界を生み出した神様はトレスの為だけの、トレスを中心に回る世界を作っているんだから。
だけど、何故かどうしてか俺を、この世界を理不尽に感じる俺を、この世界に作り出したヤツがいる。そいつの目的も、俺である理由も分からねえ。
だけど、俺が俺を、ただのゴメスではなく、この世界の秘密を知るゴメスとして生きていいなら、俺が【はずコピ】男性キャラの中では一番好きなやられ解説〇ムチャ、ゴメスならこうする!
「そうだ! お前が、トレスAGEの為のただのトレス全肯定お姉さんとして神様に生み出されたとしてもお前がそれに従う義理はねえ!」
だって、俺たちは今生きているから!
「好きにやれや……! 尻ぬぐいはおっさんの仕事だ」
「ゴメスさん……」
都合の良い解釈を、おっさんの妄想爆発していいなら、ヒナの瞳に光が宿った気がした。
生きてる人間の輝きを、光の揺らぎを感じた。
俺は手を握ったまま、ヒナを待つ。
褒めると甘やかすは違う。褒めるのはその人間のすることやしたことを正しく評価することだ。だから、俺は待つ。ヒナを待つ。ヒナが動かなきゃ褒められないから。
「私、は……」
「俺に褒めさせてくれや! ヒナ!」
「私は!」
黒く染まったヒナの手だけど、そこには操られている様子はない。
ぎゅっと握った手は熱く力強い。思わず笑いがこぼれてくる。
立ち上がる為に力を貸せとぐいと引っ張ってくる。誰かの為ではなく自分の為に、自分がこれから褒められるために力を貸せと。
そりゃそうだ。褒められたいよな。
お前は生きているんだから、認められたいよなあ!
俺が思い切り引っ張るとヒナの身体が伸びて引き寄せられる。
浮いた身体。地面をしっかり踏みしめる足。上げた顔。
そこには絶対に彼女の意志が宿っていて、
「ヒナ、KAKEEEよ、お前」
自分の意志で立ち上がった彼女はかっこよかった。
「ねえ、アタシもいるんだけど……」
WASURETETA
ヒナと繋いだ手の方の逆の手はキアラと手を繋いだままだった。
キアラちゃん、SUGEEE力入れ始めた。いたいいたい。
「キ、キアラのお陰でヒナが立ち上がれたんだ。キアラも勿論かっけーよ?」
「そ、そう、ならいいけど」
いいらしい、よかった。
「アタシとヒナどっちがかっけー?」
よくなかった。
「い、いや、こういうのは競い合うものではなく、な?」
「個人的な意見でいいから。ねえ? ゴメス? どう思う? アタシの方がすごくない? アタシの方が先に指輪貰ったし」
それ今関係ないよね!? 何、先にプレゼントもらったマウントとろうとしてんの!?
キアラの負けず嫌いがとどまることをしらねえんだけど!?
「うふふふ。こういうのに後も先もないわ。気持ちがこもっていればいいのよ」
ヒナさん、いいこと言う! よかった!
「で、どっちのプレゼントの方が気持ちこもってますか?」
よくなかった。
「いやいやいや! おかしいだろ! なんで俺のプレゼントで争ってるの!? え!? 何!? 二人とも俺のこと好きなの!?」
こういう場合は茶化すに限る。で、「そんなワケないでしょ!」でオチ。
もし、仮に万が一、ダイスキーになっていたら、ガチで距離をとろう。大体チョロインのチョロさは一般非モテ男性からすればメンタルもたねえ。普段生活してても、俺のお出かけ中に急に謎にオークに襲われて謎のチートに救われてネートられたらどうしようっていう妄想で一日脳が破壊され続けるなんて絶対に嫌だ!
ヨシ!
この「俺のこと好きなの?」質問の選択いずれにしても、俺の心の安全ヨシ!
俺が手を繋いでいる二人を見ると、
「べ、別に……ちょっと、尊敬してるだけだし……」
「うふふ、どういう意味かの好きによりますが、好きは好きですよ、ゴメスさんのこと」
ヨシなぁぁああああああああい!
着実に、積み重なり始めてるぅうううううううう!
選択を選択しない、だと……!
「ゴメスさんは、何気ない行動でも細かく褒めてくださいますし、女性がやって当たり前とは思ってないですから。それに褒め言葉もすごく丁寧ですし」
「そうなのよね。そこまで見てくれてるんだ、気づいてくれてるんだってことをゴメスは言ってくれるし、毎日アタシのいいところを見つけてくれるのよね……それはほんとすごいなあっておもう」
き、き、きもちぃいいいいいいいいいいいいい~!
美女・美少女に褒められるの気持ちいい!
ありがとうございますありがとうございます! どこに課金すればよろしいでしょうか。
ピンクのドンペリニヨンはいりまぁああああああす!
「悪口言わないですし」
言ってまぁああああああす! 心の中ではすっごく言ってまぁああす! でも、口には出しません! 大人ですからぁああ!
「どっかの誰かみたいに距離感おかしくないし」
おいいぃいい! どっかの誰か主人公! 距離感バグってるのバレてるよ!
確かに俺もあの距離の詰め方はただものじゃねえなと思ってた。
転校初日にちょっと喋っただけで「オレたちもう友達だろ?」って急に上から友達ヅラしてきた前世の知り合いとそっくりだった。
「ああ、そうですね……あの人は無自覚で人の自慢を潰しますし」
おぃいいいい! どっかの誰か主人公! 無自覚エラーバレてるよ!
目の前で人の特技の上いっちゃうもんなあ……。
転校二日目に、クラスメイトに『私、お母さんに教わってチーズケーキ作れるようになったの』って言われて『え? オレ、お母さんに教わってないけどチーズケーキも普通のケーキもなんでも作れるよ』って言って女子を泣かせた前世の知り合いとそっくりだもんなあ。
「その点、ゴメスはえっちなこと言ってくるけどその割には手を出さないし、話しやすい距離で話しかけてくるし」
「こちらが不快になるような話題の振り方はしないですし、むしろ、褒める方向に会話を進めてくれますし」
ああぁああああああああああ! ごめぇえええん! トレス、ごめぇえん!
主人公より褒められるのちょっときもちぃいいいいいい!
だが、大丈夫だろうか。マジで原作無視して大丈夫だろうか。
眠気に負けて楽しんじゃってたが、一回心のエクスタシーを感じたら落ち着いてきてしまった。ゴメスメンタル賢者と化してしまった。
何かすべきじゃないのか! 原作の為に!
「でも、キアラも本当に凄いわ。いつも努力しててまさか聖魔法まで覚えるなんて……。それに、健気というか、人の為にこっそりいいことしてあげてるのがかわいいわ」
「そんな……それはヒナがいっつも色んなケアをしてくれてるからよ。ヒナが支えてくれるって分かってるから頑張れるっていうか、ヒナの優しさにいつも救われてるわ」
まあ、いっかぁ。ヒロインお互い褒め合うのかわいいし。
「で? ゴメス、どっちがよりすごい?」
「そうですね、意見を今後の参考に」
よくないっかあ。ヒロインすごい圧かけてくるし。
『ガァアアアアアアアア! ワタシを無視するなあぁあああ!』
俺が握っているヒナの黒い手が叫び始めた。キングデーモンさん! まだ頑張ってたのね!
「うるさいですね。今、いいところなので、もう黙っててください」
そう言うとヒナは、黒い手を美しい白い魔力の光で包んでいく。
『ギャァアアアア! これハァアアア!?』
「聖魔法です。キアラの魔法を見たことと、このペンダントに込められた力で完全に理解しました」
うん、そのペンダントに込められた力に気づいて覚醒するイベントはもうちょっと後のはずだったんだけどね。
「この聖魔法で貴方を倒します」
ヒナの聖属性の魔力の輝きが増していく。
うん、そんな展開原作にはないんだけどね。
「いえ……折角ですし、私がもっと褒められ……成長するために、その力を頂きましょう」
ヒナが黒く光る魔力をコーティングするように聖属性で包む。
うん、そんな展開原作にはないんだけどね。
『ギャァアアアア! ワタシの闇の魔力が……奪われるゥウウ』
どうやらキングデーモンの魔力をヒナが奪ったらしい。
うん、そんな展開原作にはないんだけどね。
「ああ、貴方の意志は必要ありません。出て行ってください」
そして、キングデーモンの残りかすのような黒い塊が手から飛び出していく。
うん、そんな展開原作にはないんだけどね。
ヒナが目に強い光を宿し、笑う。
「この身体は、心は私のものです」
うん、そんな展開原作にはないんだけどね。
でもいいじゃないか。たとえどんな物語のどんな取るにたらないようなキャラクターも生きているんだ。物語の中にいる俺から見れば。
だったら、出来るだけ素敵に生きてほしいと思うのは間違ってはいないだろう。
俺は自分の意志で立つと決めたヒナにこれからもエールを送り続けると心に誓った。
「で? 闇の力を手に入れた私と」
「聖魔法を覚えたアタシ」
「「どっちがSUGEEE?」」
うん、そんな展開原作にはないんだけどね。
負けるな、俺! 一番応援してる!
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